どこかコミカルな印象を受ける語り口に気を許していたら、序盤の「ぞろり」で一気にゾッときました。
ほぼ全話が4,000文字未満で、適度な改行もあり、さらには毎回引きが強い! そういったWebで読む配慮だけでなく、登場する人物たちも癖があって(アニメ絵も似合いそう)、エンタメ性に富んでいると感じました。
怖さや引っくり返るような展開が短スパンで来るため、物語は驚きと共に、転がるようにして常に前に進んでいきます。
一方で、語彙は普段見かけない難しめなものが幾つも用いられており、近代日本文学のような硬い印象を受けました。物語も作り込まれていて、読み応えがありました。
この気楽なエンタメと重厚なエンタメとでも呼ぶようなものの両立が大変魅力的で、とても良い、独特の雰囲気を味わうことができました。
不気味に感じたり、説明できなかったり、悍しく思えたりといった数々のエピソードは、まさにホラー!
一方で、探偵、推理と、まさにミステリー!といった展開も盛り沢山です。
非科学と科学(論理)という、同時には存在し得ないと感じる二つを両立させているのも、この作品の魅力だと思います。ホラーも、ミステリーも、両方ともを思い切り楽しめちゃいます。
怪異か?人間か?と読んでいて気持ちがぐらり、ぐらりと揺らされるのも楽しかったです。
語ることを生業としている方に物語ってもらっているような感覚で読めました。
この語り口や、数々の両立が生む独特の雰囲気は、実際に読んでみないと味わえないものです。
最初から最後まで驚きの詰まった作品でした!
主人公の出雲は、ある有名人のゴーストライターを務めることになる。
出版社の命を受けて山村へ向かった出雲が、古い旅館に足を踏み入れると、まるで何かを警告するかのように、黒電話が鳴りだした。そして、不可解な自殺があったことを聞かされる。
身元不明の老人が首吊り自殺をした話など、自分には関係のないことで、ただ、怪奇小説家としては興味がある。その程度だったが——出雲自身も気付かないうちに、事件に巻き込まれていく——。
執筆をするために山村を訪れたはずなのに、とんでもない仕事を任されてしまう場面があります。自分だったら絶対にできないなと思いました。怪異よりも、その仕事の方が怖いです。
タイトルから感じられるように、おそろしい物語ですが、不可解な首吊り自殺、奇妙な風習、密室に持ち込まれた死体、怪しい怪談師、などミステリー要素が多めの作品です。
最後まで読んで、人ならざるものと人間、本当に怖いのはどちらでしょうね……? と思いました。
ミステリーは、最後に謎解きがあって「なるほど」という展開が多いのですが、この物語はそう簡単にはいきません。ミステリー好きの方にオススメしたいです。
そして最後は、気になるあの人の正体も明かされて、スッキリしました。おそろしい出来事がたくさん起こりますが、読後感の良い小説です。
その場の空気や塵を感じる、味わい深い文章。かっちり&難しめ語彙な作品。
ウェブ読者には辛いかな、と思う重みがありますが、作者様がその点を理解しているとわかる改行スペースのおかげで、読みやすいです。
重厚で密度が高いのが素晴らしい点なのですが、ウェブだと不利になってしまう。
そこでプラットフォームに合わせて工夫する柔軟性や読み手への思いやりを感じて、好きだなと思いました。
知識量、情報量が心地いい。
知らなかったことが知れる。知っている知識が出てきてにっこりする。そんな知的な楽しさが味わえる。
時代感は古めですが扱っているネタが「あ、去年から今年にかけて話題になってたなぁ」というものもあり、話題に乗っかるエンタメ性みたいなのも感じました。
個性的な登場人物。
マダミスを見ているような気分になる登場人物たち(マダミス好きなもので。すみません)
得体の知れないゾッとする怖さがあり、ドキリとさせられ。一方で地に足がついている感覚が強く、論理的。
事件、謎提示。探偵、アリバイ、謎解きが丁寧に描かれている。閃く瞬間があり、驚きがある。
かつ、人間の情念とか、色気とかもあり。
盛り上がりどころの雰囲気も抜群で、文字が気持ちよく、感情が揺さぶられて、まるで映画を観ているような気分で惹き込まれました。
お前が犯人だ、と言うシーンなんて美しいですよね。痺れますよね。
じっくり積み上げてきて、期待させて、さあどうぞ! ここが落とし所!
そんなカタルシスを魅せてくれた気がします。
私は推理小説好きを名乗るほど多く摂取していませんが、推理小説を読む方はこんな楽しさの中毒みたいになって、もっとくれ、もっと読みたい! ってなるのではないかなと思います。
そして、こんな楽しさを提供できる作品を作れる人は少なくて、とても貴重なのだの思います。
論文のようであり、映画のようであり、クイズのようでもあり。
ラストで「おっと待ちな!」ってもう1インパクトくれるじゃないですか。びびったわ!
大好きな作品だなと思いました。
大好きです。