人間誰しもシラフで生きてはいない。


 愛のための行為をするたびに、愛からかけ離れていく気がする。

 熱を帯びれば帯びる程、なぜか心が冷めていくのを覚える。

 二点の間を往復し続ける、アンビバレンスに満ちた告白。



 本能と理性という二つの相反するカテゴリがあって「セックスはどちらに属するか」と言われたら、十中八九前者に入れるだろう。

 それくらいセックスというのは、制御が出来ない。創作だろうが現実だろうが変わりはしない不変の事実。
 その際に発生する物凄いエネルギーが、人をもみくちゃにする。人を酔わせる。語彙力も説得力も失わせて、目の前の激流に身を任せるだけにする。

 仕事、子育て、趣味、ギャンブル……セックスに限らず、自分のアイデンティティを揺るがす「沼」にはまり込めば、誰もが経験するのではないか。

 ふとした拍子に、気付く。振り返る。
 好き勝手をした自分、制御出来ない領域の好き勝手を許した自分の愚かさを。

 といっても、その冷静さもまた、一時の退避に他ならないのかもしれず、再び巨大な酒樽に漬け込まれ、悪酔いの中を生きるのかもしれない。
 人間はシラフで生きられるほど頑丈に出来ていないんじゃないか、とため息をつきたくなる。

 本作を読んでいてグルグルと回った。
 全然的外れな意見かもしれないが、この正直な告白には「シラフの目で世間を見てみたい」という願望が込められているように感じられた。