第5話 つかれる

 霊感というより「零感」のはずなのだが、奇妙な経験をすることがなんだかよくあるもので、今までに何度か、ほんとうに納得いかない目に遭っている。


 学生時代、北陸某地方の大学に進学した友人を訪ねた。夏休みの後半のことだ。


 数日アパートに泊まっていたのだが、帰宅後、昼夜が逆転してしまった。自覚はなかったのだが、その他の言動もなんだかおかしかったらしい。

 そんな状態が1週間くらい続いた。


 そんな折、父の知人にいきなり怒鳴られた。

「おまえ一体、どんなとこに行ったんだ!?」

 K市だ、と言うと

「夜中に山に行ったな?」

 と睨まれた。


 ──確かに、山道をドライブした。

 友人の彼氏が出してくれた車で、山まで夜景を見に行った。

「……行きました、ねえ」

「そこで若い女を拾ってきてる」

「はあ……?」

 どこぞのカーブで行き遭ったらしい。


 ──知らんがな。


 ただ、体はだるいし親はうるさいし、夏休みも終わってしまうし、このままだといろいろ厄介だ。


「私はどうすればよろしいので……?」


 恐る恐るお伺いを立てる。まさかいきなり九字を切られたりしないだろうなと思っていたら、十句観音経を何日間か朝晩唱えろ、という。(詳細は省く)


「俺は拝み屋じゃねえから、おまえが想像してるようなことはせんよ。自分でどうにかしろ」


 まったく縁がないわけでもないみてえだし、ということをぼそぼそ言っていた覚えがある。


 そのときはなんとか落ち着いたのだが、数年後、


「……また、妙なものを……」

 と難しい顔をして、

「それを外せ」

 という。


 友人からもらったアクセサリーだった。

「おまえ、もうひとつあるだろう。それも持ってこい」


 ──なんで分かる。


 2つのアクセサリーを和紙で包んで、紐で縛って、


「これを箱に入れておけ」

 という。


「おまえのことを羨ましがっている生き霊が憑いてる」

「はい?」


 申し訳ないが、その頃の自分はお世辞にも他人様から羨まれるような状況ではないと思っていた。早く人生終わらねえかなあー、まあ1999年にはこの世の終わりが来るって言うしなぁー、とか考えていたくらいにはやさぐれていた。


 ──こんなんを羨ましがるって、意味わからん。


「これ(アクセサリー)のことは忘れておけ。もう考えるな」


 と念押しされた。

 気に入ってたのにな、とかなり残念だった記憶がある。


 世間には「アホーの知恵はあとから」という言い回しもあるとか。

 これはもう自分のことのようだなとつくづく思うのだが、夜景を見に行った山は有名な心霊スポットだったし(あとから知った)、やさぐれていたあたりは社会は不況と就職難の真っ只中で、多かれ少なかれ同世代はひいひい言っていたわけで──ひょっとしたら、こんなんでも「呑気だな。羨ましいぞこのやろう」と思っていた人間もいたかもしれない。

 実際に、婉曲というにはあまりに毒々しい言葉を吐かれたこともある。

 ──どうも、私は呑気でお気楽に鼻歌歌いながら人生を謳歌している能天気野郎にとらえられやすいらしい。


 んなわけあるか、ばかめ。


 生身の方もそうでない方も、そういう縁起の悪い方々とはできるだけ遠ざかっていたいと思う。


 憑かれると、疲れるし。















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