第6話 捜索願
その白骨死体が誰なのか?
警察が、いろいろ調べたが、なかなか白骨にまでなってしまうと、DNA鑑定も難しく、
「どうしてそこから発見されたのか?」
さらに疑問として沸き起こった前述のような、
「白骨が動かされた」
という疑惑もあるので、なかなか難しい。
そもそも、これが、
「事件なのか、事故なのか?」
ということになるのだろうが、白骨が埋まっているのが発見され、どこかから移動してきたというのであり、しかも、
「早く白骨を発見させたかった」
という意図が本当にあったのだとすれば、やはり、
「事故というよりも、事件という方が大きい」
ということだろう。
犯人とすれば、ずっと今まで発見されないようにしていたものを、今になって、発見させようと企んだわけで、そこには、明らかな意図が含まれているということなので、そこにどのような意図があるのか、そこが問題であろう。
もちろん、鑑識というか、ここから先は科捜研によるものなのだろうが、解析が行われた。
分かったこととしては、
「死後約10年くらい経っているものではないかと思われますね。骨格の感じから、女性ではないかと思われますが、やはり何とも言えません。顔の極端に小さな男性かも知れませんからね」
ということであった。
「約10年ということは、前後一年くらいと見ていいですか?」
と聞くと、
「まあ、そうですね。それくらいだと思っていいのではないでしょうか?」
ということで、とりあえず、その頃に出された捜索願を調べてみることにした。
何しろ、膨大な数なので、せめて、発見現場管轄の捜索願から調べてみることにした。
もちろん、中には、無事に生きて発見された人もいれば、最悪な結果として、実際に死体となって発見された場合もあった。
そのほとんどは、交通事故だったりという事故が多かったのだが、中には、
「何かの事件に巻き込まれた」
ということもあったりしたのだ。
だが、まだまだ行方不明のまま、放置されているものも相当ある。何しろ、捜索願というものが、どういうものなのかを知っていれば、
「捜索願を出しているから、警察が調べてくれている」
などというあり得ないことを妄想している人がほとんどだろうから、実に虚しいといってもいいかも知れない。
一般的に、
「警察に、捜索願を出したとしても、まず、まともに探してくれてなどいないのだ」
というのも、まず、最初に、
「その行方不明に、事件性があるかどうか?」
ということが問われるのだ。
「何かの事件に巻き込まれた」
つまりは、
「誘拐」
「殺人現場をたまたま目撃した」
などというものであれば、事件性があるといってもいい。
しかし、どちらも、犯人から何かアクションがあったり、死体が見つからなければ、事件性があるかどうかは分からないだろう。
通り魔がまかり通っていたりしている場所で行方不明になったりすれば、捜査もするだろうが、逆に通り魔であれば、死体が発見されるものだからである。
通り魔殺人というと、
「犯人の露出狂的性格から、死体を放置する」
ということが考えられるということで、これも、
「時すでに遅し」
ということになるだろう。
つまり、
「捜索願を出しても、まず事件性があるかどうかという曖昧なことで、ほぼ捜索は行われないだろう」
ということだ。
次に考えられるのは、
「自殺」
ということであるが、
「これも、よほど、何度も自殺未遂の常習犯でもなければ、自殺かどうかということも考えにくい」
と言える。
しかも、自殺を繰り返してはいるが、結果として死んでいないのだから、まるで、
「オオカミ少年」
の話のように、同じことを繰り返していて、結果目的を達成できていないのであるから、
「どうせ自殺なんかできっこない」
と思うのが、警察であっても、しょせんは他人ということで、真剣に心配はしないだろう。
ということになると、
「警察というところ、基本的に、捜索願が出された案件を、真剣に捜査するということはない」
といってもいいかも知れない。
警察とすれば、
「そんなに、人探しがしたいのであれば、そのプロである、私立探偵にでもお願いすればいいのではないか?」
と思っているのかも知れない。
もちろん、そんなことを口にで来るはずもなく、受理だけしておいて、何もしないということである。
「どこかで聞いたような話だ」
と感じた人もいるだろう。
一つ思い浮かんだこととして、
「小説家を目指している人が、持ち込み原稿を出版社に持っていく」
というパターンであった。
普通であれば、
「門前払い」
あるいは、編集者の人が面談はしてくれ、ニコニコ話を聴いてくれるかも知れないが、あくまでも、
「営業スマイル」
でしかない。
素人作家が置いていった原稿は、そのまま、ゴミ箱へポイということだ。
「素人作家が原稿の押し売りになんかきやがって、こちとら忙しいんだ」
と言わんばかりであろう。
ただでさえ、
「作家の先生」
という人が増えてきて、最近では、ネット小説であったり、ネットの世界での配信が増えてきているので、紙媒体での出版は、実際には、減ってきている。
何といっても、本屋自体が街から減っているではないか。
本が売れなくなったことで、本屋が減ってくる。しかし、どんどん増えてきた文学賞や新人賞の受賞者という、
「プロのタマゴ」
もどんどん増えてきている。
もちろん、その中でモノになる作家というと、一握りなのだが、それでも、
「半分プロ」
というような作家が飽和状態なのは確かであろう。
そうなると、本当に、
「ド素人の作家志望」
になどかまっていられない。
それは、正直、昭和の昔からも言われてきていたことで、20年くらい前に流行った、
「自費出版社系」
の会社による、
「詐欺事件」
へと発展して行ったということも過去にはあった。
自費出版社系が、一世を風靡したのは、
「持ち込み原稿が見ずに捨てられる」
ということが、当たり前のように言われるようになったからだろう。
テレビドラマで、
「マンガ家志望」
だったか、
「小説家志望」
だったか忘れたが、原稿を持ち込むと、捨てられるという、それまでならタブーをされていたはずの内容を放送したからだった。
ただ出版社としても、逆に、
「公表してくれた方が、持ち込みが減って、相手する時間が無くなるの有難いことではないか」
と思っているだろうから、きっと、嬉しいことに違いない。
それを思うと、テレビ放送もありだったのだろう。
そこに目を付けたのが、
「自費出版社系」
と言われるところであった。
「本にしませんか?」
という広告を新聞や雑誌に掲載し、
「原稿をお送りください。こちらで批評してお返しします。その際に当社基準の出版形態から、ご提案させていただきます」
ということであった。
「批評してくれる?」
というところに、素人作家は飛びつくのだ。
今まで、自分の作品を批評してもらうなど、有料の、
「添削講座」
のようなところでしかなかった。
それも、そんなに安いものではない。それを思うと、自費出版社系の会社に原稿を送る人が増えてきた。
そして、言われるのが、
「協力出版」
である。
言葉巧みに作家に金を出させて、それが、会社の利益になるところまで吹っ掛けるのだから、詐欺だと言われても仕方がないだろう。
それが、やつらの、やり方だったのだ。
それでも、
「本を出したい」
と思っている人が相当いて、ひょっとすると、出版社側が想定していたよりも、相当数多く出版できたのかも知れない。
一時期は、
「年間で出版数が最高」
と言われた時期があったくらいだが、売上ということになると、
「限りなくゼロに近い」
といってもいいだろう。
なぜなら、本を作っても、本屋の棚に並ぶことは、絶対といっていいほどありえないからだった。
本屋に並ばないのだから、売り上げになるわけはない。それを補いのが、
「騙されて金を出した素人作家」
である。
ちょっと考えれば、
「詐欺だ」
ということはすぐに分かりそうなものなのに、それが分からないということは、あくまで贔屓目に見てだが、
「盲目になっていた」
ということであろう。
結局、
「本屋に並ぶことがない」
ということに気づいた、本を作った人たちが、
「詐欺だ」
と騒ぎ出し、集団訴訟のような形になり、信用はがた落ちとなることで、それまで、
「自転車操業だった」
ということが致命的になり、一気に、
「自己破産」
ということになったのだ。
それまで、本当に、
「急な階段を、一気にかけ落ちてしまう」
ということになったのだ。
もっとも、
「どっちもどっち」
といってもいいだろう。
正直に言って、
「いい加減に気づけよ」
と言いたい。
騙される人が最初からいなければ、ここまで大きな社会問題になったり、最後のごたごたはなかっただろう。やはり、
「詐欺は詐欺でしかない」
ということになるのだろう。
さすがに、警察の捜索願を。
「詐欺だ」
と糾弾するのは筋が違うのかも知れないが、
「捜索願を出したとしても、あくまでも形式的なことで、何もしないのであれば、詐欺と言ってもいいのではないか?」
と言えるだろう。
警察という組織は、少なくとも、
「公務」
である。
警察官すべてが、公務員だと思うと、彼らの給料は、税金から出ているわけである。
昔流行った、
「税金泥棒」
という言葉が、まさにこのことを言っているのではないだろうか?
そもそも、税金泥棒というのは、
「政治家や官僚」
にも言えることで、ある意味、政治家などは、本当の、
「税金泥棒」
と言ってもいいだろう。
特に今の、
「ソーリ」
は、自分のことしか考えていない。
いや、言い方が悪かった、
「今のソーリは」
ではなく、
「今のソーリも」
と言わなければいけないだろう。
ただ、それを言い直さなくてもいいくらいに、今のソーリは、歴代ソーリと比べても、
「最低最悪の男」
なのであった。
何と言っても、
「世界的なパンデミック」
と言われる伝染病が流行っていても、国民を見捨てるような政策しかとらず、その言い方はまるで、
「自分の命は自分で守れ。政府は知らん」
と言っているようなものだ。
「経済活動を優先しないといけないから、患者が増えても、行動制限はかけない」
と言っているのだ。
確かに経済活動の優先というのは当たり前のことであるが、そのくせ、
「海外には、金をばらまぃ」
あるいは、
「国防費をねん出するために、増税する」
などといって、国民を締め付けているではないか。
国防費を増やすということは、
「アメリカから武器を買って、アメリカにもうけさせる」
というだけのことでしかないのだ。
すべて海外のために我々の血税が使われている。国内では、パンデミックのために、刻一刻と刻まれる時の間で、どんどん会社が潰れていっている。それが今の日本という国ではないか。
それを、果たして今のソーリは分かっているのだろうか?
「いや、分かっているはずだ。分かっていて、わざと日本国民を犠牲にして、自分が外国にいい顔をしたい」
という考えがバレバレである。
いくら、選挙がずっとないからといって、こんな、
「やりたい放題」
といってもいいソーリに、国を任せていてもいいのだろうか?
「税金泥棒」
と言われても仕方がないだろう。
「国のトップ」
がそうなのだから、警察組織だって、似たようなもの。
もっとも、さすがに、このソーリに敵うものなどいないであろうが、これほどの、
「悪党は、見たことがない」
といってもいいかも知れない。
警察も、もっと本気になって、国民と向き合うような気持ちが少しでもあれば、検挙率であったり、犯罪抑止というものができるのではないだろうか?
「そんなものは、絵に描いた餅でしかない」
と言われ、
「気休めでしかない」
のかも知れないが、それでも、ほんの少しでも変われば、それは奇跡といってもいいレベルなのであろう。
余談が長くなったが、捜索願を実際に調べてみると、
「なるほど、ほとんどが、未発見だな」
ということであった。
この中から、
「被害者を特定するのは、困難ではないか?」
と思われたが、実際に探してみると、ひょんなところから、浮かび上がってきたものがあった。
というのは、その捜索願の中の一つに、見覚えのある名前があったからだ。
それが、今回の捜査にも加わっている、
「萩原刑事」
だったのだ。
ちょうど10年くらい前のこと、まだ、萩原刑事が大学時代のことだったが、まだ未成年だったということもあり、実際に届けを出したのは、彼の母親だった。
両親は離婚しており、父親もどこにいるか分からなかったが、生きているということは分かっているということであった。
その母親が出した届の相手というのは、萩原刑事の妹だった。
当時はまだ高校生で、塾の帰りに行方不明になったということであった。
妹は、付き合っている男の子がいたが、受験も控えているということで、なるべく、肉親には知られないようにしていたが、彼もさすがに、妹が行方不明になったということで気になってしまったのか、交際していることを告白してきたのだ。
そして、
「僕も心当たりを探します」
といって、一緒に探してくれた。
母親の方も、
「こんな時に、交際をどうのと言ってはいられない」
ということで、
「お願いします」
ということだったのだが、
これは、妹と彼しか知らないことであったが、実は、二人は、狂言誘拐まで企んだふしがあった。
もちろん、いきなりそんなことをするわけもないが、
「もし、交際を断られたら、ちょっとした狂言誘拐の真似事くらいはしてみよう」
という話はしていたのだ。
もちろん、警察に通報されると、その時点で計画は終わってしまうので、本当に簡単でおおざっぱなものでしかなかったが、本当に切羽詰まってくると、そこまでいかないとも限らないと、特に、美代子の方は思っていたようだ。
むしろ、彼の方は、消極的だったようである。
「そんなの絶対に成功しないよ」
というので、
「何も本当にすることはないのよ。素振りだけを見せておいて、覚悟があるということを示せればいいだけだからね」
といっていたのだ。
妹は、結構行動的なところがあったので、本当にやったかも知れない。
ただ、闇雲にするわけはないほど、計画性のある方だったので、どこまでが計画されたことだったのか、彼にも分からなかった。
行方不明になった以上、その計画もできるわけもなく、実際にそれどころではなくなったということで、美代子の親に名乗り出てきたのだろう。
捜索願を出せば、
「警察が動いてくれる」
ということを、その時、皆信じていたようだ。
そもそも、普通の人だって、
「捜索願を警察が無視するなどありえない」
と思っていたのだから、萩原もその親も、他の人と同じくらいの感覚でいたに違いない。
だが、警察からは、最初は状況を知らせてきたが、次第に何も言わなくなってきた。
それこそ、
「警察が、通り一遍のテンプレートのような仕事しかしていない」
ということの証明だったに違いない。
それを思うと、
「実にやり切れない気分だ」
と、自分が警察という立場になったことで、分かったのだった。
萩原の妹が行方不明になっていたことを、警部に伝えると、警部も、少し考えていたようだ。
そうして、桜井刑事を呼び寄せて、事情を話すと、
「君は、どう思う?」
と、桜井刑事に聴いたのだ。
警部は、考えあぐねている時は、必ず桜井刑事を呼ぶ。もちろん、警部が自分で決定できないほどの、
「能なし」
というわけでは決してない。
誰からも慕われる、カリスマ性のようなものを持った人であることは誰もが認めるのだが、どちらかというと、桜井刑事に聴くのは、
「自分の考えを、さらにハッキリさせるため」
という意識の方が強いようだった。
桜井刑事も分かっているのか、
「じゃあ、私の考えとしては」
ということで話始めるのが、いつものパターンだったのだ。
「今回のこの話、萩原刑事に話をした方がいいと思うかね?」
と聞いた。
「警部としては、可能性が低いとお考えですか?」
と聞き返した桜井刑事の目に、何か光るものを感じた迫田刑事だったが、今度は、完全に腹が決まったのか、
「よし、わかった。話すことにしよう」
と警部がいうと、
「じゃあ、その役は、迫田刑事に任せることにしましょう」
といきなり、迫田刑事を名指しした。
名指しされた迫田刑事が少し驚いたが、桜井刑事の顔を見ると、何かを悟ったのであろうか、ニコニコしているので、
「分かりました。なるべく平常心で話すようにします」
と迫田刑事がいうと、
「うんうん」
と、桜井刑事が頷いていた。
迫田刑事は、すぐに萩原刑事を呼んで話を聴いてみた。
「君の妹さんが、行方不明になっているというのを、今回の白骨事件の捜索願を捜査していると、偶然知ることができたんだけど、君は、それを身内に黙っていたのは、どうしてかな?」
といきなりの核心を突くかのような話をするのだった。
萩原刑事の顔が明らかに変わった。少し、顔色が悪いというか、
「核心をつかれて、驚いている」
というのか、それとも、
「妹のことを言われて、思い出してしまった」
ということなのか、その階イロハ明らかに悪くなったのだ。
それは、前者であれば、
「ううっ、まずい」
と感じたからで、後者であれば、
「思い出させるなよ」
という気分なのか、疑問が残るところだった。
普段から、萩原刑事を見ていて、
「一生懸命な時は一生懸命なんだけど、時々、気が抜けたのか、何を考えているか分からない」
ということがあると感じていた。
何を考えているのか分からないということは、間違いなく、
「気が散っている」
ということであり、それが、行方不明の妹のことを考えているからなのか分からなかったのである。
「刑事だって人間だ。肉親の、しかも、相当仲の良い肉親だったら、行方不明というだけで、気が狂いそうになっても仕方がないだろう」
と思った。
そういえば、迫田刑事には、今回の事実が分かってから、
「ああ、それなら、納得がいくようなことも結構あったわ」
と、いまさらのように感じることもあったのだ。
事件が解決すると、普通であれば、手放しに喜ぶことが多いというのが、警察官だと思っていた。
しかし、萩原刑事は、事件解決に向けて、必死になって、どちらかというと、何も考えずに動いているロボットのごとく、目的に対して一心不乱の様子なのに、事件が解決すると、放心状態になる人が多い中で、いつも、何か、やるせなさのような感覚。それも、理不尽さを感じているかのようなその様子に、頭を悩ませるかのような雰囲気が残ったのだった。
「どうして、萩原のやつは、事件解決後にあんなに苦虫をかみつぶしたような複雑な表情をするんだろう?」
と思っていた。
事件解決までは、そんな顔は不謹慎だと思って我慢して、必死になって捜査していたのは、
「俺のような気分になる人を、少しでもなくしたい」
と思うからなのかも知れない。
しかし、実際に事件が解決してしまうと、
「皆がこれで救われてよかったな」
という思いと、
「それに比べて俺は」
という、妹一人、どうすることもできなかった自分への憤りから、
「よかったなどということを、この俺が感じてはいけないんだ」
という考えではないだろうか。
それを思うと、複雑な心境が、顔に出てきたとしても無理もないことであり、それが、警察にいる時の自分と、一人になった時の自分との境界線のように思えるのだった。
だから、彼はいつも、事件が解決したら、
「一人になりたい」
と思う人物なのだと、迫田刑事は、感じていたのだった。
「これ以上聞かなくても、彼の気持ちが分かる気がするな」
と感じてはいたが、肝心なことを聞かないわけにはいかない。
「今回の白骨死体だけど、一応科捜研に調べてもらおうと思うんだよ。いいね?」
と聞いた。
「迫田さん、何を言っているんですか、私に遠慮しなくても調べればいいんですよ。それとも、私に何か疑いの目でもあるんですか?」
と、いかにも挑発的な言い方であった。
「もちろん、警察官である以上。発見された遺体の身元を調べるのは、絶対に必要なことだし、まずは、そこからすべてが始まるわけだよな。だから身元調べは行うさ。だけど、君の心境を思うと、まずは、聞いておきたいと思ってね」
と、迫田刑事がいうと、
「何をおかしなことを言ってるんですか? 当たり前のことを当たり前にするのが、警察の捜査ではないですか?」
というと、迫田刑事は、彼の顔を見ながら、
「ああ、こいつは、自分が今逆上しているということに、気付いていないんだな」
ということであった。
そう言えば、迫田刑事は、今、デジャブに襲われていた。
かつて、似たようなことがあり、桜井刑事が今回の自分の役をやったのだが、その時、二人で話すことだと思うようなその場に、迫田刑事も同席させた、
捜査本部では、その時に尋問を受けた刑事が、
「事件に何か関わっている」
という、
「証拠があるわけではないが、十中八九、事件の核心部分を、その刑事が握っている」
ということが分かったので、桜井刑事に聴いてくるように命じたのだ。
迫田刑事は、その時の桜井刑事の対応が、
「まったく感情に流されず、ただ、相手のいうことをしっかりと聞いていた」
というのを思い出した。
しかも、相手のいうことが、こっちに対して挑発的になっていることを分かっていながら、絶対にこっちからカッカしないということを心がけているようだった。
「まるで、座禅でも組んでいるかのような感覚ではないだろうか?」
ということであり、迫田刑事は、
「今の自分も、あの時の桜井刑事のような心境にならないといけない」
ということであった。
しかし、あの時見ていた感情よりも、実際にその立場になると、思っていたよりも、自分が責められているという感覚がないことに気づいていた。
前の桜井刑事を見ていて、
「ノーガードで打たれ続けている」
という風に思っていたのに、今の自分は、打たれているという感覚はあるが、
「痛いとは思わない」
というものであった。
ただ、冷静に考えていると、まるで自分が桜井刑事になったような気がしてきたのだ。
「そうか、桜井刑事はそれで俺にこの役をくれたのか?」
と、迫田刑事が感じたのだった。
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