第25話 死んだら終わり
「なんで人格破綻者がのうのうと生きている」
「能力をが当たりだっただけの木偶の坊」
「お前みたいなのが1番タチが悪い」
「生きる理由が無いなら死ねよ」
「何に怯えてるんだ?お前」
そうか。今日は幻聴の日か。
朝、目が覚めてトイレでクソを出しながら自覚する。
死んだ奴らに似た声をしているが、あくまで似ているだけ。俺の脳が勝手に再生しているだけの偽物に過ぎない。
死んだら終わり。呪いをかけることもできない。
だから、これは精神的な問題。
責められることで、自分だって少しは罰を受けているんだと思いたいがためのオナニー。我ながら気持ち悪いが、自分ではコントロールできないので止めるのは難しい。
「そんなこと言ってるけど、本当は意図的にやってるんじゃないの?」
幻聴。または自分の声を無視して、ブリブリとうんこを出す。昨日焼肉をたらふく食ったので、いつもより多めだ。
さっさと尻を拭いて職場に行く準備をしなくては。
社会人には、幻聴ごときでセンチメンタルに浸る情緒も時間も無いのだ。
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「深夜先生!オッハー!」
元ネタを知らないで使っているであろう元女子高生に、元気に迎えられた。人によっては羨ましいと感じるかもしれないが、パパ活っぽい雰囲気に心がざわつく。
「おはよう。早いな」
「うん!覚えなきゃいけないことばっかりだから!」
怪異科に誘拐されてから、外見の派手さと比例するほどに明るくなっていた。
俺の知っているメンヘラ気味の言動は、手嶋夏美に操られていた状態だったのだろう。だから、変わったというより戻ったと言った方が適切だ。
俺との挨拶を終えて、ウキウキと初心者用マニュアルを熟読している。俺も読んだ気がするが内容はほぼ忘れてしまった。
当時「ここにも見限られたら、もう後がない」と必死になって覚えたはずなのに、3年もしないうちに、その心意気も忘れてしまった。
これがおっさんになるってことか。
と、テメーの怠惰を棚に上げて思う。
そんなことより仕事だ仕事。
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「あれ?愛ちゃん、まだきてないの?」
菅野さんが驚いたように言った。
開始時刻の8時半ピッタリに現れて、1時間ほど新聞を読んで過ごしていたから、虹山さんがいないことに気づいていなかった説がある。
「珍しいね。あの子、サボりはするけど遅刻はしないのに」
一応先輩として業務の説明をしていたのだが、板垣きらりの興味はそっちに移ってしまった。
「そうなんですか?ワイルドな方なので、遅刻なんて日常茶飯事なんだと思って気にしてませんでした」
「うん。しょっちゅうタバコ吸いにサボりに行くけど、遅刻早退、欠勤は1回もなかった。なんかトラブルに巻き込まれたのかなぁ」
2人で話し出してしまった。これじゃあ仕事にならない。仕方がないので口を出してみた。
「大丈夫でしょう。虹山さんだし」
その投げやりな返しに、普段穏やかな菅野さんが、ほんの少しだけ声に避難を込めて言った。
「前から思ってたけど、加賀くんは愛ちゃんを過大評価している節があるね」
「そんなことは‥‥‥ありますね」
どんなことがあっても、あの人なら笑って解決してしまうと信じている部分がある。
「当たり前なことを言うようだけど、愛ちゃんも人間だ。ある日、コロッと死んでしまう我々と同じ人間だ。そのことを忘れないようにね」
「‥‥‥はい」
この時点でも、それなりに反省していた。
しかし、翌日には、俺は虹山愛は死なないと妄信していて即座に行動を起こさなかった自分を殺したいほど憎むことになる。
サイコパスは嗤う〜加賀深夜の怪異調査報告書〜 ガビ @adatitosimamura
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