第60話 サイラス・ペンドラゴン

葎が目の前の状況を諦め、気を失いかけた瞬間……



サッーーーー



一筋の光が見えた。


その光は、和巳たちに群がっていた大量の妖怪を一気に蹴散らした。



見たことのない西洋剣を持った美しい人物と一瞬目が合う。



……お姉ちゃんに……似てる……



そこで意識が途絶えた。




「っ!昴っ!無事だったんだね!よかったっ」



助けに入った昴と虎太郎、そしてデン。

しかし当然、目の前にいる見知らぬ人物に目を見開く。

男にも女にも見える美形で高身長の人間。



ズザザザザザッーーー

バババッーーー!!



「チッー」


いや、今はそんなこと考えている余裕はない。

目の前の状況をどうにかしないと。



昴たち5人と使い動物たちの力があれば、本来ならいくら大量の妖怪たちを相手だろうとすぐに終わらせることができるのに、この妖怪たちはさすが大嶽丸のものたちだからか、なかなか思うようにいかなかった。


昴だけでなく、全員が心の中で焦ってしまっていた。


これだったら……大嶽丸本体はどのくらいのレベルなのかと。


日本を落とせるほどの力があると言われている最強の鬼神。

ここでこんなに手間取っていては自分たちだけで奴を倒せるわけがない。



「おい、そこのお前」


「はっ?」


俺のこと?!


先程から何故か一緒に戦っている見知らぬ人間に話しかけられた。


「その子を連れて下がってろ」


なぜ初対面の知らない人間に指図されなきゃなんないんだなどと思っている余裕すらなく、昴は急いで葎を抱き上げた。


「誰なんだ、あれは」

「僕たちも知らないんだ」


そもそも……

こんな所に俺ら以外の人間が入り込めるのか?


スっと隣に来た虎太郎が、息を切らしながら


「まぁいい。どこの誰だか知らねぇけど、どうやらアイツがこの場を丸く収めてくれそうだ」


そう言った瞬間、見知らぬその人間が、自らの不思議な見た目の剣を思い切り地面に刺した。


「エクスカリバー…」


そう唱えるのと同時に、ありえないほど眩しい光が一気にその場を支配した。

目が開けていられなくなり、昴たちは目を背けた。


次に目を開けた瞬間には、なんと全て消えていた。


目の前には、両手で剣を掴みながらハァハァと息を切らしている人物がいる。



「だ…大丈夫ですか……?」


和巳が恐る恐る声をかけると、その人物はよろよろと立ち上がった。


「はぁ……気にしないでくれ。

この力を使うと毎回こうなるんだ…」


明らかに力が入っていない調子でその人物は立ち上がった。


身長はユーゴより少し低いくらいだが明らかに180cmはあるだろう。

ベージュ色の艶やかな長髪をポニーテールにしている。

片目は前髪で隠れていて、どうみても日本人には見えない。

女性とも男性ともつかない見た目をしている。



「……助けてくれてありがとう」


昴が礼を言うと、その人物は顔を上げた。

玲瓏なその瞳に、思わずゾクリと鳥肌が立つ。



「もしかして……キミたちが最近 噂の五十師いそしか?」


「「?!?!」」


突然のその言葉に全員が目を見開く。


「どうしてそれをっ……あなたは一体誰なの」


駒子が少し警戒しながら言葉を強めた。

その人物は駒子に薄ら笑いかけた。


「別に私は怪しい者ではないよ」


「いや、充分怪しいっつの」



虎太郎のツッコミは最もだ。

そもそもこんな所に自分たち以外の人間が入り込んでいるなど……

しかもたった1人でだ。



その時、葎が小さく呻き声を上げながら目を開いた。

瞳の中にうっすらとその人物が映る。


「お…ね……ちゃん……」



人物はようやく呼吸が整ってきたのか、地面から剣を引き抜いた。



「私の名前はサイラス・ペンドラゴン」



ビュゥウウウウウーーーとか風が吹き、前髪で隠れていた片目が表れた。


それはなんと、美しいオッドアイだった。



「ちょっ…と待って……え、え、えぇ?」


「どうしたんだ和巳」


「いや、だってっ……まさかペンドラゴンってあの……

それにさっきも剣のことエクスカリバーって……」



「えぇ、そのまさかっすよ。」


驚愕している和巳の横で、博識フクロウ神のフクが冷静に声を被せた。



「あの世界で1番有名な騎士ナイト、アーサー王。

アーサー・ペンドラゴンの末裔に違いないっす」


「えっ!?」


さすがにそれくらいは俺も知っている……

確かにアーサー王の剣といえば、世界中の誰もが知っているあの伝説のエクスカリバーである。



ぴょこぴょこっー



「あっ!」


俺たちについてきたあの白うさぎが、サイラスに飛びついた。


「あぁっ!どこへ行っていたんだよラビ!」


ウサギを抱き締めるサイラスを見て俺はまた心の中で名前に関してツッコミを入れた。


いやいやまさか、ラビットのラビじゃねぇよな?

なんで皆そうなんの?

まぁ俺も似たようなもんだし、遣い動物の名前に関して考えること放棄したい気持ちはわかるけどさ。



「その子、途中で出会って、それっからずっと俺らといたけど、サイラスさんの使い魔だったんだな」


「あぁ、そうなんだよ。途中ではぐれてしまって捜していたんだ。連れてきてくれてありがとう」


白いふわふわを抱いて爽やかに笑うサイラスに、思わずドキリとなる。

本当に美しすぎて、ユーゴと良い勝負だ。



「ところでアンタは、なんの目的でこの森に?」


恐らくここにいる誰もが1番知りたいことを真っ先に口に出したのは虎太郎だった。

サイラスはキョトンとした顔をした。


「ここに来る目的なんて、皆1つしかないだろう?」


「えっ?じゃああなたもアマテラスさんに?」


「もちろん。」


俺らが目を見開いていると、また虎太郎が不機嫌そうな声を出した。


「そういうことを聞いてんじゃねぇよ。

なんの目的でってのはアマテラスに会う理由のことだ」



サイラスは妖しく目を細めた。

性別不詳、年齢不詳、圧倒的強さを持つ騎士。

俺らと同じように、伝説の男の末裔……


なぜアマテラスに会いたいのか?

理由がないわけがないのだ。


少し沈黙してから静かに口を開いた。



「私は……アーサー王の意志を継ぐ者」



サイラスはエクスカリバーに指を滑らせた。



「アーサー王の理想や目的は、イギリスを統一し、平和と繁栄をもたらすことだった。

彼は円卓の騎士たちと共に、正義と勇気を重んじる騎士道精神を実践し、国を守り、人々を助けることを使命としていたんだ。」



円卓の騎士は、中世イギリスの伝説、アーサー王に仕え、彼のもとで冒険や戦いに挑んだ騎士たちの集団の名だ。



「貧しい人々や弱者たちの権利を守り、全ての人々が平等に尊重される社会を築くことを目指していた。」



「それはアーサー王がエクスカリバーを抜いて、真の王として解決したはずじゃ……」



「されていない」



和巳の言葉にサイラスは首を振る。



「君たちだって気付いているだろう?

今、世界は混沌に陥っている。

私の国だけじゃない。彼が真に目指していた平和は、何一つ解決していないんだよ。」



確かにそうだと誰もが頷かざるをえなかった。


世界はいつも、平和とは程遠い。

何千年も平和を求めているのにだ。



「……だから私は、各国の力を持つ神を尋ねている。

それが、私が生まれた理由、使命なんだよ」



鋭く力強い眼光に、その曲がらない鋼のような意志の強さを感じた。

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