第二三話 変わり果てた故郷
鎌倉での戦が全て終わり、登子は鎌倉に戻っていた。
しかし———
赤橋登子
(輿の中から見える景色でもわかる、この惨状。もう、私の知っている鎌倉ではないのね。そして、そのような景色にしたのは、我が息子を総大将にした軍。)
そのようなことを思いながら千寿王がいる屋敷へと向かっていくと、人だかりができているのが見える。その人だかりは、廃墟となった中を進んでいく登子や頼子等を乗せた輿倉での戦が全て終わり、登子は鎌倉に戻っていた。
しかし———
赤橋登子
(輿の中から見える景色でもわかる、この惨状。もう、私の知っている鎌倉ではないのね。そして、そのような景色にしたのは、我が息子を総大将にした軍…。)
そのようなことを思いながら千寿王がいる屋敷へと向かっていくと、人だかりができているのが見える。なんだか嫌な予感がして、輿の側で付いている郎党に聞いた。
郎党
「あぁ、あれは北条邦時ですよ…。昨日だったかに新田方に捕まったとか。ひどい話ですよ。全く。共に脱出した母方の五代院氏の叔父に、恩賞目当てで新田方に売り飛ばされたそうでございます。」
赤橋登子
「そう…。不運だったわね…。可哀そうに。」
とは言うものの、登子にもこれはどうしようもできない。高時の直系の男児で、しかも元服済みである。
いずれ次の執権になっていたであろう、幼さの残る少年。しかしその血がゆえに、民衆の目にさらされながら、手足を縛られたまま、鎌倉の街を引き回されるという屈辱を受けたうえで、哀れにもその首は無慈悲に胴体を離された。
唯一心が救われるのは、登子が後に聞いた話によれば、邦時は最期まで自分を売った五大院氏の叔父への恨み節を言うこともなく、毅然とした態度で刑に臨んだ、ということだけであった。
逗子にて——
今川高子
「そう。足利の当主様の御台様(赤橋登子)と嫡男様が永福寺に…。御台様ならば、もしかしたら助けてくれるかもしれない。」
高氏と共に京へ向かって、そのまま戦死してしまった、名越高家の妻である今川高子は、名越切通しを通て鎌倉から逗子へと避難していた。
名越高邦
「母上…。まさか足利の庇護の下で生きるおつもりでございますか!?あの裏切り者の憎き足利の!」
今川高子
「弥太郎(高邦)…。」
長男の高邦の言葉に対し、高子は苦しそうな顔をする。
名越高邦
「申し訳ございません…。今のは足利一門の出身出る母上の御立場もあるのに、言い過ぎでした。ですが、やはり私はっ」
そう言って高邦は母である高子から顔を背け、そのまま走り去ってしまった。
高子の下には、まだ五つにもなっていない幼い次男坊の弥次郎だけが、残された。
永福寺にて——
登子達は鎌倉に帰還した後、千寿王が先に到着をしていた、永福寺という場所に暮らしていた。幕府創設時に頼朝公が作った大寺院だが、1000年近くたった現在では、火災によって、残念ながら存在しない。
渋川頼子
「
赤橋登子
「名越殿のですか?通してちょうだい。」
登子は、高子を部屋に招き入れた。
今川高子
「お初にお目にかかります。御方様。此度の戦で戦死した名越当主の妻、今川高子にございまする。」
赤橋登子
「初めまして。そういえば、名越殿の奥方は今川家のご息女だったのを忘れてたわ。それで、今回はなぜここをお尋ねに?危険でしょうに。」
今川高子
「実は、私には夫との間に、二人の息子が居りまして…高邦と弥次郎という名なのですが...。そのことでお方様に相談したいことが。」
高子の相談とは、北条の男児ではあるものの、母方で今川の血を引く息子を、今川家の養子とすることができないだろうか、というものだった。
今川高子
「高邦の方は…北条が滅ぼされたと知ってすぐ、避難した先の逗子から、出ていきました。北条を再興するための戦に出るのだと。あの子のことも心配ですが、せめてまだ幼き弥次郎だけは、今川の養子にすることで、守りたいのです。」
聞けば弥次郎の方は、元徳二年(一三三〇)のうまれで、千寿王と同い年だという。
赤橋登子
「承知いたしました。私も手を尽くしましょう。夫に一筆送っておきます。」
今川高子
「誠ですか!?ありがとうございます。何と御礼をいってよいものか。」
高子の顔が少し明るくなったように見えた。夫を失い、長男は行方不明。女手一人で幼い次男を抱えているのは、とても不安だったことだろう。
赤橋登子
(彼女はまだ足利一門に縁があるから助けられるけど…まだ鎌倉には北条の縁者で、此度の戦で身寄りを亡くした者達が大勢いる。何とかしなくては…。)
登子はそこから、北条の縁者達を、引き取ったり、其の後出仕する先を世話することに尽力するようになった。
次の更新予定
2024年12月23日 18:00 隔週 月曜日 18:00
三鱗の残り香 赤式部 @ABCDEFG123457HIJKLMN
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