なぜ異世界転生ばかりが読まれるのか・考察

源公子

なぜ異世界転生ばかりが読まれるのか・考察

 理由はわかる、みんな疲れきっているからだ。

 時代は、失敗を許さない。好感度を高くし、決して叩かれてはいけないプレッシャーと忖度の中「口に出せない・やってはいけない→考えてもいけない・思ってもいけない」状態。皆、一様な健康的な心と体(に、見える)人格の薄められた、均一の弱いキャラになる。


 まるで囲いに入れられた家畜だ。(圧倒的に打たれ弱い)人口が増え、密集して生きる生物に起こる、家畜化現象特性が人間にも起こっているのだとおもう。

 大人しく攻撃力が弱く(密集状態で攻撃性が強いと、殺し合って絶滅する)保護されているゆえに、免疫力も生命力も弱い。(ケージの中の鶏は感染症ひとつであっさり絶滅する)私の育った昭和の時代は、人間が野生だったから余計にそう感じる。


 その上時代は忙し過ぎて、悠長に恋愛する時間も作れない。社畜の日々。(社畜のおっさんが異世界転生はテンプレ)小学生まで忙しすぎて、脳の慢性疲労をおこし、脳の中核が炎症起こしている時代。頭を使うような疲れる事はしたくない。(難しいものなんて読みたくない)脳を現実から引き剥がして休みたい。(疲れる現実なんてひとかけらも見たくない)


 父がくも膜下出血で入院していた時、やはり病気で入院した息子さんを介護していた母親が「毎日少年ジャンプを食い入るように読んでいた」と言っていた。

 中身なんてどうでもいい、読んでる間は何もかも忘れられるから読むのだと。

 そうやって漫画は、たくさんの疲れきった脳を休ませ、救ってきた。

(もちろん私も。それどころか夢中になった忘れられない作品が山ほどあるわよ)


 小説では、赤川次郎がそうでした。「夢中で読んでた時期があったけど、何一つ中身を覚えていない」と中学校の同級生が言っていた。今、異世界転生がそれをしてくれている。だからベタで、テンプレで、世界観マンネリで、喉越しだけいいノンアルコールビールみたいに、味の薄~い話が売れる。乾いた心が欲しいのは、アルコールでなく水分なのだ。(家畜化された現代人は、強いアルコールに耐えられる肝臓【脳】を持っていない)言っときますが、私は赤川次郎は天才だと思ってますよ!

 すべてはお約束の安全パイの中。辛い現実や不安はどこにも存在せず、読んでる間だけ夢中。読み終わった瞬間、心にかすり傷ひとつつけずに、パッと全て忘れられる都合の良さ。わずかでも「不快」と感じれば、スイッチを切って忘れてしまえばいい。(私はそうしている)そうやってカクヨムで最後まで読んでもらえない作品のなんと多いことか。逆に、私が最後まで読んだ作品は本当に凄い!(そして脳の休息に感謝)


 そして、そういう作品を書くのがどれほど難しいかは、皆さんご存知でしょう。

 もし書けるなら、即書籍化。それができるのはカクヨム全体の0.1%あるでしょうか?(100万人のうちの1000人?いや、100人なら0.01%)


 ただ不思議なのは、なぜ今小説なの?

 漫画も、アニメもゲームも、映画も何でもあるのに、今になってアナログな小説(文字)? もしや、小説は情報量(データ)が少なく、脳の負担が少ないからか?

 映像メディアは情報量が多く、脳は疲労しやすい。その上、出来上がったものを、押し付けてくる表現形式。対して小説は映像がない分、読み手の想像力が入れる余地がある。「私だったらもっとこうするのに。私にも書けそう」と二次制作に走るのも文字なら簡単。(漫画みたいに絵描かなくていいからね)

 目にも脳にも負担の少ないメディアであり、どんどん後続の書き手を生み出しやすいシステムに、webサイトそのものが出来上がっている。パソコンも助けてくれる。


 それに読者の欲望がハマった。「小説家になろう」で書き手が、主人公の成長過程を丁寧に書こうとしたら、「面倒臭い事はいらないから、とっとと主人公最強にしろ」とコメントされ、そうせざるを得なかったと言う。


 Web小説と言うのは、読み手の欲望を叶えるためにのみ存在するのか?

 今のWebサイトは、書き手の気持ちなどはどうでもよく「俺の読みたい話をさっさとかけ」の読む人間の好みだけが優先される、買い手市場になっている。(だから売れる)カクヨムは、フレンドリーですけど。


 コナン・ドイルは、ホームズをライヘンバッハの滝で殺すしかなかった。

 ホームズ物ばかり要求され、自由を奪われ、書きたいものが書けなかったから。

 最後は「時代に求められるもの」に屈して、ホームズものを書き続けたが、書きたいものと、この世で求められるものが一致する事は、ほぼない。(“ジョジョの奇妙な冒険”は例外)


「今までと同じもの」を要求する読み手達。自由を奪われた書き手達。マンネリズムの中から、もがく様にスローライフやら、モフモフやら、おっさんやら、熱愛やら、悪役令嬢やらのバリエーションが生まれ、あっというまに消えていく。


 皮膚の新陳代謝が盛んならお肌はツルツルだけど、そうやってどこまでいくのか、異世界転生。脳の慢性疲労がある限り、終わりはないのかもしれない。






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