第4話
おや? やあやあお客人、奇遇だね。
今日も一人かい? 浅い階層とはいえ、あまり一人で潜ってばかりだと心配だよ。
パーティーメンバーはいないのかい?
……なんと! メンバーたちをケンカをしてしまったのか。
だから他のメンバーと顔を合わせづらくて、ダンジョンに潜って気分転換、というわけだったのか。
そりゃあ良くないねぇ。お客人たちのパーティーは、管理人の僕から見てもかなり良いバランスだった。
仮に解散なんてことになったら、同じくらいバランスの良いパーティーを組める確率は低いだろう。
僕としては、早めに仲直りすることをおすすめするよ。
ケンカしてどのくらい経ったのか分からないけど、時間が開けばあくほど、謝りにくくなるものだからね。
うーん、まあ素直にわかったとはいかないよね。
よし! じゃあ今日はお客人が仲直りしやすくなるよう、話を聞いてあげようじゃないか。
これでも僕はお客人よりずっと年上、人間関係だっていろいろと経験してきているからね。
きっといい助言をしてあげられると思うよ?
うんうん。素直でよろしい!
それじゃあこっちにおいで、またソファでも用意しよう。
リラックスした方が、しっかりと相談もできるだろうしね。
……よし、と。
さて。それじゃあ話を聞いていこうかな、今回のケンカは何が原因だったんだい?
ふむふむ。なるほど?
最初はパーティー資金の使い道について、意見が割れたことからなんだね。
お客人は前衛をしている自分の装備を新調したいと言ったけど、魔法使いの子がそれに反対したと。
まあ、魔法使いの使う杖は消耗品だからねぇ。買える時にまとめ買いしておかないと、いざという時にストックがなくて困ることもあるだろうさ。
それで? パーティー資金は両方を叶えられるほどは貯まっていなくて、どっちを優先するかということになったわけだ。
そしてお客人もお仲間もどっちも譲らず、あとはもう売り言葉に買い言葉で……と。
うーん、冒険者パーティーではありふれた、まさによくある喧嘩だねぇ。
どちらが悪いというわけじゃなく、どっちもパーティーのために必要だと思って言っているから譲歩できない。
他のお仲間も、戦力としてはどっちも必要だから片方に肩入れができない、というところか。
今もお客人の考えに変わりはないのかい?
……そうだよね。お客人は前衛職として、他のお仲間より多く敵の攻撃にさらされる。
だから自分と、そしてなにより自分より後ろにいるお仲間を守るために、装備はなるべく良い物にしたいよね。
あいつは後衛で俺に守られているから、前衛の装備の大切さがわかっていない?
んー、それはどうだろう?
ケンカ相手のお仲間は魔法使いなんだろう?
なら、戦列でいえば一番後ろなんだ。お客人が自分のことを守ってくれているのは、きっと一番わかっていると思うよ。
それなら俺の装備を優先させてくれてもいいだろうって?
はたしてそうだろうか? 逆にお客人も、相手の側になって考えてみてごらんよ。
お客人がお仲間のために、自分が敵の攻撃を多く引き受けなきゃと思うように、お仲間だってお客人が受ける攻撃をちょっとでも少なくしようと思うはずさ。
そのためには、やはり杖をストックできているかどうかは、とても重要だ。
それこそ杖を使い潰す勢いで使って、早期決着をつけたい……そう、思うんじゃあないかな?
ふふ、考えたことも無かった……って顔だね。
それも仕方ないことだろうねぇ。普通、自分以外のポジションで戦う仲間の思考なんて、そうそう考えるものじゃあない。
でも、こういう時だからこそ考えてみるのも悪くはないだろう?
お互いのためを思うがあまり、ケンカになってしまう。
羨ましい限りだよ。お客人とお仲間は、ずいぶんと仲が良いんだろうってわかるからね。
そうじゃなきゃ、たぶんお客人かお仲間か、どちらかが先に折れて話を終わらせただろう。
お互いにお互いのことを思っているからこそ、どちらも譲らずケンカになってしまったんだ。
今日帰ったら、一度話し合ってみたらどうかな。
……あ。
そうだったね、僕と話したことは別れたら忘れてしまうんだったね。
僕としたことが、お客人と話せることに浮かれすぎて失念していたよ。
これじゃあせっかく解決の糸口が見えたのに、無駄になってしまうな。
このままパーティーが解散になってしまうと、助言した僕としてもあまり嬉しくはないし……。
…………うん、よし! こうしよう!
僕の力で、お客人の頭の中に今日の会話をうっすらとだけ覚えておけるようにする。
相手が僕だってことは完全に忘れてしまうだろうけど、誰かとこういう会話をした、という記憶が残るようにね。
これならお客人も帰ってからお仲間と仲直りができるはずだ。
そんなことしていいのかって? まあアウトかセーフで言えば……ギリギリセーフ、ってところかな。
お客人の脳にちょっと負担がかかってしまうと思うから、もし嫌なら言ってくれ。
負担と言ってもそう大したことじゃあない。
僕そのものを忘れないならともかく、『誰かとこういう会話をした』程度のものなら明日一日頭痛がするくらいのものさ。
どうする? たぶんお客人なら、僕との話が無くても解決するとは思うけど……。
……っ! 『友達との会話を覚えていられるなら、そのほうが良い』か。
嬉しいなぁ、お客人は僕のことを友達だと思ってくれているんだね。
僕もそうさ。だからこうして、ちょっと危ないことを提案しているんだよ?
それじゃあ早速……よし、これでオーケー。
簡単だろう? 僕の使っているこれは、お客人たちが使う魔法とはちょっと違うものでね。
そのあたりはまた今度話すことにしよう。
ほら、今日はそろそろ戻った方がいいんじゃないか?
ケンカした相手も、その他のお仲間も、きっと君のことを待っているはずだよ。
うんうん、お礼なんていいからいいから。
とっとと帰って仲直りしてきなよ、お客人。
そうしてまた、元気で仲良くパーティーで冒険している姿を見せてくれ。
それじゃあまたね、お客人!
よい冒険を!
◇◇◇◇◇
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
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