第61話 岩戸の道で

今度こそはぐれないよう、全員が一本の糸を持ちながら岩戸へ向かうことにした。

その糸は、デンのしっぽの毛を繋ぎ合わせたものだ。

恐らくこれで今までのようにはぐれることは無いはず。


葎はトラの上に乗り、ぐったりと眠っている。

本来ならば戻るべきなのだろうが、出口すら分からないため、とにかく進むしかない。


「だいぶ雰囲気が変わったな、この森。

来た時とは大違いだ。」


「僕もさっきまで頭が重かったけど、一気に治ったよ。やっぱりさっきの妖怪たちのせいだったのかな」


霧は相変わらずだが、先程よりは格段にドス黒い負の空気がなくなっていることがわかる。


「それより、ここまで大嶽丸の追っ手が来てるなんて……」


駒子の言葉に、全員が眉を寄せる。


「サイラスさんは……大嶽丸のことを知ってる?」


「あぁ、もちろん。

だから最近、君たち五十師の話題も聞いたんだ。

私はこの特殊な目があるからね。

常人には見えないものを見たり聞いたりすることができる」


「じゃあ俺らと同じか。」


きっと幼い頃から、自分たちは共通する過去や同じような思い出があっただろう。

俺たちにしか理解できないことがたくさん。


そんな特殊すぎる俺たちがこうして巡り会ったのは、偶然と呼ぶにはあまりにも不自然だ。

そんな短絡的かつつまらないことであるわけがないと、今ここにいる誰もが思っているはずだ。



「ならサイラスさんも、俺たちの仲間になってくんないかな?最終的には目指してるとこは一緒だろ?」


この気を逃すまいと、俺は単刀直入にそう言った。

まぁ見るからに一筋縄ではいかなそうな人物だが、絶対に欲しい戦力だ。

それに……


「俺らがどうして普通と違うのか。

どうして今この時代にこうして巡り会ったのか。

意味がないわけがないんだ。

きっと、1人では成し遂げられない各々の困難を、全部このチームで突破するためなんだって俺は確信してる。

君にとっても俺らにとっても、全員の力が必要だ。」



皆の顔がこちらに向いたのがわかった。


サイラスの片目が真剣に俺を射抜く。

真意を探るように、その玲瓏な瞳が揺れた。


「……わかった。」


「おっ、ホントに?」


「しかし私は騎士ナイトだ。

11人の円卓の騎士を束ねていたアーサー王の末裔。

裏切り者は容赦なく斬るが、二言は無いな?」


見開いた眼光とその表情に、初めて残酷な迫力を感じた。

目だけで人を殺めそうなほどのその圧にゾクリと鳥肌が立った。


しかし、このチームに裏切り者なんて出るわけがない。


「じゃあ決まりだね。

これからよろしく、サイラス。

俺は坂東昴。」


「私は安達駒子……」


「わぁ〜っ!仲間増えたーっ!嬉しいよ!

僕は佐渡和巳だよ!宜しく!!」


「……俺は虎太郎。

このクソギャルは……葎。」


「ワタシはユーゴ・メリンです!フランスから来たエクソシストだよ!サイラスは?」


「……私はイギリス生まれだが、幼い頃、剣技を学びに日本に住んだことが少しある……。」


「ナルホド!だから日本語がお上手なんだね!」



「ところでサイラスさんは男性?女性?」


さすがいつも通りの和巳。

思ったことを直球ですぐに聞いてしまう彼にはいつもヒヤヒヤさせられる。

しかし、誰もが疑問に思っていることではあるため、全員息を飲んで沈黙した。


「性別が、何かに関係するのか?

そんなものは、どちらであろうと何も変わらない」


その時、葎がトラの背の上でピクリと動いた。



「あっ、りっちゃん大丈夫?」


「……。身体……動かない……」


「葎さん、今はそのまま寝ていたほうがいいです」


和巳と駒子にそう言われ、葎はため息を吐く。



「あ……これ……アンタの虎か……」


「おー、そーだよ。てめぇに乗せるのはこれが最初で最後だからな!勝手にくたばってんじゃねぇよ」


分かりづらい虎太郎の優しさに、ふっと頬を緩めた時だった。


「皆様!ようやく見つけましたっ!ハァッ…ハァッ」


どこからともなくバッタリとアメノウズメに遭遇した。


「アメさんっ!よかったーっ!

俺らもう会えないかと思ってたぜ!」


「今すぐ戻りましょう!」


「「えっ?!」」


切羽詰まった表情のアメノウズメに当然俺らは目を見開いて困惑する。


「おいふざけんな!死ぬほど迷いまくって何時間も潰して結局なんもせず帰るだと?!冗談じゃねえよ」


虎太郎はキレ出してしまった。

いや、お前むしろお茶会してた時間が長かったんだぞ、と心の中でツッコむ。



「この森は既に大嶽丸の息がかかっていたようで……

私たちは一歩出遅れました。

天照大御神様の岩戸は完全に近寄れない状態になってしまっています」


「俺らさっきまでそいつらと闘ってたんだ。

でももう追っ払ったはず。

ここで引いたらまた次同じことの繰り返しになっちゃうし、とりあえずは行ってみようよ」


「そうだよ、アメッち!

それにほら!仲間も増えたんだ!」


和巳がまたいつもの調子で明るくそう言い、サイラスを紹介した。



「はぁ……またアナタですか」


「えっ?アメッち知り合いだったの?!」


「ええ。この方は何度もここにいらしているので」


「何度もここに?!?!」


サイラスはその特殊な目の能力でここの道を開けたということか?

けれど……


「ここって、誰彼入れる場所じゃないんじゃ……」


「ええ。選ばれし者、呼ばれた者しか基本的には立ち入ることができません。この騎士は必要とされているということなのでしょう」


「ナルホド……では我々は仲間になって良かったデスネ」


「そのとーりだねユーゴ先輩!」


いや、前向きぃー……

まぁ確かにそうだし、今後の不安を考えても意味がないよな。うん、2人を見習おう。



アメノウズメをなんとか宥めて岩戸への道を進む。

先程とは違って、三種の神器を持つ3人はそこまで迷ったり言い争ったりしていない。

慣れというものなのか、それともここの空気が変化したからなのか、もしくは呼ばれているのか……

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神や妖が視える俺の正体がヤバくて日本三大妖怪から日本を救うため激ヤバ最強組織を創る 月咩るうこ🐑🌙 @tsukibiruko

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