本編
朝は皆さんと同じですよ。
普通に起きて、両親の朝ごはんを作って、出勤です。
車椅子の母が薬を飲んでるのを横目に、行ってきます〜ってな感じです。
ほら、普通でしょ。
勤めているのは、街の中心にあるお医者さんです。
覚えています?
ちいさな診療所ですよ。
元は外科の入院施設があったあそこです。
先生が高齢になって、今は診療所になっています。
内科と外科、外科と言っても骨折や軽微な外傷を先生と看護師さん二人で対応しているんです。
まぁ一日に十人患者さんが来るか来ないかってところですね。
事務員さんも一人です。
私?
私、介護資格だけですけど看護助手というか雑用です。
ぼんやりな私でも、きちんと勤めてますよぅ。
ん、そうですよ。
未だにあの家で暮らしてます。
リフォームはしましたよ。
貴方のご家族が引っ越してしまった後も、田んぼに囲まれたあの家に、えぇ。
車通勤?
本当なら車で通勤するところですけれど、去年事故を起こしちゃって。
あぁ自損です。
私だけ居眠りで自爆しちゃって、首と肋、腰をね。
えぇ大事故です、自尊心が。
寝不足で。
それ以来、車は乗ってないんですよ。
お休みの買い物は、もっぱらバスです。
今日も貴方が拾ってくれたので楽ちんでした。
えっ?
久しぶりと言っても十年以上顔も合わせてない男の車に乗るんじゃない?
ははは、そう言ってくれる貴方は実にいい人ですねぇ、相変わらず。
まぁそれは置いといて、徒歩でもだいたい十五分ぐらいですか、毎日通っているわけです。
覚えています?
並木通りのほら、大きな石塔。
墓地の慰霊碑。
通る度に子供の頃は怖がってましたよねぇ。
今通っても、春には桜、秋には銀杏が綺麗でなんとも。
はいはい、そうですね。
並木通りを通って、潰れた映画館の前を通り、えぇ映画館、潰れちゃったんですよ。
子供の頃って、全部が全部、怖い話にもって行きたがりましたよね。
墓地の慰霊碑は、無念の霊の為に作られた。
それも大火事のきっかけを作ったと思しき人物が、そこでお亡くなりになったとか。
映画館も、戦争中にそこにあった隔離病院が焼け落ちた後にできたとか。
大人になって本当の事を知ってしまうと、まぁ怖くもなんとも無い話しなんですよね。
墓地の慰霊碑の元となったお話は、それこそ江戸時代まで遡るような出来事ですし。
隔離病院の話しも、単なる病院跡ってだけでなんら不審な事もありません。
昔話が伝わる過程で、ちょっとした味付けが大きくなってしまったんでしょうね。
あぁ料理が来ましたよぅ、食べましょ、食べましょ。
ん?
全然本題に進んでない?
はいはい、じゃぁ食べながらですけど。
映画館跡を抜けて、元化粧品店を横切ると皮膚科の個人医院があるんです。
この街、お医者さんがいっぱいあるんですよね。
そこの調剤の薬局の前に自販機があるんです。
話しが横道にそれてる?
違うんです。
そこの自販機は他に置かれてる自販機よりもジュースが安いんです。
きっと中身をその調剤薬局でツメツメしてるんでしょう。
ん、そうじゃない?
あぁそうだった、その自販機で毎日ジュースを買うんです。
ジュース、お水、コーヒー、まぁ必ず一本、節約志向で水筒にしろって意見は、この際、脇に置いてですね。
で、買うと、当たるんです。
毎日、当たるんですよ。
どうしましょう?
えっ、何いってんの?意味わからんですとぅ。
え〜と、つまり、毎日、その自販機で朝、アタリが出ちゃうんです。
故障してる?
かも知れませんね、なんか、解決しちゃったな。
顔が面白い?失礼ですね。
えぇそうです。まぁラッキーな故障ですよね。
でも、このアタリ、いつもじゃないんです。
当たり前?
そうじゃなくて、私が買うと当たるんですよ。
何を言ってるかわからない?
えぇっと、私が買うでしょ。当たる。
その後、誰かがポチると普通に出てくるだけ。
因みに、朝の一本だけ、必ず当たるんですよ。
小学生の七不思議みたいな話しをするな?
失敬な、最近、ちょびっと怖くなってきたんですよ。
毎日、おまけがついてラッキーとか、いくらぼんやりな私でも、ちょっとね。
買うの止めろ?
確かにぃ、解決ぅ。
はいはい、食べます。食べますよぅ。
で、それだけじゃないんだろ?
なんか、久しぶりなのに、中学時代を思い出しますねぇ。
あの時の美人の彼女どうしてます?
わかれた?
あれ、そういえば、彼女と結婚するとかしないとか?
別のお嬢様と?そこ詳しく、あだっ。
デコピンは大人にしてはならんのですよ!
バツ2、すごいですねぇ、私、まだ、バツどころかお一人様街道まっしぐらですよ。
はいはい、話しの続きですね。
で、ジュースが出て、わーい二本目ゲットだぜぃと、次に目指すはコンビニです。
お昼ごはんは、診療所でお弁当を頼むのですが、おやつは別に用意します。
先輩二人、看護師さんと事務のお姉さん方への賂も必要ですしね。
ぼんやりでも大人ですからね。
そういえば幼なじみさん、貴方、今何を?
まさか今流行りの自宅警備員とかですか、あだっ。
はいはい、地方公務員?転勤族で離婚族と、お子様は、はいはい、まぁお二人?
元奥様のご実家?違う、いや、ここまで聞いといて何ですが、言わんでいいですからぁ。
やだ、ワシ、噂好きのオバちゃんになりたくないですよぅ。
構わない?
どうせ、戻ってきたし?
あぁこっちにそれで、帰ってきたと。
あぁのほほんと学生時代と変わらぬ顔を見かけて声をかけたと。
それ、家の母親が救急車を呼んだ時にも言われたですよ。
救急隊の方、ちょうど近所の救急が出払ってて隣町からいらしていただいたんですけどね。
ほら、野球部の彼、覚えてます?
キャッチャーの、だったんですよぅ。
私のかわらないのほほんフェイスに、思わずおひさしぶりぃって会話に。
えぇ母は大丈夫でした。
何という時に、アホな会話をしてるんだ?
へへへ、まぁそんな感じで何故か私を分かる人多数。皆、オジサンオバサンになったというのにぃ。
話しは戻しますけど、このコンビニでお菓子を買ってから、アイスを。
落ちが読めた?
はい、何かアタリのある商品を買うと当たるんです。
そりゃもう、百発百中。
コンビニの店員さんに、ゴルゴと呼ばれるぐらいに。
不正もしてないのは、相手方もわかってますから。
もう、買いにくくて。
別のコンビニに行くか、アタリの無い商品を買え。
はい、解決したなぁ。
で、続きなんですけど。
まだ、あるのか?
えぇっとぉ、因みに、宝くじとか狙うと外れます。
だろうなぁってなんですかぁ。
まぁ人生甘くないですよね。
出勤して、先輩方とお仕事して、先生の雑用も片付けて、お掃除してぇと一日頑張るわけですよ。
社会人としてちゃんと働いてますよ、キリッと。
想像できない?
話しの結末は何処だ?
はい、昼休憩の時です。
お弁当を近所のお店に頼んでいるんです。先生の配慮でお安い値段で美味しいお弁当が来ちゃうのですよ。いい職場でしょ。
で、そのお弁当屋さんが、クジを、商店街のクジをですね。
あい、結末が読めた?
すごいですね、そうなんです。あたっちゃったんです。
で、困ったことに。
****
商品があたって困る事は無い。
わかってます。
私のこの奇妙な体質が、問題なのです。
あたったのは、宿泊券でした。
先輩方も先生も喜んでます。
宿泊券を進呈しましたからね、私は泊まれないし。
家族の介護を理由に辞退して、職場の三人で慰安旅行行ってきてくだせぃって感じで。
そしたら、先生がプラスアルファお金を出してくれて、ゴージャス旅行となったわけです。
ところが、三人とも優しくて、私もお手伝いの人を頼んで一緒にいきましょうよぅと誘ってくれたわけですよ。
でも、私、それも辞退しました。
だって、覚えてますか?
修学旅行の時の騒動。
まったくもって、あの騒動以来、私、基本、旅行も移動も一人にしてます。
覚えてます?
えっ、それが私とどう繋がるのかわからん?
電車は脱線、宿泊先では予定の食事提供が中止、さらにですよ。
見学先にもろくろくたどり着けなかった。
私には関係がない?
そう、見えますよねぇ。
違うのか?
まぁ聞いてください。
で、かわりに商店街の、ほら、りっぱなホテルにお食事と宿泊の手配をしてくださったんです。
お医者もお休みにするし、他三人は旅行だし。
あぁ何でしょう?
喫茶店のサービスですか?
当たり付きクッキー?
えぇっと、じゃぁこれで。
なんですか、私から食えと?
じゃぁはい、ぱきっと割って...。
何ですか、その微妙な顔は。
あぁ店員さぁ〜ん、アタリましたぁ。
わぁ可愛いクッキー二袋。
幼なじみ氏よ、私の体質に恐れおののくがよい。
と、言う事で、これお子さんにお土産どうぞ。
これ以上糖分をとると、私が肥え太るのです。
力士!
はいはい、こんな感じに加速度的にミニラッキーが続いているのですが、これちょっと怖いんです。
はい、私、人生の幸運って、量が決まっているような気がするんです。
私に大当たりが無いのを残念に思わないのは、人生ってまるっと丸ごとラッキー詰め合わせになってる訳無いって思ってるからです。
悲観主義とは違います。
幸運って、やっぱりその人の努力も必要だと思うんですよ。
かわりに不運は努力とか人間が左右できる物でもないですけど。
不運はきっと天災みたいなもんで、幸運は、人の努力も加味されてる気が、これ、私の個人の見解ですよ。
で、この私のミニラッキー。
何故か県外に出ると、何と言うか私の許容範囲を越えるんですよ。
考え方がおかしい?
はい、確かに。
何もかも自分起点に考えるのはおかしいですよねぇ。
でも、ちょっとばかり、いえ、何と言うか、うすうすですね。
言ってみろ?
はい、これおかしいなぁって思ったのが、中学の頃です。
部活の対外試合、県外遠征で駅に向かって歩いていました。
その頃から、病人抱えた家庭でしたから、迎えがいなくて。
まぁ一緒に帰ろうって皆、誘ってくれたんですけど。
買い物もしたくて、えぇ。
そしたら、声をかけられまして。
えっ、何、急に。
はい、知らない男の人で、車が近寄ってきまして。
車高短の頭の悪そうな男が二人。
無事だったのか?って、そんな怖い顔。
えぇ、こうして目の前で無事に喋ってますよ。何年前の話しだと。
それに近くにバス停があって、人が並んでたんで、ぜんぜん、怖いとかなくて。
で、まぁナンパ?らしいのですが、真面目にお断りしたんですよ。
そしたら、目の前で赤信号無視したダンプが、こう。
車って紙みたいに潰れるんですね。
やだ、嘘じゃないですよ。
トラウマで一週間ぐらい休んだの知りません?
ただ、あの時、ナンパしてもらって足を止めたのはラッキーでした。
じゃぁナンパで車を止めた方は、アンラッキーという事になる、でしょう?
つまり、私のミニラッキー体質の影響って、誰かのアンラッキーに繋がっていたらいやだなぁと。
まぁクッキー二袋ぐらいで誰かが不幸になるとは思いませんが。
で、修学旅行ですっけ?
私の乗った集合バス、パンクしちゃったんですよ。
で、電車に遅れちゃって大騒ぎ。
でも乗るはずだった電車は、脱線して大事故。
乗らなくて良かったぁ〜で、手配した別の長距離バスに乗り換えて、ホテルに到着。
そのホテルで食堂でガス漏れとか発生して、騒ぎに。
食事の提供もあるからと、荷物も降ろさずに提携の別ホテルに移るという神対応。
そしたら、その最初のホテルで食事をして人たちが、集団食中毒。
なんつーか、この頃から皆、もう、帰りたい帰りたいで保護者も帰らせろって催促したらしくて、ほぼ、何と言うか移動だけの修学旅行だった。
覚えてるでしょう?
結構たのしかった?
まぁトラブルっても、楽しいことは楽しかったですよね。
でも、知ってました?
私達が回るところの道路、土砂崩れで通行止めになってたんですよ。
予定道理、見学に行ってたら、死んでたんじゃないかって。
不運と幸運。
その配分を考えるようになってから、ちょっとのほほんの私も考えるようになっちゃいましてね。
で、旅行に関しては、基本、お一人様ってしてたんですよ。
で、地元ホテルの宿泊券。もらっちゃって、どうしようかなぁって。
これペア宿泊券で、母をショートステイに預けて父と骨休めすればって話し何でしょうけど。
やっぱり、一人がいいかなぁって。
でも、勿体ない気もしますし。
気にせず、食事して泊まればいい?
風呂でもゆっくり入って休めばいい?
確かにぃ。
県外に行かなきゃ、拡大しないような気もしますしね。
そうしようかなぁ。
ん、なんですか?
ひとつ聞いていいか?
はい、何でしょう。
「聞いてておもったんだが、お前のかわりに行く旅行ってのは、いつだ?
飛行機を利用するのか?」
はい、今日、皆さん、お出かけですよ。
I空港ですね。
私も今日が休みでラッキーでした。
いつもなら、この時間だと仕事してますし、お会いできなかったはずですもの。
なつかしいなぁ。
ほんとう、久しぶりの大ラッキーかも。
どうしました?
テレビ?
喫茶店のテレビ、見ろ?
臨時ニュース?
フォーチュン・クッキー C&Y(しーあんどわい) @c-and-y
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