第2話 過去のお宮入り事件
この事件の内容としては、
「ある老人夫婦の家に強盗が入ったのだが、二人組のその強盗は、被害者となった老夫婦の寝込みを襲ったようで、夫婦をそのままナイフで刺し殺し、金庫からお金を奪って逃走した」
という、強盗殺人事件であった。
金庫が開けられているということは、
「相当に親しい間柄の人間が、主犯、もしくは共犯として参加している」
ということは明らかだった。
そこで浮かんできたのが、被害者が日ごろから可愛がっていた30代の男がいたのだが、この男が事件の後、行方不明になっていることで、重要参考人として手配することになったのだ。
残虐非道な犯罪だというのは、
「老夫婦は、寝込みを襲われ、無抵抗のまま刺されたというのに、身体には、数か所に及ぶ、刺し傷があった」
という。
それだけでも、明らかに凶悪と言ってもいい犯罪で、このニュースが報じられた時、世間からは、
「なんという極悪非道な犯行だ」
ということで、世間からの注目度はかなりのものだった。
ワイドショーなどでは、絶えずトップのコーナーで報道され、1週間以上に渡って、警察の捜査が注目されていたのである。
しかし、そのわりに警察が掴んでいる情報というのは、少なかった。
というのも、この老夫婦はm一種の、
「守銭奴のようなところがある」
と言われていて、そのせいもあってか、
「この老夫婦に関わっている人は少なかった」
ということだったのだ。
マスゴミや世間は、好き勝手なことをいう。
「とにかく、殺された人が可愛そうだ」
というのは、もちろんのことなのだが、それは正直、マスゴミの報道によるものなので、どこまで信憑性があるかというのは、世間の皆も分かっていることであろう。
それでも、信じてしまうのが、世間というものであり、そのせいで、警察も結構大変なところがある。
ただ、この事件を耳にした人で、少し年配の人であれば、思い出す事件もあったのではないか。
あれは、昭和の終わりだったか、平成の頭くらいであったか。
「老人をターゲットにした詐欺事件」
というものが発生し、こちらも世間を騒がせたものだった。
こちらは、
「被害者が殺される」
ということはなかったが、何よりも、それまでにはなかった。
いや、あったかも知れないが、ここまで表に出てくることはなかったのではないだろうか?
というのも、この事件は、
「会社ぐるみ」
の、組織的な犯行だったからである。
被害者は、
「お金を持っている孤独な老人ばかりだった」
というのが特徴で、犯人グループ、ここでは、詐欺組織会社の社員と言われる連中が、言葉巧みに被害者に近づき、優しさを餌に相手に取り入り、完全に安心させようという手口だったのだ。
中には、女の社員であれば、色仕掛けを遣ったりしていたようだ。
とにかく、老人を安心させ、いろいろなツボや、金ののべぼうを買わせるなどしていたのだ。
手口は巧妙で、買わせたものは、相手に渡さず、一度、
「これを買いました」
といって、見せておいて、
「物騒なので、私どもが会社の金庫に預かっておく」
ということで、簡単な預かり証のようなものを渡しただけだったようだ。
もちろん、詐欺なので、その購入というのも真っ赤なウソで、会社の金庫に入れているというのも、すべて贋者。中には一つくらい本物があったかも知れないが、それも、
「何かあった時のため」
というものだったのかも知れない。
だが、こういう詐欺行為というのは、幅を広げれば広げるほど発覚する可能性は高い。
その発覚を、犯人グループが最初から予測をしていたのかどうか分からないが、疑惑が、次第に真実だということになってくると、いよいよ、マスゴミが騒ぎ出す。
この時の発覚は、
「内部告発」
つまりは、
「マスゴミに対してのリーク」
というものがあったのではないだろうか?
さすがに、非道な犯罪だということで、心ある社員が、ジレンマから苦しんだうえでのマスゴミリークだったのだろうが、結果、マスゴミが世間を煽ることで、警察も本腰を入れていた。
ただ、実際には、このリークというのは、警察とすれば、
「余計なことをしてくれる」
ということであった。
実際に、警察も、詐欺グループの存在を把握していて、実は、
「内偵」
というものが、進んでいたのだった。
せっかく水面下で証拠を掴み、この詐欺グループを一網打尽にしようという計画だったのが、完全に崩れてしまった。
世間でもマスゴミでも、
「内部からのリークをしてくれたおかげで、世間にこの事実が公表されたことで、リークした人を、正義の味方のように考えていた」
ということであった。
しかし、実際には、このリークは、
「会社ぐるみ」
だったようだ。
というのも、
「警察の捜査が入っているのが分かり、大規模捜索が行われるのも、時間の問題」
と言われるようになってきたことで、やつらは、
「世間の目を引き付けることで、警察の捜査を攪乱させてやろう」
ということだったのだ。
ただ、それを自らの罪を告白するようであるが、こうやって先手を打っておいて、
「警察の出鼻をくじき、内偵からの捜査という基本的なやり方を崩すことで、少しでも、時間を稼ぐという方法で、今度は世間が期待している成果を警察があげられず、面目を丸つぶれにすること」
で、
「このあたりが潮時」
ということで、撤収するつもりだったようである。
だから、まるで、敵前強行突破のようなやり方をしたのだ。
「攻撃こそ最大の防御」
という言葉を使ったといってもいいだろう。
だが、悪いことはできないもので、そんな悪徳組織の思っているようには動いてくれなかった。
想像以上にマスゴミの効果はすごく、
「切り抜き報道」
などのおかげで、あることないことをすっぱ抜かれ、そのあたりは完全に悪徳組織も計算が狂ったようだ。
「何だこのマスゴミの圧力は、悪徳という意味でいけば、我々よりもひどいじゃないか」
というほど、完全に計算が狂っていた。
そんなこともあり、会社には、マスゴミが押し寄せて、社長の突撃インタビューを試みようとしていたのだ。
やつらは、自分たちが悪徳であり、
「自分たち以上の悪徳はいない」
というくらいに思っていたようだ。
だから、マスゴミをうまく利用しようと思ったのだろうが、まさかそのマスゴミは自分たちの上前を撥ねるような、もっとひどい集団であるということを完全に失念していたのである。
元々、マスゴミは、勧善懲悪ではないし、実際に、
「囲み取材」
のすごさは、政府などへのインタビューでも分かっていたが、ここまで煽るとは思っていなかったのと、
「世間はウワサニなったとしても、その時、センセーショナルな話題として騒ぐだろうが、すぐに他の話題が出てきて、忘れてくれる」
と思っていた。
だから、一度は世間を騒がせることをしておけば、次に何かあった時は、
「ああ、あの集団ならありえる」
というくらいの、
「テンション低め」
で推移すると思っていた。
しかし、
「マスゴミというのは、勧善懲悪ではないが、世間は勧善懲悪だった」
いや、勧善懲悪のふりをしているというべきか、何か大きな事件や疑惑が起これば、
「俺たちは勧善懲悪の立場だ」
ということを前面に出し。そのことが、逆に話題を長引かせることに繋がるのであった。
だから、その勧善懲悪に対して、マスゴミがまたしても騒ぐのだ。
つまり、話題が長引くというのは、
「堂々巡りを繰り返すことで、なかなか世間が忘れるということはない」
ということだったのだ。
だから、この詐欺事件は次第にヒートアップし、最初の組織がもくろんだ計画は完全い裏目に出たのだった。
そのせいで、マスゴミが密集する中で、
「社長の殺害未遂事件」
というものが発生した。
テレビカメラが動いている、生中継の中で、暴漢が現れ、社長にナイフを突き立てて、素早く去っていくというものだった。
生放送で、しかも、一瞬の出来事だったことと、マスゴミの習性というのか、カメラを回すことが優先されて、結局、全国に暴漢の一部始終が流れることになった。完全なる、
「放送事故」
だったのだ。
それだけに、またしても、センセーショナルな話題が続くことになった。
だが、いきなりの映像は世間を凍り付かせたというもの事実で、マスゴミも。
「これ以上、この事件に前のめりになるわけにはいかない」
ということで、今までのような、囲み取材のようなこともなくなり、何か別の案件でこの会社が浮かび上がってこないかぎり、様子を見るということにしたので、世間の方も徐々に忘れていった。
社長は、何とか命が助かり、曲がりなりにも組織の思惑通りになったというのは、組織にとっては良かったのかも知れない。
ただ、社長の負傷という、大きな犠牲も元であったことも、彼らが悪徳であるという因果応報だったのかも知れない。
ただ、結果としては、疑惑の中で罪に問われるということがなかった組織であったが、もうこれ以上の悪事はできない。確かに引き際ではあっただろうが、当初は、
「もう少し儲けるつもりだった」
ということであったようで、計画は狂ったが、それも、自分たちが世間を甘く見ていたことから起こったこと。
「俺たちが招いたこととはいえ、痛み分けということになったかな?」
と組織幹部は思っていたことだろう。
この組織が結果どうなったかというと、二代目社長が、初代が一旦身を引いたはずだったのに、もう一度同じことをしようとして、今度はまた同じように、マスゴミの集中砲火を浴びたが、今度は、警察が介入してきて、完全にやっていたことが暴露されたことで、もう世間から、相手にされず、徹底的に罪に問われることで、会社の息の根は止まってしまい、幹部は罪に問われることになった。
この代の幹部は、初代の時の幹部とは違い、頭が切れる人もおらず。結果、無能な社長と一緒に、先代と同じことをしようとして失敗したのだ。
そもそも、二番煎じがうまくいくこともなく、しかも、初代のようにキレるわけではない。しょせんは、
「二代目のジレンマ」
ということによって、焦ったところもあったのだろう。
「親父を超える」
という意識であったり、
「二代目の甘さ」
などと世間や、幹部に言わせまいという気持ちが強かったようだ。
しかも、幹部も結構2代目がいたりした。
何と言っても、悪党の息子が、普通に一般企業で働くこともできないだろう。
なぜなら、先代から、
「悪党としての教育」
というものを受けてきたからではないだろうか。
「いまさらかたぎになんか、なれるわけはないんだ」
ということだったのであろう。
そうなってくると、この詐欺グループは、
「表に出ようとした瞬間に、頭の上がコンクリートで固められていて、出ることができないと分かったことで、窒息死すれば平和だったのかも知れないが、英才教育のおかげで、表に出ることができた。しかし、その時には時代が変わっていて、自分たちのやり方が通用しなくなっていて、挙句の果てに世間を敵に回すと、どうすることもできないという、先代たちが味わってきた状況を、嫌でも知ることになる」
ということだったのだろう。
そんなことも、すでに今の時代では、ほとんどの人が忘れていることだろう。
特に、2代目の時のことは、すぐに世間は忘れていたことだろう。
というのも、
「センセーショナルというのは、最初だからこそ、衝撃的なものであって、二番煎じは、あくまでも、サルマネでしかない」
ということであった。
だから、
「前にも似たようなことがあった」
ということを世間が感じると、
「何だ、二番煎じか。性懲りもなく、また同じことをやっているだけか」
ということになるだろう。
それを考えると、確かに、
「老人をターゲットにした、霊感商法的なこと」
ということで、当時は世間では騒いでいたが、いうほどの衝撃で騒いでいたというわけではない。
「皆が騒ぐから」
というだけで、自分も調子に乗ることで、相手に対してダメージを与えることはできるだろうが、ただ、それだけのことで、組織がわは、怖気づいてしまったのだろうが、それで潰れてしまうというのは、本当の、
「自滅」
ということであり、それも結局は、
「自業自得だ」
ということである。
だから、今回は警察が、組織より勝ったということで、
「敵に背を向けて、一目散で逃げようとしている相手であれば、警察はその威力をいかんなく発揮する」
ということであろう。
組織は完全に壊滅し、まったく浮上してくることはなかった。
会社としても完全に消滅し、世間からも、警察からもそちらの記憶から消えていくのであった。 ただ、一つ気になることとして、
「やつらが、ぼろもうけしたはずの金はどこに行ったのだろう?」
ということであった。
被害者がたくさんいるわけで、その人たちへの救済は、ほとんどされていない。
「騙し取られたままだ」
ということだった。
しばらくは、
「被害者の会」
というものが結成され、
「何とか被害者に少しでも、保証されれば」
ということで動いていた。
やつらから返ってくるというよりも、政府だったり、自治体からの協力を仰ごうと思ったのだが、結局は、
「国民の税金」
からということになる。
勧善懲悪であるかのような世間であったが、あくまでも、自分に関係がないから言えたことで、
「税金を投入して被害者を救済」
などということになると、とたんに大反対だ。
「何で、騙された連中のために血税が使われるんだ? あれは被害者連中の自業自得ではないか?」
と、
「可愛そう」
といっていた舌の根の乾かぬうちに、
「自業自得」
というワードが飛び出してくるのだった。
要するに、それだけ、
「世間の風」
というものが、実にいい加減で、冷たいものなのか?
ということの証明なのであろう。
そんなことを考えていると、
「警察だって、しょせん、勧善懲悪にはなれないんだ。それどころか、弱きをくじき、強気を助けるというような体質ではないか?」
と思えてくうのだった。
「縦割り社会」
と言われるものへの疑念や、憤りがないのだが、それは、見ないようにしているから気にしないだけであって、実際に意識してしまうと、
「警察というものが、漠然と理不尽だ」
と考えるようになるのだった。
ただ、今回のこの事件は、自分が刑事になりたての頃にあった事件と、どこか似ているので、実際に、再捜査してみたい10年前の事件と、昔にあった、
「年寄りを狙った詐欺事件」
との間に、何か共通したものが感じられることもあって、どうしても、こちらの曽佐資料や調書も、気にして見ているのであった。
さすがに、10年前の事件の時には、警察の縦割りであったり、自分の憤りがどこからくるのかということも、分かるようになっていた。それだけ、経験を積んでいるということなのだろうが、警察というものを、
「一方向からしか見ない」
ということではないということで、成長したのだといえるだろう。
その10年前の事件、こちらは、完全に、
「凶悪犯」
であった。
昔の事件というのは、
「卑劣な犯罪」
ではあったが、
「凶悪」
というわけではなかった。
ただ、
「金を奪う」
という行為は共通していて、結果として、
「その人の人生をそこで終わらせる」
という意味では共通していた。
確かに詐欺事件では、命を奪うわけではないが、それまで、必死で働いてきて、
「楽しい老後を生きよう」
と思っている人の、ささやかな楽しみを奪うのだから、残りわずかな人生だということを考えると、いかに卑劣かということが分かる。
10年前の事件は、
「有無も言わさずに、命を奪い、その結果金を奪う」
というよりも、
「お金を奪うために、相手の命を奪った」
ということだったのだ。
「そもそも、命を奪うことまでは考えていなかったのではないか?」
という意見もあったが、だとすると、実際に殺しているというのであれば、
「顔を見られたから」
ということであり、結果として、人が惨殺されているのだから、恨みがあったわけではないとすれば、
「実に身勝手な犯罪」
ということになり、絶対に許されるわけではないといえるだろう。
その時の捜査としては、その家に住んでいた息子が疑われた。
というのも、犯行があった翌日の第一便で海外へ旅行するということを、まわりの人に吹聴していたという。
しかも、実際に、死体が発見される前に海外に出てしまっていて、本来なら帰ってくるはずのその日に、帰ってこなかったのだ。
警察の捜査が続けられたが、
「その息子が犯人である」
という証拠は、まったく出てこなかったのだ。
「状況証拠は、明らかに息子が犯人だと示しているが、実際には誰が犯人なのかということはハッキリと言えない」
ということだった。
それだけに、息子の事情聴取が必要なのに、結局帰国したという気配がないまま、
「重要参考人が行方不明」
ということになったのだ。
もちろん、金を取られているので、
「強盗殺人の容疑が深い」
というわけだが、念のために、被害者に恨みのあるという意味での、
「怨恨」
からも捜査が行われたが、被害者二人を悪くいう人はおらず、恨みを買うようなことはないことから、やはり、
「強盗殺人だ」
ということになったのである。
当然のことながら、捜査本部は、暗礁に乗り上げてしまった。
「重要参考人が見つからない限り、どうしようもない」
という状態だった。
一軒家に忍び込んだということであれば、どれかの防犯カメラに映っているはずであろうに、
「賊が侵入した」
という形跡がなかった。
ただ、犯行時間の少し後に、殺害現場から逃げようとする影のようなものは確認できたのであった。
それにより、
「内部犯行」
という説がさらに大きくなってきた。
そもそも、この息子が怪しいということになったのは、
「犯人の侵入経路がハッキリしない」
というか、
「忍び込んだ形跡がない」
ということからであった。
しかも、事もあろうに、事件の早朝に海外に出かけ、そのまま行方不明になったのであれば、容疑者筆頭と言われても仕方がないことだろう。
「状況証拠だけなら、推定有罪だ」
と言えるのではないだろうか。
捜査本部を混乱させたのは、捜査が行き詰り、
「いよいよ、迷宮入りか?」
という時のことであった。
急に新たな情報が飛び込んできたからであった。
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