第3話

 ん? おや、お客人。お久しぶりだねぇ。

 前回会った時から……だいたい半年くらいかな?

 ダンジョンの中で姿を見かけることも無かったから、どうしたのかと思っていたんだ。


 忙しかったのかい?

 ……ふむ、なるほどなるほど。ここじゃない、別のダンジョンに潜っていたのか。

 なるほどねぇ、そりゃ同じダンジョンばかりじゃあ飽きてしまうよねぇ。


 違うダンジョンにいけば、そりゃあ新鮮だろうし、やる気も出てくるってものだよねぇ。

 僕はお客人たちが気持ちよくダンジョンを探索できるよう、頑張って運営をしていたつもりだけどねぇ。

 しかたないよね、お客人は僕との会話なんて忘れてしまっているものねぇ。



 ……ぷっ。あはははは!

 ごめんごめん、ちょっとからかってみたくなっただけなんだ。

 そんなに本気で謝って貰えるなんて思わなかったよ。


 どうやら僕は、自分で思っていたよりお客人と会えなかったのが寂しかったみたいだ。

 だからちょっとだけ、いじわるを言ってみたくなったんだ。

 実際はそこまで気にしちゃあいないよ。



 だってお客人たち冒険者は、未知を求める探求者だろう?

 このダンジョンだけじゃなく、いろんな場所を冒険したいと思うのは、当然のことだろうさ。

 僕はそんなお客人たち冒険者の探求心や野心を、とても尊いものだと思っている。


 だから、むしろお客人がそうやって他のダンジョンを攻略していたということが、嬉しいくらいだ。

 もしかしたらお客人たちは、このダンジョンの最深部まで踏破することができるかもしれないね。

 せっかく僕が見える特別なお客人の君だからこそ、僕はちょっと期待もしているんだ。



 僕がこのダンジョンの管理人になって……どのくらいだったかな?

 うーん、ちょっと覚えてないけれど、まぁとにかく長い間。いまだこのダンジョンを踏破した冒険者はいない。



 だからこそ、お客人がこのダンジョンを踏破する最初の一人になってくれたら、嬉しいな。

 僕のことが見える特別なお客人が、初めてこのダンジョンを踏破する。そんなの、なんだかロマンチックじゃあないか。

 意外と思うかもしれないけど、僕はけっこうロマンチストなんだよ。



 ……ふふ、なんだか湿っぽくなっちゃったね。

 今日はお仲間は一緒なのかい? それとも前のように一人で?


 なるほど、今日は一人で腕ならしなのか。

 それじゃあ少し長く喋れるかな? ふふふ、久しぶりだから嬉しいね。



 時間もあるようだし、今日はちょっと座って話そうか。

 そうだな……ちょっと待ってくれよ。んー……よし!


 どうだい? 座り心地の良さそうなソファだろう? これもダンジョンの魔力を使って作ったんだ。

 本当はこんな使い方は良くないんだけどね、まあ僕とお客人の仲だ。多少はいいだろうさ。



 よ、っと。



 それじゃあ何を話そうかな、半年ぶりだしいろいろと話したいことも溜まっているんだよ。

 うん? 今回はお客人の方から聞きたいことがあるのかい?


 そうだね。前回は僕が話したいことを話したし、今回はお客人の疑問に答えるとしよう。

 それで? 何を聞きたいのかな?



 ……ああ、なるほどね。

 他のダンジョンに行った時、僕みたいな管理人を見かけなかった理由か。

 そんなの簡単さ。


 言っただろう? 僕たち管理人を見つけることができるのは、ごくごく限られた特別な才能を持った人間だけ。

 わかりやすく言うなら……そうだな、『お互いの波長が合う』ことが条件と言えるかな。

 ダンジョンの管理人は、確かに全てのダンジョンに存在している。


 けれど、人間が千差万別なようにダンジョンの管理人だって千差万別さ。

 だから僕とお客人の波長が合ったからって、他のダンジョンの管理人とも波長が合うなんてことは、まずありえない。


 人間だって、性格の合う合わないはあるだろう?

 あれと似たようなものさ。だからお客人が他のダンジョンで管理人に会えないのは、ある意味当然のことなんだよ。



 ダンジョンの管理人は僕しかいないと思ったって?

 あっははは! それじゃあさすがに僕が過労死してしまうよ。

 基本的にひとつのダンジョンには、一人の管理人が常駐しているのが普通さ。場所によっては、広すぎるから管理人が複数いる時もあるけどね。


 そんなにガッカリしなくてもいいじゃないか。

 それに会えなかったことはお客人にとって幸運だよ? 前に言ったと思うけど、僕たち次元の違う存在との出会いは、本来人間にとって大きな負担になり得るんだ。


 複数の管理人と出会ってしまえば、知らず知らずお客人の脳に負担がかかってしまうんだ。

 もしかしたら最後には廃人になってしまう……なんてこともあるかもね。



 ごめんごめん、脅かしすぎたね。

 さすがにそんなことになる可能性はゼロだから、そんなに気にしなくていいよ。

 さっきも言っただろ? 管理人を見るためには、その管理人とお客人との波長が合わなきゃいけないんだ。

 何人もの管理人と波長が合う……そんな人間、僕だって管理人になってから一度だって見たことがないよ。



 それに、あまり管理人に会ってもいいことはないからね。

 別に冒険を助けてくれるわけじゃなし、むしろ僕みたいに長話に付き合わされるのがオチさ。


 管理人は基本的に暇だからねぇ。

 暇つぶしの相手を見つけたら、もしかしたら付きまとわれてしまうかもしれない。

 僕? 僕は良識のある管理人だからね。お客人にそんなことはしないさ、誓ってもいい。



 お客人のことは気に入ってるからねぇ。わざわざ嫌われることはしたくないよ。

 こうして時々出会って、そして話せるだけで十分さ。



 ……っと。ここに誰かが近づてきているみたいだ。

 むぅ、今回はもう少し長く話せると思ったのに、残念だね。


 さすがにソファの片付けもしないといけないから、今回はここまでだ。

 大丈夫、ソファはすぐに片付けておくよ。君が気づいた時には、影も形も残っちゃいないさ。


 今回も楽しかったよ、お客人。

 また縁があったら、今度は僕の話を聞いておくれ。



 それじゃあまたね、お客人!

 よい冒険を!





◇◇◇◇◇


最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

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