第21話『笑顔のメロンパン』

安曇野市の小さな商店街の一角に今日は店を置くらしい。

移動販売といっても保健所の審査や車を置く場所を申請しするなど色々と準備が大変らしい。

最近は毎週、日曜日の午後から移動販売として長野県の様々な地域を周る。

前まで不定期でやっていた移動販売もやっと安定したと笑美さんは喜んでいた。

私は長野県の人間だけど知らない土地の方が多。

今日来た安曇野も初めててで、私の住んでいる上田とは雰囲気が全く違う。

私はインスタグラムに今日の移動販売についてのストーリーを投稿する。

最近インスタグラムの広報を任される事が増えてきた。

私は周りに比べてキラキラ女子高生ではないが、それでも

「若い子の方がこういうのは得意でしょ?」と笑美さんは押し付けてきたのだ。

よく考えてみれば私は今年で十七、笑美さんは確か二十六になると言っていた。

私と笑美さんとでも十歳ちかくも差があるのだ。

移動販売を始めてから十五分程立って続々とお客さんが訪れる様になった。

小さい商店街とは言っても日曜日で人通りはそれなりにある。

『笑顔のパン屋』が目に入って、パンを見に来る人も、インスタを見て買いに来たというお客さんも居た。

この前地方テレビの特集で『笑顔のパン屋』が取り上げられた。

撮影は平日というのもあり私は映っていないが笑美さんの顔や声、そして店内の様子もハッキリとテレビに映っていた。

「今の時代はネット」だと世間は言うがやはりテレビの効果はすごい。

地方テレビとは言え放映後からインスタのフォロワーや店の集客にかなり影響があっと思う。

そんな数年後には超人気店になりそうなこの場所で私は今アルバイトとして働いている、この事に少しは誇りを持ちたかった。

「めろんぱんください!」

小さな女の子が『笑顔のメロンパン』を指差した。

「おひとつですか!?」

「ちがう、にいにのもあるからもういっこください」

小学一か二年生?だろう、少しずつ覚えてきた言葉を必死に並べている姿がとても可愛かった。

「お会計が五百円になります」

「おかねもってない・・」

これは困った・・まさの無一文?

笑美さんに声をかけようと思ったが、場所を貸してくれた商店街の方に挨拶に言ってしまった。

「近くにお母さんとかいる?」

「いない、でも!にいにがいる」

「お兄ちゃんね・・・」

周りを見渡すがそれらしき人はいない・・・どうする・・

「おい!なこ!」

商店街の奥から聞き覚えのある声が響く。

「あ!にいに!」

女の子はその人に向かって手を振っている。

私はゆっくりと振り返る、後ろから走ってきたのは健斗だ。

「え?」

私は衝撃を抑えられず声に出してしまう。

なんでこんな所に健斗がいるの?

健斗の家は安曇野なんかじゃない・・・・ハズだ

「美心・・?」

「なんで健斗がここにいるの・・・」

「今日、叔母の家に来てんだ家族で・・」

「なるほどね・・ビックリしたよー」

「お前こそ、本当にバイトしてんだなパン屋で」

「わ、悪い?ちゃんと働いてるの・・・」

「いや・・制服、似合ってんじゃん」

「ちょお!やめてよね・・」

バイトしてる姿を見られて恥ずかしいハズなのに・・「似合ってんじゃん」その一言で頬を赤く染め照れてしまった自分がいる・・

「にいにはやくおかねだして!」

「あ、美心、いくらだっけ?」

「五百円・・・・妹さん?」

「ああ、結構離れてるけどね・・奈子って言うんだ」

妹がいるのは知っていた、でもこんなに歳が離れていて・・

それでもしっかり面倒を見ている健斗、意外な一面も目撃した。

「じゃあな!また明日!」

健斗は奈子ちゃんの手を引きながら帰っていった。

健斗にバイトをしている姿を見られたのはなんとも言えない、それでも二人の元に『笑顔のメロンパンが』届くのは嬉しい。

「もしかして美心ちゃんの好きな人だったり?」

いきなり、私の横から笑美さんが話しかける。

「まさか、見てたんですか?ずっと?」

「うん!戻ってきたら美心ちゃん、顔を赤くして話してたからさー」

「好きなんかじゃないです・・ただの友達です・・」

「本当かな??」

私は車に反射した自分の顔を見る。

健斗は友達・・・好きなんかじゃない・・・

余計な事を考えない様に何度も心にいい聞かせた。















   

   




 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る