ミッション [KAC20241]

蒼井アリス

ミッション


 レオンには三分以内にやらなければならないことがあった。


 ターゲットの位置の確認、逃走経路の確保、そして確実にターゲットを仕留め、逃走経路に最短距離でアクセスできるポジションを見つけること。これらすべてを三分以内に終わらせなければこのミッションは失敗してしまう。


 まずはターゲットの位置の確認。

 ターゲットは現在目視で確認できている。この距離なら十分に届く。


 次に逃走経路の確保。

 この位置からだと左前方に出口がある。ターゲットと出口の間には障害物が一つあるが、何とかかわして出口に辿り着けそうだ。


 最後にターゲットから身を隠すことができ、かつ、仕留めた後に出口へ最短距離でアクセスできるポジションを見つけることだが、これが一番難しい。ターゲットの死角に入る場所はさほど多くない。その中から条件に合う場所となると数か所のみだ。

 レオンはその中でも一番条件の良いポジションに身を潜めてミッション開始時刻を静かに待った。


    ピー、ピー、ピー、ピー


 けたたましい音が鳴り響き、ミッション開始が告げられた。


 レオンは身を潜めていた場所から素早く飛び出しターゲットに飛びかかる。

 ターゲットを仕留められるかどうかが決まる緊張の瞬間。


 よしっ! 無事ターゲットを仕留めた!


 この後は障害物をかわし出口へと辿り着き、逃走すればミッション成功だ!

 そう思った瞬間、レオンの身体がふわりと浮いた。

 必死に足を動かしたが宙を蹴るばかりで身体は一向に前に進まない。


「くそっ! 出口はすぐそこなのに!」


 レオンは今回のミッションの失敗を悟った。



    ****



「こら、レオン。人間の食べ物はお前には毒だと何度も言ってるだろ。いくらカップラーメンの謎肉が美味いからって、俺のカップラーメンを物陰から狙って食べようとしてもダメだよ。お前の行動は全部お見通しだからな」


 レオンの身体は飼い主の腕の中にスッポリと収まり、口に咥えていた謎肉も飼い主にあっけなく取り上げられた。


「飼い主め! 俺は絶対諦めないぞ! 次こそはミッション成功させてみせる!」


 レオンは飼い主に向かって怒鳴り散らしたが、飼い主の耳には「にゃー、にゃー、にゃー!」と甘えるような鳴き声にしか聞こえていなかった。



 End

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ミッション [KAC20241] 蒼井アリス @kaoruholly

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