KAC20241 泣きじゃくる彼女。なあ、その男は誰だ?

久遠 れんり

静かなる修羅場

 おれには三分以内にやらなければならないことがあった。

 そう救命活動。


 一般的に、心停止から三分がリミットと言われている。

 血流が止まると、ダメージが到る所に出るため、何もしないと助かる確率は十パーセント程度となる。むろん脳への傷害なども残る可能性がある。

 そのため、最近ではAEDが色々なところに設置されている。


 事故で心停止の場合は、心臓マッサージとかが重要だ。


 そして俺は、救急救命士。病院前救護と言って医療機関に搬送するまでの間、傷病者に対して、適切な応急処置や救急救命処置を施すのが仕事。


 ――だがなあ、目の前で泣きじゃくるのは、たしか俺の彼女である薄幸沙知はくこう さち

 今朝家から出るとき、明るく見送ってくれた。

 そう、彼女とは同棲中。


「患者さん狭間活哉はざま いけやと言うお名前ですが、名違いありませんか?」

「はい、そうです」

 彼女は泣きながら、手を握っている。


「ご関係は?」

「家族です」

「えっ? お名前は?」

「沙知です」

 彼女の免許証は、見て知ってる。


「状況を教えていただけますか?」

「あっはい。ホテルから出て、そこに丁度車が突っ込んできて、彼が私をかばってくれたんですが、もろに撥ねられちゃって」

 その時、心停止のアラートが鳴り響く。


「あのホテルって、休憩のあるホテルですよね」

「いやあの、今ピーって」

 ちっ、細かいことに気がつきやがる。


「ああ、心停止しましたね。大丈夫ですよ。まだ死んでいませんから」

 一緒に乗っている救急隊員が、気がついたのかオロオロし始める。


 今乗車しているスタッフ三人の内、救急救命士は俺だけだ。

 他の奴らは手が出せない。

 病院までは、もう少し。


 心臓マッサージくらいはしよう。

 法的にまずいからな。


「家族って、旦那さんですか?」

「えっ。はいそうです」

「へぇー」

 自分でも、どこから出したのか判らない声が出た。


 心マッサージを片手でしながら、マスクを降ろす。

「沙知。こいつ誰だって」

 俺の顔を見て、固まる彼女。


「えっ? 知らない人」

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KAC20241 泣きじゃくる彼女。なあ、その男は誰だ? 久遠 れんり @recmiya

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