第二二話 炎に包まれた貿易の都(博多)

鎌倉が燃えたほぼ同じ頃~博多にて~

赤橋英時

「少弐殿に怪しい動きが…?調べてまいれ。」


英時の使者は、さっそく少弐氏の館へ向かう。

少弐家当主である少弐貞経へ面会を求めると、体調が優れないというので、仕方なくその嫡男の少弐頼尚のもとへと向かうと、宮方(後醍醐方)からもらったと思わしき、錦の御旗があり、探題を討ち滅ぼさんと用意をしているというのは、どうやら本当のようだった。使者は、の頼尚と刺し違えたらん、と腰の刀で切りかかるが、頼尚にはそれをかわし、返り討ちにあってしまう。


少弐頼尚

「悪くおもうなよ。これがお家をまもる、ってやつだ…」


その後、少弐と大友は探題から、つまり北条家から離反し、かねてより北条氏に不満をもっていた島津と共に、探題館に攻め入った。


赤橋英時

「重時(赤橋重時)、お前は東の方——鎌倉へ落ち延びよ。高政(規矩高政)もすでに脱出しておる。」

赤橋重時

「叔父上…。しかし足利は既に鎌倉にも調略をしていたとか。既に敵方の手に落ちているのでは。」

赤橋英時

「そうかもな…。そのときは、そのときだ。登子——我が妹が、頼れる状態ならば頼れ。足利殿の妻だからな。意味は、分かるな。」

親代わりの英時が、目に涙を浮かべて言ったその言葉に、重時はうなずく。それだけ関係が深かった北条を、足利は裏切ったのだ、という怒りが改めて重時の心に沸いた。

その後、英時は、異母兄の種時や郎党の三百四十人と共に、燃え盛る探題館の中、自害したのだった———



赤橋重時

「叔母上、怪我の無いようにお気をつけを。」

探題であった英時の姉である桜子は、甥の重時と共に探題館から脱出していた。



少弐頼尚

「探せ!残党を逃がすな!」



敵方の手に落ちた貿易の都——博多から抜け出した後、鎌倉に向かって長い道のりを進む途中のこと、伊予国にて、重時は桜子に胸の内を明かした。


赤橋重時

「叔母上は、先に鎌倉へ向かってください。私はここに残ります。」

赤橋桜子

「どうして…」

赤橋重時

「鎌倉の状況は、きっと危ういでしょう。叔父上はそれをわかった上で、足利に嫁いだ叔母上(登子)の庇護の下、生きよという意味でいったのだと思います。でも武士としてそれはあまりにも耐え難い。それよりは、ここに潜伏し再起を目指したい。」

赤橋桜子

「わかりました…ご武運をお祈りいたします。」


桜子は涙を流して重時と別れ、そのまま鎌倉へ向かった。兄の英時が言った通り、久々に見た鎌倉の街は、博多の探題館と同じく、足利軍と連動した新田軍に蹂躙されていた一方、自分の記憶の中よりも妻として、母として、大人の女性として美しく成長していた登子と再会を喜んだ。それからしばらく後、登子の伝手を頼り、覚海尼が向かった伊豆で、他の北条氏遺族の女性達と共に一族の弔いをしてその後の人生を過ごすことに決めた。


生まれ故郷、鎌倉を真っ赤に染めた火を背負って——

第二の心の故郷、博多を真っ赤に染めた火を背負って——

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