おっさんサラリーマン、三分間の戦い

ゆる弥

おっさんサラリーマン、三分間の戦い

 そのおっさんサラリーマンには三分以内にやらなければいけないことがあった。


 会議まであと三分、この部屋から会議室までは走って三十秒だ。


 しかし、会議資料は今できて印刷するところ。印刷にはこの量だと二分を要する。


 その間に、トイレ・・・に行かなければ!

 この状態だと会議中に尿意をもよおしてしまう。絶対に行っておいた方がいい。


 ただ、トイレまではフロアの端まで行かなければいけない。

 走ってトイレに入るところを見られたら笑いものになりかねない。


 この迷っている間もタイムロスだ。行くぞ!


 動き出した。部屋を出る時は颯爽と何事もなかったかのように出る。

 フロアの廊下には人はいない。


 今だ!


 ちょっと小走りをし始めた。

 この調子なら早くトイレにはつきそうだ。


 あぁっと! 総務の瑠奈ちゃんだ。

 颯爽と歩きにシフトする。

 時計の針は三十秒経っている。


「あっ、佐藤さん、お疲れ様です!」

 

「おっ! お疲れさまー!」


 颯爽とスルーする。瑠奈ちゃんは捕まると長い。トイレまではもうすぐだ。ちょうど男子トイレから誰か出てきたぞ?


 部長じゃないか!

 なんでこんな時に!


「部長! お疲れ様です!」


「おぉ! 佐藤くん、今回の会議期待しているからな! 資料はどうだ?」


「バッチリです! もうすぐ会議が始まりますので、失礼します!」


「おぉ! やる気に満ちていていいな! アッハッハッハッ!」


 なんでこんな時に部長に会うんだよ。

 タイムロスした。

 部長はいつも会議に遅れてくるから余裕だが、こっちはそうもいかないんだよ!


 便器に駆け込む。

 誰もいない。

 よし。


 用を足して鏡の前で手を洗う。

 早く行かないと。

 鏡越しに自分の股を見ると、グレーのスーツにジワッと滲むものが。


 ヤバイ!

 こんな時に尿漏れかよ!

 慌ててハンカチで拭くが広がって悪化。


 慌てて最後のひと絞りが足りなかったんだ!

 くそっ! なんてことだ!

 こんなので会議に出席したら笑われる。


 時間が無い!

 残り一分! 小走りに戻る。

 誰にも会わなかった。ラッキー!


 営業周りで汗をかいた時のタオルがあったはずだ。カバンからタオルを探す。

 真っ白いタオルがあった。


 慌てて股を拭く。

 ダメだ。このままじゃ会議に間に合わない。

 腰にタオルをまきつけて、女性がよくやるブランケット風にしてフロアを駆け抜ける。


 資料をとって会議室にダッシュ。


 やばい。息が上がってる。


 会議室前で息を整えて会議室へ入る。


「ん? 佐藤、そのタオルどうした?」


 係長に聞かれてしまった。

 そりゃ不自然だもんな。


「えぇーと、ちょっと寒くて?」


「ブランケットのつもりか? お前暑がりだろー!」


「そうですねぇー! はははっ!」


 構わずそのまま座る。


「なんかタオルに黄色い染みついてるけど?」


 今度は隣の席の同僚に指摘された。


「あー……あぁ! これな、コーヒーこぼしちゃってさ! ははははっ!」


「やだぁ! 気をつけなさいよぉ!」


 なんとか任務を遂行した。

 

 おっさんサラリーマンはいつも尿と時間と戦っている。

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