私は三分以内に天使にならなければならない

いずも

照明、騒音、舞台袖にて

 私には三分以内にやらなければならないことがあった。

 それすなわち、天使になること。私は地上に降りた最後の天使なのだ。



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 いや、物語の主人公を気取っている場合やない。

 無いの、無いんよ。舞台衣装の小道具がどこ探しても見つからへん。

 リハの時にはあったから持ってくるんを忘れたわけやない。

 ワイ、いっぺん電車の網棚の上に小道具を置き忘れたことがあって「天使が脱皮した車両」とか噂になってから紙袋に入れて持ち歩くの止めてん。でも伊○丹の紙袋めっちゃ丈夫やねんな。キャリーケースとタメ張れるで。ていうかなんでオカンってあんな必死に百貨店の紙袋集めるんやろな。ビンゴゲームでもやっとるんか。今日は伊勢○、昨日は○急行ってきたから後は大○でビンゴ達成、景品はG○○gle Playギフトカードです~ってそこは商品券ちゃうんかい! ってね。



 あかん一人ツッコミしてる場合やない。今舞台にる奴がネタに入ったわ。

 えーっと、こういう時は今までの状況を再現したらええんや。


『再現VTR、開始』

『アンタ何言うてはりますのん。VTRってビデオテープレコーダですやん、今どきの若い子は巻き戻しとか知らんって!』


『いやホンマや。ウチ今どきの言葉に疎くてなぁ』

『今はVの一文字で再現Vって表現するんやて。知らんけど』


『へーそうなん。ウチVって言うたらVtuberしか知らんわぁ』

『いやアンタの方が詳しいやないか! もうええわ』


 いやいや脳内漫才やっとる場合やない。

 確かキャリーケースん中からピンクのジャケットとピンクのホットパンツ出して、ほんで着て来たピンクのジャケットとピンクのホットパンツ脱いで着替えたんよな。

 いや改めて言葉にしたら自分でも頭おかしなったんかって思うわ。なんの意味があるんやそれ! 目立たないように地味な私服から派手な衣装に着替えるんはわかるで、普通やん。

 ピンクからピンクは擬態でも何でもないんよ! お色直しですらないやん! 変な髪型のカツラ被ってた加○諒状態やんけ。変な髪型のカツラを取ったらおんなじ髪型が現れるんよ。マトリョーシカか。


 自分の奇行に自分で驚いとる場合やない。

 ほんで服を仕舞おうとしたら小道具とかの一式を出してないことに気付いて取り出したんよ。だからちゃんと持ってきとったし、あるんも確認した。今もまだこの手には感触が残っとるで。体にぴったしカンカン、よ~ぉ馴染んどったわ。

 ――そう、あの天使の羽根が。

 そうそうそう、こうやって背負ってね、体も心も姿勢シャーン! ってこれランドセルやん! ラランラン ランドセルはー ててんてん てんしのーはーねーってやかましいわ。探してるのは本物の天使の羽根や。


 ん、なんやおっさん。

 いや、ちゃいますよ。本物の天使なんておらへんって。天使の羽根も小道具の一種ですやん。何や急にマジになって。この一瞬でIQゼロになったんか。

 ん、天使が脱皮した車両ってどうなったって? 多分ド○キで買ったパーティーグッズちゃうかって言われてたんよ。こちとら20万円かかった完全オーダーメイドの羽根じゃい。どこぞの酔っ払ったおっさんが天使降臨とかやってSNSに撮られてたん見て「ワイのーーーっっ!!!」って叫んだもん。

 あれ、おっさんどっかで見たことあるな。えっ、もしかしてSNSでバズってた天使降臨のおっさん……?

 いや違うんかい。緊張感返せ。



 あっ舞台の方もオチに向かって伏線回収し始めたやん。やばい、もう時間がない。

 思い出せ思い出せ。ええっと、そうそう、確か羽根がしなびてるからドライヤーで乾かしてフワッフワにしてやろうと思って楽屋でドライヤー当てて……ハンガーに吊るしたまんまや! よっしゃ思い出した!

 ほーら置きっぱなしや! たとえ楽屋泥棒が入ってきてたとしても「なんやこれ、こんなもんいらんわ」って見逃されてたやろうな。いや20万やぞ。これでバズれるんなら20万円なんて安……くは、ないかぁ。


 よっしゃこれで――いや待てよ。輪っか、天使の輪っかが無い。

 あれはキャリーケースに入れたらグッチャグチャになると思って手に持って、電車に乗って、ああちょうどええ高さにあるわって網棚に置いて……思いっきり忘れてきたわ! またやん! また天使出没するやん! あれ単体で見たらただのUMAやんけ! 今頃は環状線の四天王寺駅でも彷徨ってんかなぁ。


『空中に浮いてるように見えるからUFOと間違われるやろか』

『アンタ! 今時はUFOやなくてUAP、未確認空中現象って呼び方が主流やで』


『へー、それやったらピンク○ディーの曲名も変えなあかんねぇ』

『uuu……ユゥエッピッ! めっちゃ言いにくいわ』


『ヤ○ソバンも名前変えなあかんねぇ』

『UAP仮面ヤキ○バン! って普通に焼きそばの方でええやん、なんでそんな古のネタ引っ張り出してくんねん。今時のネタわかっとるキャラはどこいったんや!』


『時間が経ったから芯が無くなってブレてしもたんやろか』

『ブレるんは芯やのうて軸やろ。おっと、これ以上伸びたらマズくなるわ。麺も話もコシが大事やもんね。もうええわ』


 いやいやだから脳内漫才やっとる場合やないって。

 うわー、しゃーない。もう輪っかは諦めた。ナシやナシ。

 ワイはアイアムゴッドチャイルドや。この腐敗した世界に堕とされた20万円の最後の天使。楽屋から舞台袖までの通路が狭すぎて羽根が傷つかないようにカニ歩きする天使なんや。


 なんやおっさん、そんなニヤニヤしよって。

 えっ、ちょ、ちょっと待ちぃ!

 その手に持っとる円形状のそれはもしかして――――


 UF○焼きそばかいっ!

 三分経ったんや良かったね!



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<えー、そんな感じで切羽詰まって天使の輪っかを無くした天使ネタで乗り切ろうとしているピン芸人のゾフィーさんです、どうぞ~>



 な  ん  そ  れ  !

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