第23話 スタミナパン

「なんでそんな所で一人ボケットしてんの?」

放課後のグラウンドをフェンス越しから眺めていたらいきなり健斗に声をかけられた。

笑美さんに頼まれたパンフェスタのアイディアは一向に湧いてこなかった。二週間後にはまとまったアイディが欲しいと言われた。

時間がない・・・パンを1から考える事なんてやった事がないし、長野県民と言っても正直地元の事しか分からない。

それにただ長野の特産やアピールをするわけじゃない。

『笑顔のパン屋』らしさがちゃんと残ったパンを考えないといけないんだ。

そんな事を考えて多々ずっと放課後を彷徨っていた矢先の事だった。

「考え事してたの今日はバイトないし」

「考え事ってどんな?好きな人が出来たとか?」

「違うよ・・・急に難易度の高い頼み事されちゃってさ

どうしようかなって・・」

私はフェンスに置いた鞄を持ち逃げる様にグラウンドを立ち去ろうとした。

「待てよ、もう帰るの?」

「もうって・・・三十分くらいずっと此処にいたんだけど・・

そんな事より私と話してて大丈夫なの?サッカー部練習してるけど?」

部活中に健斗が私とゆっくり話している時間なんてあるはずがない。

「俺のチームは今休憩中でさ・・・スパイク変えるついでに美心を見つけてさ・・・」

疲れているのか、心なしいつもより声が柔らかかった。

健斗はしばらく無言でサッカー部の練習を見ていた。

どこか寂しそうに・・・。

「元気ないの?」

思わず聞いてしまった、聞かなくても良い事を。

「俺さ、サッカー部やめようかなって・・・・」

「え?いつもあんだけ頑張って練習してるのに?」

「頑張ってるのは練習だけ・・・試合ではいつもミスばっかゴールを守る一番大事な役なのに・・・この前の先輩の試合も俺が最後止められていれば先があったかもしれない」

私はサッカーなんて普段見ないから細かい事は分からない、でも一番責任とプレッシャーがかかる役なのは間違い無くゴールキーパーのはず。

ましては先輩の引退がかかった大事な試合でゴールを守れなかったなんて・・・私なら恥ずかしくて二度と試合に出たくなくなる。

「俺より上手い奴なんて沢山いる。再来週に強い学校と練習試合があるんだ。その結果次第で俺はベンチから外れるかもしれない。そしたらもう良いかなって・・・・・無駄に続けるくらいなら部活やめて勉強した方が為になるからさ・・・」

「や、やめないでよ」

私は咄嗟に思いもよらぬ事を口に出してしまった。

私に健斗の選択を決める余地なんて無いのに・・・

でも、健斗にはサッカーを続けて欲しい、健斗の気持ちはわかるけど、それでも・・・・

「私からしたら部活してる人みんなすごいよ。私なんてパン屋のバイトを始めるまで自分がどうしたいかすら分からず適当に生きてた。まあ今もまだはっきり分かんないけど・・・・でも毎日、朝も放課後も部活で頑張って、休みだってあんまり無いのに頑張ってて・・・凄いんだよ、羨ましんだよ。だから続けてよ・・私だって今はなんとかバイト出来てるんだし・・・」

息が上がっている、ベラベラと健斗に自分の気持ちをぶつけてしまった。

「美心・・・」

健斗は驚いた顔で私を見ている。

「色々言ったけどその・・・やめないでよ・・・それだけだから本当に・・・」

私は顔を真っ赤にしてその場を去る健斗の顔はあえて見ない。

「美心!ありがとう!ちょっと元気出た、それとやっぱ俺お前の事好きだ」

私は足を止めない。健斗の声が聞こえるがそれでも足を止めない。

体の体温が急速に上がり、沸騰して溶けてしまうんじゃないかと思った。

私に運動部みたいなスタミナは無い、早歩きで学校の坂を下ると息を完全に下してバテてしまった。

暑い今すぐ涼しい場所で休みたい。

私は涼しさを紛らわす為駅前のコンビニに入る。

レジ横のスペース『新発売!夏を乗り切るスタミナパン発売中!』と大きなポップとその上に置かれてある袋詰めのパンに目を奪われる。

手に取りサイズをよく見ると、同じコンビニで売られているジャム入りコッペパンと比べると少しサイズがデカかった。

私は気づいたら『スタミナパン』を手に取り会計をすませてしまった。

次の電車が車で時間がある。

駅の待合室でスタミナパンに豪華にかぶりつく。

さっきの事もあって無駄にカロリーを使ってしまったし丁度良い。

外観がコッペパンのくせして中の具にはニンニクスパイスが効いた細切れの豚肉がたっぷり入っていた。

美味しいが少し油っぽくて私にはあまり合わない味かもしれない。

半分も食べないうちにお腹がいっぱいになり食べるのをやめた。

きっと部活終わりの野球部やサッカー部が食べるくらいが丁度良いのだろう・・・だから『スタミナパン』と名前がついているんだ納得も行く。

でも面白い発想だと思う、絶賛パンフェスタのアイディアを考え中の私には良い刺激になった。

どんな味だったら、見た目だったら『笑顔のパン屋』のイメージを残して長野県を伝えれるだろう、気持ちが伝わるんだろう・・・・



















   

   




 

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笑顔のパン屋さん @Waruiji

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