6.焦燥

夏休みが終わり、学校生活が再開した。

僕は学校に着くと君の姿を探した。

すると、教室の窓際の席で1人本を読む君の姿が見えた。

僕はそんな君に近づき声をかけた。


「おはよう琴音」


僕が声をかけると君は微笑みながら言った。


「拓海君……おはよう」


僕達は授業が始まるまでの間雑談をした。 

それから数日間は何事もなく過ぎ去っていったが、ある日を境に君の態度が変わり始めた。

最初は小さな違和感だった。

でもその違和感は日を追うごとに大きくなっていった。


「なぁ琴音」


「なに?」

「最近元気ないな」


僕がそう聞くと、君は少し間を開けてから口を開いた。


「……別に、普通だよ」


そんな君の答えに僕は首を傾げた。

そして言葉を続けた。


「もしかして体調悪いのか?」


僕の問いかけに対して君は答えることもなく俯いたままだった。

そんな君に僕は続けて言った。


「何か悩みがあるなら言ってくれ」


「なんでもないから……」


そんな君の答えに僕は納得がいかず、思わず君の腕を掴んだ。


「離してよ……」


君はそう言うと僕の顔を見た。

その目には涙が浮かんでいた。

そんな君に僕は何も言えず掴んでいた手を離した。

すると、君はそのまま教室を出ていってしまった。

1人残された教室に静寂が訪れた。


その日を境に君は学校に来なくなった。

連絡しても君は既読をつけない。

君の家がどこなのか、正確には分からなかったので訪問することもできない。

心配しながらも、僕はいつも通りの日常を過ごさざるを得なかった。


そんな日々が2週間くらい続いたある日の朝、僕は学校に早めについていた。

教室には誰もいない。1番だ。


(早く着いたし、ゆっくり受験勉強でもしよう)


そう思って机に教科書を広げた瞬間、

呼吸を荒げながら、僕のいる教室の方に走ってくる人の気配がした。

その気配の主は悠斗だった。


悠斗は僕を見るとすぐに声を上げる。


「おい!拓海!!琴音ちゃんが…倒れて入院してるって…」


悠斗が慌てて告げたその言葉に、僕は耳を疑った。


「え?どういうことだよ……」


悠斗は息を整えてから口を開く。


「朝、琴音ちゃんのお母さんから連絡があったんだ……琴音ちゃん、今入院してて、しばらく学校には来れないらしい」


悠斗から告げられた言葉に僕は動揺を隠せなかった。


(なんで入院してるんだ?病気が悪化した……?)


そんな考えが頭の中を駆け巡った。

そして僕は悠斗に向かって口を開いた。


「俺、病院に行ってくる」


そんな僕の発言に悠斗は驚いたような表情を浮かべた。

しかしすぐに悠斗は口を開いた。


「俺も行く!」


それから僕達は学校を早退し、君がいる病院へ向かった。

受付を済ませて病室に入ると、君は白いベッドの上で横たわっていた。

その姿を見た途端、僕は胸が締め付けられるような痛みを感じた。

そんな君の姿を見て悠斗は話しかける。


「琴音ちゃん……大丈夫か……?」


すると君は少し間を開けてから言った。


「……なんで来たの?」


君のそんな言葉に僕達は何も言えなくなった。そんな僕達を見て、君は続けて言う。

「なんで来たの……!?こんな姿、2人に見せたくなかったのに……!」


そう言って涙を流す君を僕は優しく抱きしめた。

すると君は僕にもたれかかるようにして泣き始めた。

そんな君を見ながら悠斗は戸惑いながらも話す。


「俺達……心配だったから来たんだ」


「心配なんていらないのに……」


そんな君の言葉に対して、悠斗は口を開いた。


「俺達は琴音ちゃんが大事なんだ!」


そんな悠斗の発言に僕は驚いた。

すると君は泣きながらも口を開く。


「私だって……2人のことが大事だよ!」


それから僕達3人は泣きながらも色々な話をした。 

そして数十分後、君は落ち着きを取り戻し始めた。

そして再び君が口を開いた。


「ねぇ2人とも……」


その言葉に僕達は首を傾げると、君は涙を流しながら言葉を続けた。


「お願いがあるの……」


その言葉を聞いて悠斗が言う。


「なんでも言ってみなよ!」


そんな悠斗の言葉に君は再び口を開く。


「私、もっと生きたい……」


それから君は僕達に自分の病気について詳しく話し始めてくれた。

その内容はあまりに壮絶で、僕は涙を流した。そんな僕に、君は笑顔を向けた。

そしてさらに言葉を紡ぎ出した。


「だからね……私が死ぬまで、ずっと近くにいて欲しいな」


そんな君の願いを断る理由なんてなかった。

でも僕達はその願いには簡単に頷けなかった。

君が死ぬなんて考えられないからだ。

病気に打ち勝って少しでも長い間生きて欲しい。

それが僕ら2人の共通認識だったから。



それから数日、僕達は放課後に毎日君の病室に集まった。時には看護師さんに叱られながらも3人で楽しく過ごした。

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君がくれた365日 影山かける @kage_kake

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