第59話 葎の思い
安達駒子、服咲葎、ユーゴは
勾玉片手にあっちに行ったりこっちに行ったりひたすらウロウロしている佐渡和巳の後を追うのに痺れを切らしてきていた。
「はぁ……どーすんのよ、ほんっとに。
昴たちともアメノウズメさんともはぐれちゃったし、目的地にはぜんっぜん辿り着く気配ないし、絶対ウチら迷子じゃん。」
「ワタシは結構楽しいですケド!
アドベンチャーデスね!」
「……昴と虎太郎、大丈夫かな……」
「この勾玉に従っていさえすれば!必ず昴たちに巡り合うはず!」
それぞれがかなりバラバラなテンションで歩き続けているのだが、しばらく行くと突然、葎が膝を着いた。
「えっ?!ど、どうしたんだい葎センパイッ」
「りっちゃん?!大変だ!」
「葎さんっ!大丈夫?!」
3人は駆け寄って葎を支える。
「はい!水分補給して!」
和巳がペットボトルの水を口につけるが、横にただ流れていくだけで、葎の意識が朦朧としている。
それを神妙な面持ちで見たユーゴは、自分の聖水を取り出した。
「和巳……センパイの口を開けていて」
「あ、うん……」
葎の口に無理やり聖水を流し込むと、葎は数秒後にゲボっと何かを吐き出した。
「「!!!」」
それは真っ黒い液体だった。
「やっぱり……」
「えっ?やっぱりってなんだよユーゴ先輩!」
「ここに入った時から気付いていたけど、この森はオカシイんだ」
「私も思ってた。強い霊気や呪詛に対しての耐性を持っていないと、きっと精神が乱される。」
和巳は目を見開きつつ、嫌な汗が浮くのがわかった。
でも、だったらおかしい……
この2人に耐性があるのは分かる。
陰陽師と祓魔師だから。
けど僕は……?僕はそんな耐性絶対に持っていないはずだ。
「もしかしたら和巳の場合は、その勾玉が守護してくれているのかもしれないね」
ユーゴの言葉に、和巳はハッと無意識に勾玉を握った。
だったら今、草薙剣を持っているはずの虎太郎は大丈夫ということか?
なら、昴は?
「早く……一刻も早く昴たちを見つけないと……」
顔面蒼白になる和巳に、ユーゴも駒子も焦りの表情を浮かべる。
「そうだけどっ……葎さんを置いてはいけないよ、まだ歩けそうにないし…」
「うん、だから二手に分かれよう。
僕とユーゴ先輩で行くから、駒っちゃんはりっちゃんとここにいて」
「はっ?それはどちらも危険でしょ!何言ってるの」
「ワタシもそう思いマス……。今ここでこれ以上バラバラになるのは得策ではないし……」
「……だけど、昴たちを探さないと……何かあってからじゃ」
その時、葎が咳をしながら意識を取り戻した。
「あ〜……身体だっるい……」
「葎さん、大丈夫ですか。無理しないで」
葎はゆっくりと起き上がった。
「はー……いいよ、アンタら全員で行ってきなよ。
ウチはここに残る。」
「「「?!?!?!」」」
3人とも、何を言い出すんだとばかりに驚愕の表情で言葉を失った。
「そんなことできるわけないよりっちゃん!」
「そうですよ!ここに1人置いていくなんて」
「体調悪いし、もう疲れたの。
そもそもこんな永遠ウロウロしてさぁ、岩戸になんて着くわけないじゃん。
それ本当は分かってるんじゃないの。時間の無駄。」
誰もが複雑そうに顔を歪めたその瞬間……
ズドドドドドドドーーー
突然四方八方からたくさんの攻撃が飛んできた。
咄嗟の気配に鋭いのはやはり葎だ。
しかし葎は全回復していないため動けなかった。
代わりに、ユーゴが「プロテクション」と言って間一髪全員を守った。
しかしユーゴの服が少し切れ、腕から血が滲んだ。
4人とも、一気に警戒心を滾らせ各々の武器を取る。
嫌な汗が流れ、血流が早くなっていくのがわかる。
「一体どこから……!」
駒子が呟いたのとほぼ同時に、葎が手裏剣を飛ばした。
その一瞬で、ドサッと木から何かが落ちた。
恐る恐る見に行くと、それは以前大学を襲ってきたヤモメと同じような見た目をした妖怪だった。
「まさかっ……大嶽丸のっ……!」
「そうだろうネ。とにかくまだ警戒を解かない方がイイ」
ユーゴはそう言って首から提げている十字架を握り、目を瞑った。
神経を研ぎ澄ませると、ユーゴの頭の中に、みるみる情景が流れ込んでくる。
「っ……向かってくる……」
「えっ?何が?!」
「3秒後に来る!!皆気を付けて!!」
ユーゴが手を翳した瞬間、一気に向かってきた"何か"を反射するように弾いた。
かと思えば、またはね返るようにして来た大量のソレはヤモメと同じような姿の大量の妖怪だとわかった。
全員が一気に戦闘モードに入る。
「エクアテル」
ユーゴの力でさえ、弾けたそれらはごく一部だけだった。
「ガブリエル!」
「フク!」
「シロちゃん!」
各々のパートナーを出し、補助させながら一気に叩く作戦に出た。
まだ不調な葎を、全員でなんとか庇うようにして戦う。
「ウチのことはいいからっ……いい加減放っといてよ」
「放っとけるわけないだろ!仲間なんだから!」
葎を庇って足から血を流す和巳の怒鳴り声に、葎は息を飲んだ。
なんとか木を掴んで自分を立たせ、
「クロウ」そう一言言った。
たちまちカラスが大量に出てきて自分を取り囲んだ。
「クロウ……ウチの仲間を助けて……」
意識が朦朧とする中、カラスたちが一斉に襲いかかっていくのがぼんやりと目に映る。
「りっちゃんしっかりして!最強のクノイチでしょ!」
あぁ…どうしよう。
頭が痛い……吐き気がする……
ホントの原因はわかってる。
この場所のせいじゃない。
本当はウチ自身が、闘うことを拒否しているんだ。
最強のクノイチ……かぁ……
この人たちはわかってないんだろうな。
忍しのびが本当は、なんなのか。
忍者の最後の末裔
決して血を絶やすな…と
そう言われて育てられてきた。
けれどきっと、ウチの代でこの血は終わる。
幼い頃から忍道を叩き込まれてきたウチと姉。
優秀なクノイチだった姉は、ウチが高校一年生の頃に死んだ。
忍の目的はただ一つ。
人を暗殺することだ。
謀術、暗殺
忍が全盛期だった時代から、
忍者の生業は依頼された仕事を遂行すること。
この仕事はたいていはそれだ。
つまり忍は、人を殺すことに長けていなければならない。
ヤクザの返り討ちにあって殺された姉。
父は、嘆いていた。
姉が死んだことに嘆いていたんじゃない。
幼い時から鍛え上げてきたはずの、自分の最高傑作である姉が、ここまで弱かったのかと嘆いていたのだ。
それ以来父は、ウチに死ぬほど厳しくなった。
姉の仇は全てウチが討った。
本当はもう、何もかもが嫌だった。
鍛錬も、任務も、こんな暮らしも。
忍の家系に生まれたことを心底呪った。
「葎は好きに生きればいいんだよ。」
そう言ってくれた姉の恋人にずっと、片思いしている。
絶対に、100%叶わない恋。
そうだとわかっていても、ほんの少しだけでもウチのことを見てほしいと思っていた。
だから、三種の神器を父の目的には使わせない。
絶対にウチが先に手に入れるんだ。
家系のことなんてどうでもいい。
血が途絶えてもどうでもいい。
ウチは思う存分、自分だけのために好きに生きてやる。
そう思っていたのに……
どうしてだろう。
この人たちといると……
成すべきことを成せと、誰かが頭の中で訴えてくる。
その度にウチは、頭痛と吐き気を催す。
ウチが人殺しなんて知ったら、
この人たちはどう思うだろうか。
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