第32話 線香花火
茶々やお初だけではない。
虎松も亜蓮にとって大切な子供である。
「わひゃ♪」
爽快感に虎松は、目を細める。
場所は、お風呂。
現在、虎松は亜蓮に頭を洗われている最中だ。
「
「はい、無いです♪」
「なら、良かった」
後世、《井伊の赤鬼》と呼ばれる猛将も、今はただの可愛い子供だ。
亜蓮は虎松の実父・直親の代わりに彼を子育てしていた。
「後でお返しに義父上の頭、洗ってあげますね?」
「ありがとう」
浴槽には、直虎が肩まで浸かっている。
「……」
自分の息子を夫が、血が繋がっていないにも
頭を洗われながら、虎松が言う。
「
「うん?」
「早く
「え゛」
感動が一転、固まる直虎。
「弟か妹が欲しい?」
「はい」
虎松(=直政)には、史実ではあまり知られないが、
高瀬姫と吉直の母は、父・直親が
一方、虎松の母は二通りの説があり、一つは、井伊家分家の実力者・
もう一つは、奥山親朝の娘(=奥山朝利の妹)説だ(*3)。
戦国時代は令和の現在と違い、武士の社会では、一夫多妻が一般的なので、異母きょうだいは、よくある話である。
「……そうか」
亜蓮は、考える。
虎松の実父・直親は戦死しており、実母のひよは、出家中の身で関係は遠い。
その為、血縁者は近場に居らず、事実上、孤独である。
なので、自分に近い家族を欲しているのだろう。
「子供ねぇ」
こればかりは、直虎と話し合う必要がある為、1人では決められない。
兎にも角にも、家族間での話し合いは、必要不可欠だろう。
「虎松的には、どっちが欲しい? 弟と妹」
「どちらでも構いませんよ。どちらでも可愛がる自信があります故」
ふんす、と虎松は鼻息を荒くする。
亜蓮が日常的に茶々とお初の世話をしている為、幼いながらに
余談だが、年齢的に姉妹は虎松の妹になる訳だが、家格が違う分、本人としては妹としてはなく「年下の姉」と見ていた。
複雑な家庭環境になるが、亜蓮が2人と結婚した以上、このような関係性になってしまった為、仕方がない。
「良いけど、お市との話し合いもあるから、すぐには決められないな」
「お市様との間に子供ができる予定でも?」
「多分ね」
浅井家三姉妹の内、姉妹が誕生しており、残りはお江だけ。
しかし、長政が死んでいる為、生まれた場合、お江の父親は亜蓮になるだろう。
「その時は自分にも紹介して下さいね。大事な
「ああ。分かったよ」
頷いた後、亜蓮は愛妻を見る。
「じゃあ、直虎。子作り頑張ろうか?」
「は、はい」
直虎は、
その為、今後、妊娠した時が初産になるだろう。
それを意識した途端、直虎は緊張してしまう。
「あ、あの……若殿」
「うん?」
「その……よろしくお願いします」
「改めてよろしくね。直虎」
「はい♡」
笑顔で言われ、直虎は微笑み返すのであった。
お風呂上り。
お市も加わり、4人は共に過ごす。
食事後、少し早い時間帯だが、就寝することになった。
部屋の中央にお市と亜蓮が、その左右に虎松と直虎が陣取る。
亜蓮は正室と側室に挟まれた形だ。
「貴方♡」
「市、可愛いよ」
耳元で囁かれ、お市は顔を真っ赤にしていく。
体を重ねた関係であっても、お市はまだまだ恥ずかしがり屋のようだ。
彼女だけではない。
直虎にも抱き着く。
「直虎~♡」
「もう若殿たら♡」
まさに両手に花だ。
養母と義母の幸せそうな笑顔を見て、虎松も嬉しくなる。
「
「そうだね」
「虎松もいずれは、良い
「はい♪」
虎松が頷いた時、縁側に繋がる障子が開く。
犯人は浮舟で、その手には線香花火が握られていた。
「旦那様、花火、どうですか?」
「あー、気持ちはありがたいけど、眠いからまたの機会で」
「そうですか」
残念そうに俯く浮舟。
「申し訳御座いません。
遅れて右近がやってきて、謝った。
亜蓮は笑顔で返す。
「大丈夫だよ。侍女で集まって花火中?」
「はい。結構、綺麗なので盛り上がっていますよ」
「そうなんだ」
愛妻2人を抱き締めたまま、亜蓮は起き上がり、縁側の方を見る。
そこでは、
・桐
・藤
・
・明石
・
・
・
・
が集まり、線香花火で遊んでいた。
「火事には気をつけてな?」
「はい。浮舟、行くよ」
「ううん」
どうしても亜蓮と一緒にしたかったようで、浮舟は不服そうだ。
そこで虎松が挙手する。
「
「いいよ。ただ、夜更かしはするなよ?」
「分かっています」
令和5(2023)年に厚生労働省が発表した新睡眠指針案の『子供版』では、年齢別で睡眠時間が細かく推奨されている。
それによれば、
1~2歳児:11~14時間
3~5歳児:10~13時間
小学生 :9~12時間
中高校生:8~12時間
もの睡眠時間が必要とされている。
これらの年代の子供は、発育に関係する以上、多くの睡眠時間が必要なのだ。
亜蓮はそれに
指針案を
虎松だけでない。
幼い侍女や元服前の武士の子供たちにも、沢山の睡眠時間を推奨している。
日々争いが絶えない戦国時代において、多くの睡眠時間を確保するのは難しい側面もあるが。
発育には、切っても切れない為、亜蓮は睡眠を重要視しているのである。
亜蓮の名代として虎松の参加は、侍女軍団を大いに盛り上がらせた。
侍女の中で最年少の桐が、大声を出す。
「よ!
「えへへへ♪」
虎松は頭を掻きながら、線香花火を持った。
「……」
「貴方?」
「ああ、何でも無い」
「若殿、何か
「そうだね。明日、ちょっと信長様に相談してみるよ」
神宮家の方針の一つが、
・報告
・連絡
・相談
の
権力者ではない為、物事を進める際には、
それが1番の
「明日、楽しみにしておきます」
「私も」
2人は笑顔で言うと、亜蓮の頬に左右から接吻する。
「ありがとう♪」
亜蓮は表情を崩し、
[参考文献・出典]
*1:楠戸義昭『女城主・井伊直虎』PHP研究所 2016年
*2:Wikipedia
*3:編・三上参次『寛政重修諸家譜 第4集』国民図書
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戦国日本ハーレム統一記 パンジャンドラム @manjimaru
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