第10話 絶望への狂想曲(カプリッチオ)迫りくる敵の進撃!!!
――
「いいっスか、旦那。この舌苔尸濡町での『対人戦』は他の場所とは全く違います……全員が自爆特攻を5回までできる……これだけでどういうことを意味するか、旦那ならお分かりですね」
「……ああ、素人でも刺し違える覚悟ならばプロを殺すことが往々にしてある。俺の世界でもな……。それが最大5回……。それにだ……この首輪のように、衣服や死亡時に身に纏っているものなどは死亡後に複製されるのだろう?」
「ええ、その通りっス。それを利用して素人に自爆特攻させる場合は『奴隷首輪』や遠隔で操作できる爆弾を持たせて爆破する方法が主流っすね。後は復活すれば大体失った四肢も回復するんで、四肢欠損に躊躇が無かったり、プロはそれを逆手に取った攻撃をするってことっス」
「……なるほど、な。……それに加え、5回生き返ることで『決死』の攻撃や『真剣勝負』による緊張も減ると言える……プロのプロたる所以は『決死の状況』でも冷静かつ的確に、最大限のパフォーマンスを発揮するところにある。だが、この状況は……心していかねば足元を取られるな……」
「ま、旦那に限ってそう言うこたぁねえと思いますがね……念のための確認っス」
――
西後西は朝、広印にされた忠告を思い出しつつ、眼下のメキシカンギャングへ掌からの衝撃波を繰り出す。
ギャングらは飛来する二体の死神に気づき、拷問の用意を辞め、武器を投擲する方向へ切り替える。
だが、それよりも早く、西後西の衝撃派がギャング全員の肋骨等を粉砕、それと同時に広印は着地し各ギャングの四肢の筋肉をナイフで寸断、行動不能にする。殺害すれば完全に回復した状態の死体が複製されるこの街において、怪異の格下に対する対応は有無を言わさぬ連続即死攻撃かこうした行動不能化に分かれる。それは『プロ』とて同じことだった。
だが。
「カチッ!」
「!」
広印はひょいと跳躍し逃れる、西後西も空中で軽い衝撃波を足から出し、後方へと逃れる。
『ドガァアアアアアアアアン!』
――歯に起爆スイッチを仕込んでいたか……!
無力化対策かつ、自爆特攻、これほどまでに躊躇なく!?
粉塵の中からギャングの一人が高笑いをあげながら飛び上がりこちらに向けマチェーテを大根斬りの構えで振り上げる。
西後西は相手を衝撃波で吹き飛ばす。
だが、そのギャングが後方の粉塵へと吹き飛び、煙が晴れると、他のギャングが三方向から西後西へ攻撃を仕掛けてきた。
――両手、足を使い衝撃波を……!
西後西が衝撃波を出す一瞬前三人は懐から取り出したマチェーテや釘、皮剝ぎナイフを各々投げる。
『カチッ』
――自爆だと!? 攻撃の為にッ!?
『ドガアァアアアアアアアアン!』
西後西はコートを翻し、両手で印相を作り、周囲に霊力を放出する。西後西の周囲に球状の力場が発生し爆風から身を守る。
だが、爆風によって飛んでくる釘やマチェーテはその結界を破り西後西の身体に切り傷を刻み付ける。
「ぐっ……!」
爆風の中、三人のうち二人が、そのまま攻撃を続け、西後西へ飛び掛かる。
もう一人は、五回目の死だったのだろう。
――自らの死に躊躇がない……? 何という集団……!!
「破ァッ!」
両手の衝撃波によって二人の肋骨を粉砕。二人は躊躇なく爆発四散!
「旦那ァッ! アルミホイル野郎どもが!」
背後の広印の声に振り返る。
そこにはショットガンやM16によって武装したアルミホイルを頭部に巻き付ける狂戦士たちが、マクドナルドヅランプ大統領の写真を掲げる旗手に率いられ、突進してきている。
「悪魔崇拝者を殺せ! 小児性愛者を殺せ! 正義の共和主義の名の下に! DSを! DSLLを! 3DDSを倒すのだ!!」
その号令と共にショットガンとM16の掃射が開始される。
広印は天上へ飛び、天井を蹴って群衆の中へ飛び込むことで掃射を乗り切る。西後西は印相を結び自身の周囲に球状の結界を張り、更に呪文を唱える。
「Chipi Chipi, Chapa Chapa Dubidubi, dabadaba Màgico mi dubidubi boom,boom,boom,boom」
リズムと共に衝撃波が結界とともに広がり、ショットガンの散弾とライフルの弾頭が群衆の方へと跳ね返る。
「ぎゃぁあああああ!」
群衆は銃弾を受け、流血し、叫びをあげる。広印によるフィギアスケートを舞うようなナイフ捌きによって群衆の後方でも血の雨が降る。
「恐れるな! 光の戦士たちよ! 高々個人! 高々黒魔術師! 我らの身体による圧力、集団による攻撃は奴らを圧殺できる! 進むのだ! 進むのだ!」
先頭に居ない後方の群衆はその声によって前方への突撃を進める、広印を囲う群衆の圧力は徐々に強まり、彼女の創り出す円状の領域へ肉片に変えられつつも人々は侵攻を進める。
西後西の衝撃波に対しても弾切れになりつつも、後方からの流れ弾と、前方からの跳弾に最前列の集団は死体となりながら、後方の集団に押され、西後西の結界を押しつぶさんと迫る。
何という人海戦術か!
西後西の霊力を押すほどの人間の圧力、既に広印は溜まらず天井へ飛び、西後西の後ろへと天井を蹴って下がる。
西後西のせき止める衝撃波は徐々に押されつつある。
彼は歯を食いしばり、数百人の圧力を一人で止めていた。
その時、後方の群衆がどんどん飛び上がり、跳ね飛ばされてゆく、そして、その『筋』は一本、二本、三本、こちらの方へ近づいてゆく。血と肉の雨を降らせ、最前列の死体を吹き飛ばし、四頭立てのバイクによる
「世紀末騎士団、そしてその団長、『サー・ツーリング・万次郎』ここに見・参ッ! 義によって助太刀いたす!」
レバーアクションショットガンを群衆にぶっ放し、もう片手のロング・ソードによって前方の人間を切り伏せ、彼はそう叫ぶ。
西後西は結界を解除し、圧力の弱まった群衆に重い衝撃波を入れる。
『ドチャアアアアアッ!』
天井まで届こうかという『増殖する死体の山』は衝撃波によって更なる多くの人間を圧殺し、その姿を構成する死体の山を増やしてゆく。圧死して、直ぐにその場に復活し、また圧死することで本来の五倍の人数分の死体の山が築かれる。この死体によって築かれた城壁は、そう簡単には壊せない。
しかし、『奴ら』にそれは意味がなかった。
「あ、あれは!」
騎士団の一人が、天井に指をさす。
その指の先には天井を這い、こちらに来た、メキシカンギャングが三人、マチェーテを口にくわえ、こちらに飛び降りる。
「先手必勝よ!」
万次郎卿はショットガンを降りるギャングに放つ、ギャングは右肩を吹き飛ばされるが、そのまま躊躇なく飛び掛かり、万次郎卿の鎧の隙間へマチェーテの刃を滑り込ませる。その目はカッと剥かれ、迫真の狂気に満ちている。
「ぬううん!」
万次郎卿は首を動かすことでマチェーテを鎧の隙間で挟み込み、ロング・ソードの柄で相手の頭部を殴る。
『ゴシャッ!』
そのまま彼はギャングを引きはがし、ロング・ソードで斬り殺す。
西後西と広印は他の二名のギャングを地面に着く前に二度絶命させ、その全ての『復活』を使い切らせた。
「……こいつらはヤク中の下っ端スね。自爆する意志すらもぶっ壊れてて、ただ牽制の為に使われる捨て駒のようっス」
「……ともあれ、この壁は厄介だ、何とかしてどかすにせよ、西後西殿の力を無駄に使わせてしまう事となる……アルミホイルの連中はさておき、ギャングたちにはなかなかの手練れも……」
『ドガァアアアン!』
死体の山による防壁が吹き飛ぶ。そこには20名ほどの体中に刺青の入った、メキシカンギャングが立っていた。
「……ったく、陰謀論者ども、数に物言わせて馬鹿みてえな防壁をあちこちで作りやがる……おかげでC4が足りねぇっての……お? ……どうやら、おれ達は『当たり』引いたみてぇだなぁ」
傷だらけの身体。裸の上に革ジャン、ジーンズパンツの出で立ち。顔にはサングラス、頭の左側にギャングのトレードマークの刺青が入った長髪の男は、両手にマチェーテを持ちながらそう言って不敵に笑う。隣の眼帯の男が言い放つ。
「てめえらの首をトバしゃぁ、こっちの勝ちじゃあねえか……こりゃあ随分楽な戦争だったぜ! ギェッヘヘヘヘヘ……」
眼帯の男はスキンヘッドに上半身裸、その上に弾帯を改造したものを巻き付け、そこに無数のソードオフ・ショットガンとスナブノーズド・44マグナムリボルバーを括りつけている。
「旦那ァ、奴らギャングの幹部級っス。自刃のジャンと貫きホセ……どっちもイカレたコンビってんで有名っスよ」
――立ち姿……振る舞い、動き……一線級のプロか……僅かながら霊力の高ぶりも感じられる……人間の枠を超えた『技』の可能性があるな……!
西後西は彼らの纏う闘気を感じ、自らの霊力のボルテージを上げる。
騎士たちは剣とショットガンを構え、バイクのエンジンをふかす。広印はナイフを抜き、跳躍の準備を整える。
そして双方は、戦いの火ぶたが切られるのを待つ……。
(続く)
致死率五十割、怪異を殺れ! 臆病虚弱 @okubyoukyojaku
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。致死率五十割、怪異を殺れ! の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます