第6話
……。あ……やあ、お客人。
あまり良くないところで会ってしまったね。
……うん、そうさ。死んでしまった冒険者の遺体だよ。
これから回収して、しかるべきところに捨ててダンジョンの魔力に分解するつもりさ。
管理人をやっていると、もう見慣れてしまったよ。
お客人と服装が似ていたから、最初はもしやと焦ったりしたけどね。
なぁに、もう慣れたものさ。ダンジョンの管理人として、何度もやってきたことだ。
……ごめん。ちょっと嘘をついた。
本当は何度見ても、あまり慣れるものではないかな。
いや、気持ち悪いとか、そういうわけじゃないんだ。
ただ……そうだな。寂しさというか、そういう感情を抱いてしまうよ。
ダンジョンの中は弱肉強食。
それは管理人の僕が誰よりもわかっているし、お客人たち冒険者も覚悟していることだと思う。
でもね、それでも僕はやっぱり、お客人たちには皆元気に帰って欲しいんだ。
僕は管理人としてダンジョンのあちこちを巡っているから、ちょくちょくお客人たち冒険者を見てきた。
その誰もが冒険に目を輝かせ、時に危険に立ち向かい、時に仲間との絆に涙する。
そんなお客人たち冒険者を見てきたからかな、いつしか僕も冒険者たちの一員になったような気がしていたんだ。
だからだろうね、こうして力尽きて倒れてしまった冒険者を見ると、とても悲しくなるんだよ。
きっと彼らはもっと冒険したかっただろうに、待っている人もいただろうに……なんてね。
さっき? ああ、なんだ見ていたのか。
うん、お客人たちの宗教は知っているからね。それに習ってお祈りをしてあげていたんだ。
僕なんかに祈られても迷惑かもしれないけれど、このまま人知れず朽ちていくよりはマシだろうと思ってね。
体はダンジョンの魔力になるとしても、魂はきっといつか転生して再びどこかで生まれるだろう。
僕としては、また冒険者としてこのダンジョンに戻って来てくれればいいな、なんて思っているよ。
はは、やっぱりそこはダンジョンの管理人なんだねぇ。
それにしてもこの遺体……この人、と言い直した方がいいかな。
この人はとても仲間に信頼されていたんだろうね。いやなに、彼の鎧に無数のキズがついていて、かなり年季も入っているだろう?
きっと、ずっと仲間を庇い続けてきた、歴戦の前衛って感じじゃないか。
なら、きっとパーティーメンバーからも信頼されていたんだろうなという、単なる推測さ。
僕はこうして冒険者の遺体を見つけると、その装備や持ち物を見て、生前の様子を推測するようにしてるんだ。
死んでしまった後、ただ一方的に捨てられるんじゃなく、少しは自分のことを理解して貰えた方が、その人も嬉しいと思ってさ。
もちろん、僕の自己満足でしかないんだけどね。
さてと、じゃあ僕はこの遺体を運ばないといけないから、今回はゆっくり話していられないんだ。
せっかく会えたのに悪いけど僕はこれで……え?
遺体を持ち帰る? どうしてだい?
ふむふむ……なるほど、この遺体のパーティーメンバーから、遺体を持ち帰って欲しいって依頼されたんだね。
でも遺体なんかどうするんだい? さすがに復活させるには損壊が酷いし、時間も経っていて……。
いや、そうだよね。仲間の遺体を、自分たちで埋葬してあげたいと思うのは普通のことか。
どうにも、そういうところはちょっと鈍いんだよね。基本的に一人でダンジョンの中にいるからかな。
じゃあお客人にこの人を任せようかな。何、僕と別れたとしても目の前に遺体があるんだ、すぐに状況を理解するよ。
それじゃあ、後はよろしく頼むよ。
あ……いや、ちょっと待って。
そのままの状態じゃ、さすがにその人が可哀想だ。
最低限、見た目くらいは整えてあげた方がいいだろう。
よっと……これでよし。
驚いたかい? さすがに完全に元の状態の戻すと不自然だから、モンスターに喰われてしまった部分だけ戻したんだ。
これならお客人も、この人の遺体を持って帰りやすいだろう?
あまり良いことではないんだけど……まあ、これくらいはいいだろうさ。
せっかく仲間のところに帰れるのに、モンスターに食い荒らされた体でっていうのは、ちょっと可哀想だからね。
今は詳しいことはいいじゃないか。ほら、あまりグズグズしていてはいけないよ。
この人だって、待ってくれている仲間がいるなら早く戻してあげたほうが良い。
もともとお客人もそのつもりだっただろ?
僕の力に関してなら、次に会った時にでもゆっくりと解説してあげるよ。
うん。ものわかりが良くて助かるよ。
じゃあ、今度こそ後は頼むよお客人。
志半ばで倒れたその人を、気っと仲間のもとへと届けてあげてくれ。
それじゃ、またね。お客人。
◇◇◇◇◇
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
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