第22話 私がパンを一から・・・

初夏の始まり六月はあっという間に過ぎ去り、気づいたら七月に入っていた。

パン屋のバイトを始めてもう三ヶ月、三という数字だけを見ればまだまだ短い、でも確かにこの三ヶ月の間に『笑顔のパン屋さん』でアルバイトをした日々は確かに存在している。

夏を感じる放課後のグラウンド、吹奏楽部の奏でるメロディー今年の夏は去年とはきっと違う、そんな希望を抱いていた。

ふとグラウンドで練習しているサッカー部を見ると総体が終わり新体制になったのか同じ学年のサッカー部の面々が先導して練習をしていた。

勿論その中には健斗の姿もあった、キーパーとしてゴールを守る凛々しい姿が。

今日はお店が休みでさっさと家に帰って扇風機を浴びながらアイスでも食べよう。

学校の坂を下り終え信号を待つ。

青に変わった瞬間突然電話が鳴り響く。

私は慌てて信号を渡って電話に出る、相手は笑美さんだった。

どうしたんだろう?お店は今日休みのはずだ・・・

「もしもし美心ちゃん?」

「はい!どうしたんですか突然?」

「もしかしてなんだけど・・まだ学校の近くに居たりする?」


おしゃれなカフェに入ると甘いケーキの匂いが体全体に染み渡る。

笑美さんは私の学校の近くに用があって来ていたらしい

「美心ちゃんこっち!」

甘い匂いの店内を見渡しながら笑美さんを探す。

この時間空いているのか店内には空席が結構あって、落ち着た雰囲気だった。

店の窓際に座る笑美さんを見つけてすぐに席に座る。

「お疲れ様です!」

「ありがとう!わざわざ来てくれて!」

実はバイト以外で笑美さんに会うのは初めてで何故か少しだけ緊張してしまう。

笑美さんは今日珍しくいつもより外見に気合を入れているのかメイクや着ている服もいつもより綺麗で一瞬別人かと思った。

「このカフェお気に入りなの!店からも車ならすぐだし、何よりここのキャロットケーキが美味しいの」

そう言ってメニュー表を取り出し私に見してくれた。

私は笑美さんに言われるがままキャロットケーキとレモンティーを注文した。

「それで急に美心ちゃんを呼んだのにわねは少し理由があって・・」

「はい・・・」

深刻な話だったらどうしよう・・・少し不安になる。

「美心ちゃんに手伝って欲しい事があるの」


『日本ベーカリーフェスタin代々木上原』毎年東京で行われる大規模なパンのイベントらしい。

各県一店ずつ代表で選ばれたお店が一ヶ所に集まるパンのお祭り。

そして今年の出店候補に『笑顔のパン屋』が長野県の代表枠として選ばれたそうだ。

『笑顔のパン屋』は開店してからやっと半月を迎える頃、それなのにこんな大きなフェスに呼ばれるんて光栄な事だろう。

それなのに笑美さんはずっと浮かない顔をしていた。

「オファーが来た事はすごい嬉しいのでもね・・・出店にあたってテーマがあって・・・」

「テーマ?」

「長野県のPRをテーマに一つパンを作らないといけないの・・・私は出身がここじゃないからさ、長野県の事が正直全然分からいの。だからこのパン作りを美心ちゃんに協力して欲しいの!」

「わ、わたしが?」

困惑と驚きで変な声が出てしまった。

「長野県民のアイディアが欲しいの!」

私がパンを一から・・・バイトでは泊まり込みの時たまに

教え通りにパンを捏ねたり味付けをする事はあった、でもそれは既に決まったレシピ通り、言われた通りにパンを作っただけ・・・普段から好んでパンなんて・・・一から作ることなんてないし、ましては料理だってまともに出来ない私が・・・。

でも・・・笑美さんは私に手伝って欲しいと言った。

だったら・・・・ここはやるべきじゃないのか?

「アイディアくらいなら・・・・」

「そう言ってくれると思ってた!助かるよ本当に!」

笑美さんは嬉しそうに私の方を見つめる。

まもなく注文したキャロットケーキとレモンティーが私の前に運ばれた。
















   

   




 

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