第10話
おや? 久しぶりだねお客人。
また別のダンジョンに遠征してきたのかい? いや、別に怒ってはいないよ。
前にも言ったけど、僕はお客人たちがいろんなダンジョンを攻略してくれる方が、嬉しいと思っているからね。
ほうほう、今回は南の方に遠征してたんだね。
南にあるダンジョンっていうと……アイツのかな?
ほら、前に話した『ほとんど管理をしない管理人』がいるダンジョンさ。
あっはは、やっぱり中はそうとう酷いありさまだったみたいだね。
モンスターの死骸が腐っていたりで酷い目にあった? あー、そうだよねぇ。腐った死骸のせいで病気になったりするリスクもあるもんねぇ。
アイツには僕たちも常々言ってるんだけど、アイツはいつも『自分のダンジョンだから好きにさせろ』の一点張りでね。
管理人仲間として、僕たちも頭が痛いところだよ。
……えっ!? アイツのダンジョン、お客人たちの間では『腐蝕の迷宮』なんて言われてるのかい!?
しかも、モンスターの死骸が動きだしたりするし、病気のリスクがかなり高いから、難易度としては最難関のダンジョンって言われてる!?
いや、言ってる意味はわかるけど……。えぇ……?
ち、ちなみにお客人? 僕のダンジョンは、なんて呼ばれてるのかな?
いや別にね? アイツのダンジョンが最上級だから対抗心ってわけじゃないけど、ちょーっと気になってね?
……『悠久の迷宮』?
今まで誰も踏破していないから難易度は最上級、でも初心者でも浅い階層は入りやすいから人気がある?
へ、へぇ~! そうなんだ! 人気があるんだ!
まぁ僕は? 管理にも力を入れてるし?
お客人たちが楽しく冒険をして貰えるように、いろいろと気を遣ってるから? 当然と言えば当然だけどね!
べっ、別にそんな喜んでなんてないよ。当然のことだからね。
アイツのダンジョンが、ただ管理しなかっただけなのに、結果的に最上級の難易度ダンジョンなんて言われてた。
それが悔しかったなんてこと、全然ないからね。うん!
無いったら無いからね!
…………うん。わかってくれればいいよ。
まあでも、アイツのダンジョンがお客人たちの間で、そんな風に評価されてたなんてね。
ちょっと驚きというか、そういう結果になることもあるんだなって、むしろ感心してしまったよ。
あいつ自身は、絶対そんなこと狙ってないだろうけど。
え? 『でも腐蝕の迷宮は、ただただ難易度が高いから人気はない』って?
……だろうねぇ。
死骸がそこらにゴロゴロしてて、そのせいで病気になりやすく、あげくに死体がいきなり襲ってくるんだろう?
そんな一瞬でも気が抜けないようなダンジョン、僕だって冒険者だったら入りたくないよ。
あ、アイツもしかして死体を残しておくことで、モンスターを生み出す魔力をケチってるんじゃ……。
いや、さすがにそこまで深くは考えてないよなぁ。
でもどのみち、そんな危険なところによく挑む気になるね。
お客人、なんだってそんな危ないところに行ったんだい?
ふむふむ、なるほど。
アイツが掃除をしないせいで、貴重な装備品とかもそのままにされてるのかー。
たしかにそれは、お客人たち冒険者からしてみれば、多少の危険を冒してでも手に入れたいよね。
ちなみに僕は定期的に掃除をしてるけど、死体の装備品でなければ基本的にその場に残しておいてるよ。
たまにいるんだよね、敵の攻撃を受けて武器を落としてしまって、後から取りに来る冒険者。
特に初心者の子に多いからさ、浅い階層なんかは割とそうしてるんだ。
駆け出しの冒険者からすると、装備品は購入するのも大変だもんね。
僕がその場に残しておいた装備品を見つけて、大喜びしている姿を見ると、僕も安心するんだよ。
深い階層だとどうするかって? さすがに深い階層になると、取りに戻ってくる子はほぼいないからねぇ。
見つけ次第、壊れてるようなら捨てるし、使える状態であればそのまま宝箱に入れて再利用しているよ。
え? それはズルじゃないかって?
そんなことはないよ。いい装備品なのに捨ててしまうなんて、もったいないじゃあないか。
むしろ再利用してあげることこそ、装備品にとってもお客人たちにとっても良いことなんだよ。
だからもしかしたら、お客人が落とした装備品なんかも、そのうち宝箱から見つけられるかもね?
まあ、このあたりは管理人によって対応が変わるんだよ。
僕みたいに再利用したり、そのまま残しておいてくれるところもあれば、問答無用で処分してしまう場合もある。
これは、お客人たちの間で情報が出回ってるんじゃないかな?
だよね。ふんふん……なるほど、すぐに捨てられてしまうダンジョンは『忘れずの迷宮』なんて呼ばれてるんだ。
ダンジョンから帰る時は、絶対に忘れ物をしないように、ということかな?
お客人たちも、そういう意味では大変だねぇ。ダンジョンごとに、いろいろと気を付けるべきポイントが違うんだし。
他人事みたいに言うなって?
だって、僕からしたら他人事だもの。
くっくっく、そんなに不満そうな顔をされてもね。
僕たち管理人の管理方法は、それぞれに任されているんだ。僕たちだって個性があるんだし、そこに違いは出るのは仕方ないことだろう?
結果として難しいダンジョンになったり、簡単なダンジョンになったり。
そういった違いが出るからこそ、お客人たち冒険者もダンジョンに挑もうって気になるんじゃあないかな?
ふふ、その顔……図星だったみたいだね?
ちなみにここだけの話、僕が使える装備品をそのまま再利用するのは、もったいないからだけじゃあないんだ。
実は僕って、武器や防具を魔力で作るのが下手でね。
だから自分で作るよりも、再利用した方がマトモな装備品をお客人たちに渡せるからなんだよ。
拾ったことない? 変に刃がねじ曲がった剣とか。
あるでしょ? あれ、僕が作ったのなんだよ……お恥ずかしい。
よし、僕の恥ずかしい秘密も話したところで今日は終しまい!
実はまだ掃除する階層が残っていてね、これ以上時間を使えないんだ。
それじゃあまたね、お客人!
よい冒険を!
◇◇◇◇◇
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
面白いと思ってくだされば、感想やレビューなどいただけると嬉しいです。
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