双子の弟に書籍化マウントをとっていたら逆襲された話

無月兄

第1話

 ささくれ立つ。

 意味:些細なことで人間関係が不和になる様。


 俺と双子の弟であるアイツのとの関係は、まさにこんな状態だった。

 生まれた時から一緒で、ずっと仲睦まじい兄弟でいたのに、どうしてこうなったんだろう。


 それには、こんな経緯があった。




 まず俺がどういう人物が話さなければならないだろう。


 何を隠そう、俺は天才小説家様だ!


 初めて書いた小説をカクヨムに投稿して、あれよあれよと書籍化。見事、子どもの頃からの夢だった小説家になったのだ!

 いやー、自分の才能が怖い。


 一方双子の弟だが、こいつも小説を書いていた。俺と同じく物語を読むのが好きで、共に小説家を目指していたんだ。


 とはいえ弟は、俺と違ってまだ書籍化はしていなかった。

 もしかするとそのせいで、置いていかれてしまったような寂しさを感じているかもしれない。悔しさだってあるかもしれない。

 だからこそ、俺は兄として、小説家の先輩として、弟を導き、時に鼓舞する存在でありたいと思っている。


 そう、こんな風に……






「へいへい愚弟よ、また受賞できなかったのかい? 君がいつまでもそんなんじゃ、この書籍化経験のあるお兄様の名に傷がついて困るよ。書・籍・化・経・験・の・あ・る、お兄様がな!」

「ぐぬぬ。つ、次こそは……」

「おぉ、やる気だねぇ愚弟よ。何度失敗しても立ち上がるのは素晴らしい。さすがはこのお兄様の弟だ。もっとも、お兄様は初めて書いた小説が書籍化したけどね。ふははははははは!」

「くっ────!」


 おうおう。お兄様の言葉がよっぽど嬉しかったのか、愚弟が感動のあまり震えているよーっ!

 がんばれ愚弟。君も早く、この優秀なお兄様みたいになりたまえ。ハッハッハッハ!


 こんな風に、我ら兄弟は、共に小説を書きながら、仲睦まじく暮らしていたんだ。

 ある時、怒った弟が俺の殺害計画を立て、それをカクヨムの下書きにメモしてたのが原因で足がついて逮捕されたことがあったけど、そんなのはほんの小さ事だった。

 毎日が平和だった。


 そう、ほんの少し前までは。


 だがある時、弟は変わった。変わってしまった。







 次なる受賞、そして書籍化を目指して、新たな小説を書く俺。

 そこに、出かけていた弟が帰ってきた。

 そして、執筆中の俺を見て言う。


「おや。おやおや。おやおやおやぁ〜。そこにいるのは、かつて書籍化した、天才作家様のお兄様ではあ〜りませんか。まあ今は、この愚弟も書籍化作家になりましたけどね」

「ぬぅっ……」


 そう。実は弟も、少し前に書いた小説が受賞、書籍化したのだ。


 それはいい。弟が結果を出せたのは、兄としても鼻が高い。

 しかし、しかしだな……


「し・か・も、売れ行きは好調で、二冊目の発売も決定。あれ? あれあれ? そういえばお兄様は、二冊目はいつ発売されましたっけ?」

「それは……」

「まさか、まだない!? いや、そんなはずはありませんよね。何しろお兄様は天才作家様。この愚弟ですら二冊目が出るというのに、お兄様がたった一冊しか出されてないなんて、そんなことあるはずがありませんものねえ? ですよね、お・に・い・さ・ま!」

「くっ……!」


 出してねえよ!

 三年前に一冊出して、それっきりだよ!

 弟め。それがわかっているくせに、事ある毎に、自分は二冊目を出すんだぞってマウントをとってきやがる。


 俺は、書籍化してもそんな風にマウントなんてとらなかったぞ!

 せいぜい、「書籍化してない弟よ。書籍化したお兄様は肉まんが食べたくて仕方がない、買ってこい。何? 自分で行けだと? 書籍化してない愚弟が、立派なお兄様に逆らうなー!」なんて言ってパシリにしたくらいだ。


 なのに弟め。調子に乗りやがって!


「おやおやお兄様。顔色が悪いですよ。天才作家のお兄様にもしものことがあったら、ファンの皆さんが悲しみますよ。ファンレターだって、たくさん届いているのではありませんか? なにしろ、この愚弟にすら届いているのですからね」


 やかましい!

 ファンレターなんて、一度ももらったことねえよ!


 こんな風に、俺と弟の関係はすっかりささくれ立った。

 ついでに、俺の心もささくれ立った。ささくれ立ちまくった!

 ささくれ立つには、気持ちが荒むって意味もあるんだ。


 やい愚弟。天才作家のお兄様をなめるなよ。次のコンテスト、絶対に受賞し書籍化してやるからな。

 例え、悪魔に魂を売ってでも。どんな手を使ってもだ!


 言いたい放題言って去ろうとする弟に向かって、俺は叫んだ。


「やい愚弟! いや弟。いえ、弟様!」

「はっ?」


 振り返り、何言ってんだこいつって顔で俺を見る弟。

 その目の前で、俺は思いっきり土下座し、全力で床に頭をこすりつけた。


「弟様〜。どうか弟様のお力で、この哀れな兄を受賞させてくださいませ〜」

「な、なんだ! 何を言っている!?」

「売れっ子作家である弟様のご意向を持ってすれば、今度のコンテストの結果をいじるくらい、ちょちょのちょいでしょう。何卒、お願いいたいます!」


 もうこうなったら、手段なんて選んでられない。悪魔に魂を売るくらいの覚悟を決めたんだ。

 ついでに弟にも魂を売ってやる。


「できるか! 自分だって、ようやく二冊目が出るくらいの駆け出しだぞ。そんな力なんてない!」

「またまたご謙遜を。あっ、のどがかわいていませんか? よろしければ飲み物を用意しますよ。肩が凝っているならマッサージもいたします」

「やめろーっ!」

「弟様〜 お恵みを〜!」


 というわけで、兄弟揃って作家の道を歩むため、俺たちは今日も頑張っているのだった。


 弟の力で、目覚せ二度目の書籍化!








 ※この物語はフィクションです。

 もう一度言います。この物語はフィクション。筆者やその双子の弟とは、何の関係もありません。

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