第5話

 ……うん? やあお客人。

 ちょっと前のことになるけど、あの後はどうなったかな?

 助言をした立場として、けっこう気にしていたんだよ。


 ああ、ちょっと待ってくれ。お客人の事情もあるだろうし、いきなりここで話し込むわけにもいかないよね。

 とりあえず時間は大丈夫かな? うん、いつも通り他のお仲間は休憩中で、哨戒する時間で話せるわけだ。

 よーし、それじゃあ前と同じようにここら一帯にモンスターが湧かないようにして……と。


 オッケー!

 それじゃあ聞かせておくれ、事の顛末をさ。



 ………………。

 ふんふん……。

 なるほど……?


 ほほー……。

 そんな感じになったんだねぇ。



 なるほどなるほど、ちゃんとお仲間とは仲直りできたんだね。

 よかったよ。僕としても、助言をして、君が覚えていられるようにした甲斐があったというものさ。

 あれからしっかり話し合って、お客人の装備更新を優先することにしたんだね。


 そして今日は、お仲間の杖の購入資金のためにダンジョンにやってきた、と。

 いいねぇいいねぇ。僕はそういう、お客人たちの友情が大好きなんだ。見ているのも、こうして話として聞くのもね。

 特に今回は、僕が干渉したから感動もひとしおだよ。



 うん? いやいやそんな、お礼を言われるほどのことじゃあないよ。

 僕にとっても、お客人のいるパーティーが解散せずにいてくれるというのは、メリットのある話だったからね。

 ダンジョンの管理人なんて、お客人たち冒険者がいて初めて成り立つ仕事だもの。


 そりゃあパーティーが解散しないで、長くダンジョンに潜ってくれる方が嬉しいものさ。

 それがなくとも、お客人は僕の貴重な話し相手で……その、なんだ。友人だとも思っている。

 友人に悲しい思いをして欲しくないと思うのは、普通のことだろう?



 ……なんだい、そんなに笑うことはないじゃあないか。

 『いつもは次元の違う存在とか言ってるのに、変なとこで恥ずかしがるのが面白い』って?

 むぅ……お客人は時々いじわるになるよねぇ。


 確かに君たちとは次元の違う存在だけれども、僕にだって感情があるんだよ?

 そりゃあ、いろいろと思うこともあるさ。



 そうだな、じゃあ今日は僕たち『管理人』について、少し詳しく話そうか。

 ま、と言ってもあまり深く話せることもないんだけどね。


 僕たち管理人は、ダンジョンによって産み出されるんだ。

 こう……ある日突然、何もないところからポンッ、とね。


 お客人たち人間と見た目が似ているのは、たぶん動きやすさや清掃なんかの作業のしやすさを重視したんじゃないかな。

 ダンジョンにいる存在の中で、一番器用なのはたぶん人間だしね。

 もちろん人型モンスターなんかも候補に挙がるだろうけど、結局は人間型の方がいいんだろう。


 ハッキリしないって言われても困るよ。

 ダンジョンの管理人って言っても、別にダンジョンと会話ができたりするわけじゃないんだ。

 人型じゃない管理人なんて見たことが無いから、そうなんじゃないかなって推理してるんだよ。



 ちなみに生まれた瞬間から、ダンジョンの管理方法は知っているんだよ。

 だからゴミや死体をどうすればいいかとか、宝物の作り方とか、ダンジョンに関しては誰よりも詳しいのさ。

 お客人たち冒険者からしたら、たいそう羨ましいだろう?


 うんうん、もちろんダンジョンの構造だってぜーんぶ知ってるよ。

 どこにトラップがあるのか、どこに下の階へ続く道があるのかとか、ぜーんぶね。


 ふふふ……ダメですー。教えてあげませーん。

 いくら僕とお客人が友達でも、そこはダンジョンの管理人と利用者。

 しっかり線引きはしないとね。



 それに本当はお客人だって、教えて貰えるなんて思っていやしないだろう?

 ダンジョンの全てを教えて貰って喜ぶ冒険者なんて、冒険者じゃあないからね。

 そもそも、僕と別れたら忘れてしまう情報だからねぇ……。


 ちょっと話が逸れたね。

 まあ、そんなわけで僕たち管理人はある日突然生まれるわけだ。

 ちなみに死ぬことも無いし、老化もすることはないよ。僕はかれこれどのくらいだっけかな……うーん、ざっと二百年くらいはこのままかな。


 それにダンジョンが消滅しない限り、僕は致命傷を負ってもすぐに回復できる。

 そもそも、僕を傷つけられる存在なんてそういないと思うけどね。

 お客人たち冒険者の中でも一番上……確か『暁の剣』とかいうパーティーだっけ? あのメンバーが総がかりで僕と戦っても、傷一つ負わせることはできないさ。



 ふふん。驚いたようだね。

 ダンジョンの管理人なんだから、そりゃあ当然それにふさわしい強さを持っているに決まっているさ。

 そうじゃなきゃ、のんびりダンジョン内を掃除したりできるわけないだろう?



 うん? ダンジョンが攻略されたらどうするのか?

 いい質問だね! ダンジョンだって無限に続くわけじゃない、いつかは誰かに最深部まで攻略されてしまう。

 そうなったら管理人がどうなるか……。


 答えは、変わらず管理人としてやっていくだけだよ。

 あっははは! 当たり前だろう? たとえ一度攻略されたとしても、別にダンジョンは消滅したりしない。

 お客人だって、今まで攻略されたダンジョンが消滅した、なんてこと聞いたこともないだろう?


 ま、中には攻略されたらムキになってダンジョンを改装する管理人もいるけどね。

 攻略したダンジョンに入ってみたら、以前の地図が使えないくらい内部構造が変わっていたなんて話、聞いたことはない?

 あれは管理人が攻略されたのが悔しくて、一生懸命ダンジョンを改装した結果なんだ。



 僕? 僕はそんなことする気はないよ。

 だってめんどうくさいじゃあないか、ダンジョンの構造を考えて作り直すなんて。どうせやるのは僕一人なんだし。

 でも、そうだな……敵の配置や罠の場所を変えるくらいはするかもね。


 お客人たちに、新鮮なワクワクと緊張感を覚えて貰うためにさ。

 ……さて、そろそろいい時間かな。

 また今度会ったら、また何か話をしよう。何を話すか、楽しみに考えておくよ。



 それじゃあまたね、お客人!

 よい冒険を!





◇◇◇◇◇


最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

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