第3話 変わる
今から十数年前。
父が亡くなって一周忌を迎える頃のこと。
父との思い出をまとめてみようかと思い立ち、暇を見つけてはパソコンに向かっていた。葬儀に参列してくださった方々に小冊子にして配ったら、父を偲ぶよすがにしていただけるのではないか、などと殊勝なことを考えた……ということにしておこう。
職業人としてはかなり多忙で、家をあけることも多かったが、わりと子煩悩なところはあったかもしれない。思い返せば、なかなかにいい話なんじゃないのかな、ということもぽろぽろ出てくる。
そんな思い出を綴り、数本のエッセイを書き上げた。
タイトルは『父、あんなこと』にしようか、それとも『父への詫び状』かしら──などと思いながら、推敲するためにデータを開こうとして、目を疑った。
2つの一太郎ファイルが見たこともない拡張子に変更されていた。そして、『開くことができません』『変換できません』と跳ねられてしまう。
情報関係に強い、というより専門にしている同僚に見せても、「こんなん見たことない」と首を傾げられ、どうしたらこんなんなるのよと逆に尋ねられてしまった。
知らんがな。
諦めきれず、なんとかリライトしようと奮闘していたのだが、それから数日後、とうとうUSB自体が開けなくなった。バックアップを取ろうとした矢先のことだ。
「何でやねん」
と呆然としながら突っ込んでいたら、母が
「あんた、変なこと書いたんじゃないの? お父さんが他人に知られたくないようなこと。お父さん、シャイだから嫌だったんじゃないの」
と言う。
シャイというよりええ格好しいでしょう、と腹立ち紛れに言ったものの、なんとなく腑に落ちてしまった。
──自分の意に染まないことは断固として止めさせる男だったな、そう言えば。
「くたばってもなお、そうなんかい」
そんなわけで、小冊子は諦めざるを得なかった。
最近、某SNSのフォロイーさまとやりとりしていた際にこの話をしたところ、
「あちらの方々、わりと電子機器に干渉してきますね」
とおっしゃった。あり得ないようなバグを発生させるのだそうだ。
「電子機器の怪異談、どんどん増えている感じですよ」
「あちらもイノベーションされている、と」
新しもん好きだった父らしいと言えばらしい話だ、と思った。
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