第7話 大団円

 桜井刑事の考え方として、

「もうすでに事件の概要が分かっているのだろうか?」

 と思うことであった。

 正直にいえば、迫田刑事には、この事件には、まだまだ見めていない事件の真相がどこかにあり、それを探している最中だと思っていた。

 しかし、

「桜井刑事には、その全貌が見えているのではないだろうか?」

 ということであった。

 桜井刑事は昔からそうだった。

 いち早く事件の真相に辿り着いていて、そのたびに、その検証を他の人にやらせて、自分は、

「それを後ろから見ている」

 というような感じだったということを、いつも事件が解決してから感じるのであった。

 だから、桜井刑事が事件の真相に辿り着く時は、迫田も、

「桜井刑事には分かったんだ」

 ということを感じるのであった。

 だから、自分が甘んじて、桜井刑事が自分でしようと思っている、

「考えの検証」

 を行うようにしているのであった。

 さすがに、萩原刑事も、

「ダメです」

 などと言えるはずもなく、実際に白骨の検証を行うと、

「十中八九、妹の美代子に違いない」

 ということになった。

 それを聴いて、桜井刑事の頭の中で、完全にそのスイッチが繋がったかのようであったのだ。

 桜井刑事を見ていると、その行動が、解決のヒントになることは、迫田にも分かっていて、迫田刑事も、

「桜井刑事がすでに事件の真相に近づいた」

 ということを分かるのは、他の人に比べて、断然早いのだが、今は、桜井刑事を見ていることで、

「自分も何とかその域に達したい」

 と思っていた。

 だから、桜井刑事に事件が解決してから、必ず確認することは、

「どこで事件の真相に気づいたんですか?」

 ということを聞くようにしている。

 最近では、迫田自身にも分かる気がしていた。

 というのも、

「分かって聴いている」

 といってもいいだろう。

 今回は、迫田刑事にも思い当たる節があったのだ。

 というのも、この事件が起こるまで、迫田刑事が、いつものように、10年前の事件の未解決資料を見ていた時は、桜井刑事も、

「いつものことか?」

 とでもいうように、暖かい目で見ていたのだが、今回の白骨死体が発見されたところから、10年というのがキーワードだったのか、迫田刑事に、10年前の事件の独自の意見を、何度も聞いていたのだ。

「今回の事件と関係ないはずなのに」

 と迫田刑事は思っていたが、実際には、そうではなかったようだ。

 実際に事件は解決して、萩原刑事も尋問を受けることになった。

 というのは、妹殺害の容疑だったのだ。

 そして、そのことを知っているのが、10年前の

「老夫婦殺害事件」

 で指名手配されたが、海外に逃げてしまったという、

「片桐兼人」

 という男であった。

 この男は、この老夫婦殺害事件だけではなく、他にもいろいろな事件に首を突っ込んでいるのだった。

 日本に帰ってこれないのは、そういうこともあったからだった。

 特に、

「元嫁殺害の容疑者」

 として、指名手配される寸前だったのだが、本来は、海外に逃亡を考えていたようで、そのための資金を得るという目的で起こったのが、老夫婦殺害事件だった。

 もっとも、指名手配されると思っていたのは、片桐の勇み足で、その時は、まだ警察は、

「奥さんが殺されている」

 ということまで分かっていなかった。

 やつが、海外に逃げてから、捜査をすると、奥さんが行方不明で、捜索願も出ていないということで、日本に住んでいた家の近くを捜索すると、奥さんの死体が埋められているのが分かったのだという。

 この片桐という男が、奥さんを殺害して埋めているところを、ちょうど、萩原青年に見られたという。

 萩原は、異常性癖を持っているようで、妹を子供の頃から好きだったことで、

「他の女を好きになることのできない」

 という性癖になったようだ。

 そこで、彼は妹に対する思いが強すぎて、

「自分のものにしておきたい」

 という気持ちが強く、結局、

「キレイなまま自分だけのものに」

 ということで、

「誰か他のものになる前に」

 ということで、妹を犯し、そして殺害したのだ。

 それをちょうど片桐に見られ、お互いに、極悪だということで意気投合したのか、ただ、見られたということと、立場的に圧倒的に、萩原が弱かったので、萩原は、片桐のいうことに逆らえないということになってしまったのだった。

 だから、萩原としては、

「本当は、片桐から解放されたい」

 という思いと、自分の性癖を、犯人を捕まえることで、自己満足させたい。

 もっといえば、

「犯人が捕まることで、俺よりももっとひどいやつがいるということで、俺の溜飲が少しでも下がればそれでいい」

 と思うようになっていた。

 今回のシナリオは、片桐が書いた。

「一度お宮入りになる前に、ガセネタを掴ませ、一度、オオカミ少年のような感覚を警察に思い込ませると、また事件をほじくり返すことはないだろう」

 ということだった。

 それには、お宮入りになるタイミングと、

「ガセネタでがっかりするという期間が短ければ短いほど効果的だ」

 ということを知り尽くした片桐の計画だった。

 だが、あまりにも近すぎて、

「警察内部に、怪しいやつがいるのでは?」

 ということを思わせたというのは、ちょっとした計算外だっただろう。

 とにかく、海外にいて、自分が何もできないと思わせていれば、

「犯人捜しをまた始めるとしても、今度は国内に目を向けるだろう」

 というのも、片桐の計算だった。

 そんな片桐に対して、

「何とでもして、自分が助かりたい」

 と思っているやつだと感じた萩原は、警察官になったことで、それまでとは違う感覚になっていることに、片桐は気づいていなかったのだ。

 何しろ海外にいることでもあるし、会ってもいない相手の心変わりなど分かるわけはない。あくまでも、

「目の前に見えている」

 ということだけが、真実だということなのであろう。

 萩原の方も、次第に片桐から気持ちが離れていて、自己嫌悪に陥っている自分が、精神的なジレンマに襲われているということが分かっていたのだ。

「片桐をこのままのさばらせていてもいいのだろうか?」

 という思いと、

「俺も捕まりたくはない」

 という思いが交錯している。

 それでも、かつての、極悪人といってもいいほどの異常性癖を持っていた自分が、一気に正義感に近づいていることで、逆に、片桐という男を、

「絶対に許せない」

 と感じてきたのだ。

 そこで、

「墓場まで持っていこう」

 と思っていた妹の白骨死体を、一度どこかに隠し、そして、すぐに発見されるようなところに再度隠したのだった。

 だから、

「学校の廃校跡から見つかった」

 というのも、ごく自然であり、その自然を招いたのが、萩原刑事だったのだ。

 萩原刑事は、今までの罪を暴露し始めた。

 萩原刑事の証言によって、今までいまいち最後のピースが嵌らなかったところがピタリと嵌ったのだ。

 ここまでくると、片桐にも、逮捕状を出すくらいは十分であるが、彼には、前述のように、他にもいっぱい余罪があるようだった。

 これも、萩原が話してくれたおかげで、すべてが明るみに出るようで、ここまでの極悪人であれば、

「国際手配」

 ということができるのだ。

 ただ、片桐も、

「萩原と連絡が取れなくなった」

 ということで、少し不安に感じるだろうから、他に動いてしまうのではないか?

 ということが言われるようになっていたが、実際には、動いていないようだった。

「きっとやつも、萩原が口を割るとは、夢にも思っていなかっただろう」

 ということで、

「時間との闘いだ」

 と思っていたが、いとも簡単に、片桐の身柄を拘束できるようになった。

 やつの悔やみはやはり、萩原に対してであり、ただ、その悔しいというターニングポイントは、

「お宮入り寸前で、ガセネタの作戦を行ったことが、一番の間違いだった」

 と言っているようだ。

 なるほど、あれがなければ、桜井刑事も今度の事件の真相にはたどり着けなかったかも知れない。

 そのことを、片桐は、

「オオカミ少年だ」

 と言ってるということであったが、迫田刑事は、最初は分からなかったが、途中から分かるようになっていた。

 すぐに、そのことに気づかなかった迫田刑事は、

「やはり自分が、桜井刑事に追いつくまでにはまだまだ時間がかかるんだろうな?」

 ということであった。

 しかし、勧善懲悪な性格が、今回の事件の解決に一役買ったというのは、当たり前のことだろう。

 それを思うと、迫田刑事も、

「俺もまんざらでもないか」

 と思うようになっていったのだが、

「萩原刑事はいくら異常性癖といっても、憎むことはできないんだよな」

 と感じるのだった。

「俺だって、一歩間違えれば」

 と考えてしまいかけた迫田刑事だったが、

「いやいやそんなことは」

 といって、心の中で首を振っている自分を感じていたのだ。

 策を弄する人間は、自分がされることに気づかない」

 というがまさにその通りだろう。

 片桐の敗因は、

「自分と同じ性癖だと、皆自分と同じ考えをずっと貫いていける」

 と考えたことだったのではないだろうか?


                 (  完  )

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同一異常性癖の思考 森本 晃次 @kakku

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