三分間の不在証明

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三分間の不在証明


 僕には三分以内にやらなければならないことがあった。


 つまりこういう事だ。


 僕が山田を殺した時に不在証明アリバイが欲しいのだ。それに必要な時間が三分ってことだ。


  殺す理由? 


 そんなものはどうでもいい。ちょっとウマが合わなくて、お互い負の感情が膨れ上がったと思ってくれ。


 とにかく僕は完全犯罪にしたいのだ。山田のために捕まるなんて真っ平ごめんだからね。


 さてその計画だ。


 校舎四階の教室で犯行を行ったあと、すぐに中庭にいたらどうだろう。


 四階から中庭まではぐるっと廊下をまわって階段を降りて、それから渡り廊下を使って回り込むから走っても三分以上かかる。それに中庭ではアリバイづくりにちょうど良い文化祭のイベントをやっている。


 それから四階での犯行は目撃されたほうが良い。


 顔を隠して山田を殺し、その後姿を消す。


 犯人の目撃時刻の後、三分以内に中庭のイベントに参加してたらアリバイ成立だ。


 ただ何もせずに走って逃げたら誰かに捕まるかもしれないし、そもそもアリバイ工作にはならない。だが僕には三分以内に中庭に誰にも見られずに行く算段がある。


 そう、ダストシュートだ。


 廊下の端に設置されたゴミ集めの為のダストシュートは、各階のゴミを投げ捨てていたが危険防止のために今は使われていない。


 僕はさりげなくダストシュートの小さな扉を開けてみた。黄色と黒のガムテープで留めてあるだけで簡単に開いた。かがめば潜り込める。


 中を覗くと、壁は垂直に近いが少しだけ傾斜がある。滑り降りるのは勇気がいるが山田への殺意の方が強かった。


 次に出口の方を調べに行く。


 こちらはゴミの集積所なので大きな扉はすぐに開いた。ちょうど文化祭の準備で出た紙ごみが大きなビニール袋に詰められてたくさん置いてある。


 僕はその袋をダストシュートの出口に運んで積んでおいた。これでクッション代わりになる。


 よし、実行は明日だ。


 僕は手に入れた包丁と覆面、それと手袋を使い、四階の教室で山田を殺害した。


 悲鳴の上がる中、廊下に逃げてダストシュートの入口を目指す。素早く潜り込むと勢いよく滑り降りた。


 着地も上手にできたが、いつの間にか他のゴミも置いてあった。その上に落ちたのはしょうがない。


 覆面と手袋と凶器をまとめてその辺のゴミ袋押し込むと、何気ない顔でゴミ捨て場の外に出る。


 中庭はすぐ目の前だ。


 みんなイベントに気を取られてて僕には気づかない。


 時計を見ればなんと二分以内の犯行だった。


 だが今のうちにアリバイを作っておかなければ三分を超えてしまう。


 僕は近くにいた生徒に声をかけた。去年同じクラスだった掛川だ。


「なあ、次のライブ誰が出るの?」


 掛川は僕の方を振り返ると、顔をしかめた。


「田山じゃないか。どうしたんだよお前? ダストシュート通って来たみたいな匂いがするぞ」



 完

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