第9話 狂気の集団! リパブリカン・アルミホイル同好会!
Q21という男はアメリカ同時多発ピザ屋襲撃事件以来、この『リパブリカン・アルミホイル同好会』の光の戦士としてあらゆる仕事をこなしてきた。
始め、この会の活動はSNSでの『啓蒙活動』に留まっていたが、真実を隠ぺいする闇の勢力『
Q21はその頃、『DS』に造られた偽の歴史の世界に生き、偽の名前を名乗らされていた。Q21にとってその時代における記憶は全て『啓蒙前』つまりはDSの陰謀の渦中で騙されていた記憶であり、今でも時折思い出し、DSに対する憎悪を募らせている。
Q21は襲撃前の集会にて『運命的に』参加し、その『真実』に突き動かされ、ピザ屋に偽装した児童買春組織に対して正義の鉄槌を下すに至ったのだ。
――アメリカはあの時代……狂っていた。ピザ屋は全て偽物、その事実を隠蔽し、私たち光の戦士を一斉検挙し、この辺鄙なアジア人共の田舎へと追いやった……。ヅランプ大統領の手の及ばぬ所へ……!
Q21は暗闇の中、礼拝堂へと入る。礼拝堂の内部、中心には祭壇があり、そこには蝋燭を灯す燭台と、中央にうやうやしく鎮座する光の戦士たちの長、マクドナルド・ヅランプ大統領の肖像画、そしてトレードマークの髪形を模したカツラが祀られている。
Q21はアルミホイル帽子を正し、祭壇の前にひざまずき、聖句を唱える。
「アメリカを再び偉大に!」
何が再びなのか全く意味不明な、謎めいたその聖句は彼らの誇りであった。
「Q21……」
彼を呼ぶ声が背後からする。それはQ3の呼ぶ声であった。でっぷりと太り、オーバーオールによれたシャツを着て、白髪交じりの髯を蓄えたQ3はアルミホイルで擦れ、湿疹ができている額を掻きながらQ21に重要な指令を伝達する。
「Qがお呼びだ……明日は……『児童救済』以来の戦いになると」
「なんだって? ……今すぐ行く」
Q21は礼拝を高速で済ませ、いそいそと礼拝堂を出る。廃材で作った掘っ立て小屋は彼が飛び出すだけで大きく揺れる。
彼はQの城(といっても他より少し大きく作っただけの掘っ立て小屋だが)へと急ぎ入ってゆく。
蠟燭の明かりがともる城内ではQを中心に戦士たちが一堂に会していた。
『愛国者たちの評議会』と呼ばれるこの会合は思考・言論の盗聴を防ぐべく、アルミホイルの幕が降ろされた会議室内で行われ、Qの名を持つ上級戦士たちが今後の方針等を決定するのだ。だが、最終的な議決権はQと呼ばれる男に委ねられている。
「……全員揃ったようだな」
Qがそのしゃがれた声を会議室の外から、かける。
Qの姿を見ることができる人間はこの組織の中でも5人ほど、第一、第二、第三婦人と二名の執事のみである。Qは会議においてもその姿を見せる事は無く、彼の生活スペースであるアルミホイルシールド内の部屋から指示等を出す。普段はQが会議の趨勢を伺い、それを総括することで会議が進むが、今回は違った。
「今回は私自らが指令を下す……『預言』が下ったのだ……偉大なる祖国、アメリカの大統領から……」
会議はどよめく、以前より度々、Qはアメリカ大統領たるヅランプから『交信』を受け、『預言』を受け取っていた。それらは非常に重要かつ曖昧で、難解なものであり、達成できなかったことも多かった。それだけに評議会の面々は慎重な面持ちでその神託を聞き入っている。
「『
その演説に彼らは涙を流し、自然と一人、また一人と祈りのポーズを取ってゆく。すると、Qの方向から、(恐らくは懐中電灯の)揺らぐ光が漏れ、会議室の中へその光が一筋の柱となり床に映った。
彼らはそれを見て、声を漏らし、震え、歓喜のままに拍手し、ある者は気絶し、ある者は失禁し、ある者はQの姿をその瞼の裏に見た。
この事実は会議終了の後、組織の全てに伝えられ、評議員たちの興奮と驚愕の表情を以てその伝説が創り上げられたのだ。
Qたちは、喜びのままに戦争の支度を始めて行った……。
――――――
朝、目を覚ました西後西らは、あわただしくどよめく神戸
神戸
西後西はその光景を目の当たりにするたびに不快と怒りに満ちた表情を隠さずにいた。広印の方は、そうした光景を皮肉めいた笑いで一蹴していた。
そして今日、『戦争』の噂にどよめく群衆を『制御』すべく、三下組員たちが片足のない老人をリンチにしていた。
「オラオラオラ、ジジイ! テメェ! スッゾコラァッ!」
「や、やめてくれ……! お、おれはてめえらよりも古参の、広島和牛組時代からの幹部だぞッ!」
老人は代紋の入ったバッジを見せる。広印は、西後西に耳打ちする。
「あの爺さんは本当に元幹部っス……前回の『戦争』で負傷したばかりなんス……でも、ここではそれは……」
ややあごの曲がった三下ヤクザはしゃがみこみ、倒れている老人の手からバッジを取り上げ、顔を近づける。
「知ってるよ! なんせ、オレはテメエが来る前にここに住んでいたガキだからな! テメエがここに来た時、オレはテメエに顎が曲がるまで殴られたんだよぉ……おお? ……テメエ、覚えてるか?」
老人は青ざめる。彼は死を悟ったのだ。
「た……助けてくれ……アンタ……」
老人は隣にいた鼻の曲がった三下ヤクザに縋りつく。
「……いちいちガキ殴ったことなんか覚えてねえんだろ? 当たり前だよな? ……覚えてるわけねえもんな、なあ?」
三下ヤクザは仲間に訊く。鼻の曲がった仲間は答える。
「ああ、オレもこいつに鼻ァへし折られたなァ……へへへ」
老人はすがりつく手を離すことも、力を籠めることも出来ず、ずるずると床へゆっくりと倒れてゆく。倒れ尽きる前に、鼻の曲がった三下ヤクザは髪を老人の掴み、頭を引き上げた。老人の髪は白髪ながら、しっかりと残っている。
それを見て、妙な禿げ方をした若い三下ヤクザが言う。
「髪を抉り取ってやろうぜ、昔おれがやられたみてえによぉっ! はははは!」
「鼻も曲げてやる」
「顎もぶっ壊してやる」
「最後には焚火にぶち込んでやろーぜぇー、ギャハハハハハハ」
涙を流しうなだれる老人に三下ヤクザは顔を近づけ言う。
「よお、ジジイ、なあ、後悔なんてすんなよ? おれらはな、テメエの復讐は勿論あるが、それよりなによりもな、この地位に立っていることの楽しみを味わうためにやってんだよ? 分かるよな? テメエも、楽しそうにしてたもんなァ? ああん? 今度は若いおれたちに、それをやらせてくれってハ・ナ・シ。ギャッハハハハハ!」
三下ヤクザたちは老人を床にたたきつけ、囲む。
西後西は軽蔑の目を向けていたが、直ぐに異変に気付いた。同じ様子を鼻で笑っていた広印も異変に気付く。
「旦那ァ……パーティーの悪趣味な前座は終いのようですねェ、ケヒヒヒヒッ」
「俺が終いにするとこだったから、丁度良かったぜ」
広印は右手でナイフを回し、左手で霊力の籠ったナイフを下でぺろぺろと舐めている。
西後西も霊力を全身に籠め、戦いの構えをとっている。
『ドガァアアアアアアン!』
カタギ通りの最奥、数十メートル前方の鉄材で作られたバリケードが吹き飛び、狂気に満ちた笑い声をあげるギャングたちが土煙の中、エントリーを開始する。
「アッヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャアアアアアッ!」
『ヌウウウウウウウン!』
土煙の中より十数本のハチェットが飛んでくる。
『バチャァアアッ』
『ズチャァアアアッ』
『ドチャアアアアアアアアアッ!』
「ぎいいいいやああああああああああっ!」
西後西の前方でリンチに勤しんでいた三下ヤクザはハチェットの餌食となり、それぞれ腕、胸、股間に永遠に取り返しのつかない負傷を負って、先程までリンチしていた老人と同じ場所に倒れる。
西後西と広印は最低限の動きでそれを避け、土煙の中へと飛び込んでゆく。
そこには、無数のハチェットをぶら下げ、体中にタトゥーの刻まれた、スキンヘッドや、モヒカンのメキシカンギャングたちがカタギたちを切り刻み、皮を剥ごうとしていた。
西後西と広印は躊躇なく、彼らへと向かってゆく。
今、『地下歩行空間闘争』が開始したのだ。
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