【黒歴史放出祭】深夜テンションでつけたアホなサークル名が会社じゅうにバレた話

赤夜燈

ノリと勢いでサークル名をつけるのは……やめようね!!


 コミケというイベントをご存知であろうか。

 正式名称をコミックマーケットという、年に二回開催される即売会のことだ。


 簡単に言ってしまえば、日本中のオタクが集って自分の趣味で作った作品を売り買いするという祭りだ。その規模は10万人を超える。


 もうだいぶ前のことになるが、わたしは初めてコミケにサークル参加した。


 サークル参加とは、作品を作る側としてコミケに出ることを指す。


 サークルとして参加するのにはけっこうな額の参加費用が必要だ。


 当然、作品を作らなければならない。


 それにだってお金が要る。印刷代やポスター代、東京までの交通費と宿泊費。収支で言えば完全に赤字だ。


 そして自分の作品を締切までに間に合わせるという多大な労力。


 サークル側はそれらを支払ってまで参加し、買う側は長蛇の列に並び個人の趣味で作った作品を、財布の紐をガバガバにして購入する狂ったイベント、それがコミケである。


 その前の年に作品を買う側として参加したわたしは、「これなんか作ったほうが楽しいな?」と参加申し込みをすることにした。


 正直、かなり思い切った決断であった。



 深夜テンションに身を任せなければ参加申し込みなんてできない。清水の舞台から飛び降りるくらいの勢いが必要だった。


 悩んだのが、サークル名である。コミケに限らず同人誌即売会では、サークル名を付けなくてはならない。


 簡単に言えば世間一般のお店における屋号のようなものだと思ってくれていい。


 サークルとして参加するならば必ず決めなくてはならないものだ。いわば、そのサークルの看板である。


 なにかインパクトのあるものを、とわたしは悩んだ。


 悩んで悩んで、眠れなくなるほど悩んで。


 インパクトを重視しようと深夜テンションでサークル名をつけた。


「ドスケベ❤ワンダーランド」


 繰り返す。


「ドスケベ❤ワンダーランド」


「ドスケベ❤ワンダーランド」である。



 十八歳以上でなければ読めない小説を作るので、ならドスケベと看板につけよう。楽しそうな雰囲気にしたいからワンダーランドにしよう。ハートマークもつけてしまえ。きっとみんな覚えてくれるに違いない。


 他と被らない、インパクトのある、面白いサークル名だ。寝ていないわたしは自画自賛した。


 冷静になってみればその面白さは完全に乾いた笑いしか出ないタイプの面白さなのだが、その時は爆笑ネタだと思い込んでいた。若気の至りにもほどがある。


 勢いをつけすぎだ。清水の舞台から飛び降りるというが、命綱なしで飛び降りたら致命傷を負うだろうがよ。


 かくしてわたしはヒョヒョヒョと笑いながら深夜テンションに身を任せ、参加申し込みを済ませて踊り狂った。


 参加申し込みは受理され、わたしは締切に追われることとなった。



 仕事をしながら同人誌を書いた。内容は、サークル名から推し量ってほしい。ここではとても言えない。


 折角なのでポスターも作った。「おいでませドスケベ❤ワンダーランド」と赤字で書かれたポスターだった。行きたくないだろそんなとこ。冷静に考えて嫌だよ。


 初めてのコミケにはしゃいで作った四冊の小説同人誌は、少部数ながらすべて半分ほど売れた。


 踊りだしたいほど嬉しかった。というか戦利品を持ってホテルで踊った。なにかというと踊るから前世はインド人だったのかもしれない。インド人に謝れ。


 これだけなら「はっちゃけたサークル名をうっかり付けてしまった」程度の黒歴史(それにしてもなかなかキツいものがあるが)で済んだが、ここからが本番だった。


 結論から言おう。


 サークル名と書いた同人誌の内容が上司に、というか退職した会社中にバレた。


 経緯としてはこうである。


 コミケに出る直前まで勤めていた会社にオタク趣味のある同僚がいた。

 同じ日に入社し、なんと大学も同じだった。


 たちまち意気投合したわたしたちは、たびたび温泉にドライブに行ったりPokemon GOをやりに出かけたりしていた。


 友人にはお付き合いしている男性がいた。元職場の上司である。彼もまたかなりのオタクであり、それをオープンにしていた。


 と、まあそんな伝言ゲームを経て、わたしのサークル名「ドスケベワンダーランド」は会社中で話題になったという。


 なんてことをしてくれたんだお前はよぉ、そんな真似したらわたしのあだ名がドスケベさんになるところだったじゃねえか。


 ていうかもうなってる。確実になってる。


 個人情報だろうがよ。保護しろよそれは。


「退社した赤夜さん、ドスケベらしいよ」


「なんかドスケベっぽいオーラだしてたものね」


「存在がドスケベだった」


 そんなことを喫煙所で話す元同僚の姿を幻視して、頭を抱えてゴロゴロ転げ回った。


 そもそもが身から出た錆である。ドスケベ❤ワンダーランドってなんだよドスケベ❤ワンダーランドって。


 真面目な本を出せないだろうがよ。ドスケベって付いてる限り、ドスケベな作品しか作れないではないか。


 このサークル名を考えたのは誰だ。わたしだ。


「ドスケベ❤ワンダーランドの赤夜さん」ですっかり定着してしまったことを心底後悔し、わたしは数日寝込んだ。


 退社したあとでなければ、羞恥心のあまり「山月記」の李徴よろしく人喰い虎になっていたかもしれない。もはやこれまでと腹を切っていたかもしれない。今でも思い出すとゴロゴロ床を転げ回る、わたしの最大の黒歴史である。


 よいこのみんなはコミケに参加することになったら、まともなサークル名をつけよう。


 深夜テンションと勢いでサークル名をつけると、このような目に遭うのだ。


 勢いでトンチキなペンネームやサークル名を付けてしまった人も、これからペンネームやサークル名を考える人も、できることなら笑ってくれ。


 あなたを笑わせられたなら、ほんの少し過去のわたしが救われるだろうから。


 幕

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