第2話

 うん? やあやあ、お客人!

 まさか本当にまた会えるなんて思わなかったよ!


 どうだい調子は? 今回はけっこう深くまで来たんだねぇ。

 パーティーメンバーとは別行動かい? あまり感心しないなぁ、このくらいの階層だと、お客人の実力じゃあ万が一があるからね。


 ふんふん? ああ、なるほど。パーティーメンバーはすぐ近くで、お客人は休憩中の哨戒というわけか。

 ちょうどいいタイミングで出会えたものだねぇ、やっぱりお客人と僕は縁があるようだ。


 え? ああ、そうだったね。さっきまでお客人は僕のことは忘れていたんだろう?

 前に会った時に言った通り、僕と別れた直後にはもう忘れていて、今こうして出会った瞬間に思い出した。

 そうしないと、お客人たち人間の脳に大きな負担になってしまうんだ、次元の違う生き物のことを覚えておくということはね。


 ただ、こうして面と向かって会えば再び思い出せる。

 不思議だろう? ああ、でも何故かなんて聞かないでおくれ。僕にだってわからないんだから。

 人間の防衛本能というか、そういうものなんじゃないかな。まあそういうものだと思っておけばいいよ。



 さてさて、せっかくまたこうして会えたんだ。また少し僕と話をしていかないかい?

 ……ん? 哨戒中だから、僕と話している時間は無いって?


 それなら問題ないよ。僕がここにいる限り、この階層にモンスターは発生しないからね。

 なんでわかるのかって? そういう風に設定したからだよ、管理人の僕がね。

 ちょうど今、僕はこのフロアの掃除をしていてね。邪魔になるからモンスターが発生しないようにしてるんだ。


 ふふふ、すごいだろう? 管理人権限ってやつさ。

 だから哨戒の必要はないんだ。これで僕と話す時間ができただろ?


 そんなに呆れなくてもいいじゃないか。僕だって、こうして話ができるお客人と会うのは久しぶりなんだ。

 せっかく話ができるんなら、話したいと思うのが人情だろう。



 僕は人間じゃないだろうって? うるさいうるさい!

 いいからホラ! 哨戒ってことは、あんまり時間も無いだろ!

 せっかくこうしてまた会えたんだ、時間を無駄にせず話そうよ!



 ……くっ。そんなに笑わなくてもいいじゃないか。

 コホン。それじゃあ気を取り直して。


 この前お客人とと別れてから、もしまた会えた時は何を話そうかって考えていたんだ。

 だから今度こそ僕の話をお客人に聞いてもらうよ。


 ふふふ、管理人っていうのはこう見えて苦労も多くてね。

 お客人に聞いて欲しいことは山ほどあるんだよ。愚痴とかも含めてさ。


 そうだな……今回は、僕の働き方について聞いてもらおうかな。

 ダンジョンの管理人だからって、当然だけど毎日働いてるってわけじゃあないんだ。

 けっこう自由がきいてね、休みたい時に休みたいだけ休むことだってできる。


 僕なんかは二日働いて二日休む、っていうペースで働いているよ。

 もちろん、休んでいる間は清掃なんかもしないから、僕が休みの時にダンジョンに来ると汚れてたりするね。お客人も、僕が清掃している割に、モンスターの死骸が残ってる時があるなって思っただろ?



 ま、僕だって一人でダンジョンの管理をしてるんだ。休んでいる時にダンジョンが汚れるくらい、我慢して欲しい。

 とはいえお客人たち冒険者も毎日ダンジョンに来るわけじゃなし、意外と綺麗な時のダンジョンしか知らない人もいるかもしれないね。


 休日に何をしているのか?

 よくぞ聞いてくれた! 僕はこう見えて多趣味でね、実はいろいろとやっているんだよ。

 最近のマイブームは釣りかな。このダンジョンの深層にちょうどいい川があってね、そこで釣りをしているよ。


 ……あっ! しまった、ダンジョンの構造についてネタバレしちゃった!

 お客人、今のは忘れてくれ! このダンジョンに川なんてないよ! いいね!?

 なんて……ダメ? ダメだよねぇ。まあいいか、お客人は僕と別れれば忘れてしまうだろうし。


 その川は水棲モンスターが多くてね、毎回入れ食い状態なんだよ。

 食べたりはできないから、基本釣っても放して終わりだけどね。


 お客人も、いくらお腹がすいたからってモンスターを食べようとしちゃいけないよ。

 アレらは元々食べられるように作られていない生物だからね。食べたらお腹を壊すなら全然良い方で、場合によっては人間じゃなくなってしまう危険だってあるんだから。



 あとはまぁ、読書なんかもしているかな。

 時々人の街に買い物に行ってね、アレコレ本を買っているんだ。

 ははは、もちろんその時は人間に姿を見れるようにしているさ。え? 見えないようにしておけば、万引きし放題じゃないかって?


 あのねぇ、お客人は僕のことを何だと思ってるんだい?

 確かにお客人たち人間とは違う存在だけど、良識くらいは持ってるんだよ。犯罪なんてするわけないじゃあないか。

 ちゃんとお金を支払って購入しているよ。ほら、ダンジョンの宝物は僕が作っているわけだし、そこから程よい値段の物をちょいちょいっと見繕ってね。


 ずるい?

 ダンジョンの管理人なんだ、ダンジョンの物をどうしようと自由じゃないか。変なことを言うね、お客人は。

 お客人たちだって、宝物を持ち帰って、売り捌いて資金にしてるだろう?


 それと同じことをしているだけだよ。

 ま、確かに? お客人たちとは違って? 僕は作り出す側だから、好きなだけ持ち歩けるけど?



 あははは! ごめんごめん。そんな怒らないでくれ。

 僕だってその時必要なぶんのお金になる程度しか持ち歩かないさ。だから、お客人たちの方がお金持ちだと思うよ、実際。

 だからそんなヘソを曲げないでおくれよ。



 ……っと、お客人の仲間が呼んでいるようだね。

 名残惜しいけど、今回はここまでにしておこう。


 なに、二度もこうして会えたんだ。また近いうちに会えそうな気がするよ。

 これでお客人と話すの、楽しみにしてるんだ。

 だから危ない橋を渡らず、また元気な顔を見せてくれると嬉しいな。



 それじゃあまたね、お客人!

 良い冒険を!





◇◇◇◇◇


最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

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