第8話 ラムマカン到着
森の中の秘境の里であるラムマカンに到着した一行。
到着して馬車から降りたフラニアはエルダを呼ぶ。
「エルダ。あなたを歓迎するために、領主に挨拶をしてきます」
「あ、ああ。別に歓迎はどうでもいいな。フラニア。とにかく話し合いをしておけ。いざという時に戦うのか。差し出すのかをな。その意向にあたしも従うからよ」
「・・・わかりました。説得します。待っていてください」
「おう。あたしゃ、どこで休めばいいんだ?」
「そうでした。ではマルコにでも案内させますね」
「ああ。わかった」
どんな状況に陥ろうともエルダと言う女性は、常に冷静である。
ラムマカンの里の里長ラーズベル。
それがフラニアの夫であり、この里の長である。
この里は、西軍に属した竜王尊重派だ。
しかし、それはかつての里でのラーズベルであって、今の彼が竜王を保持するかは分からない。
「ちょい。ケイラとシャクル」
エルダは二人を呼んだ。
「お前たちさ、フラニアにべったりくっつけ」
「は、はい? 私たちが?」
「え、もう里なので安全では?」
「そいつはな・・・・」
エルダが二人にだけ耳打ちして、指示を出した。
話の最初はうんうんと頷けた二人だったが、話題が二つ目になると青ざめていく。
「あ、ありえないです。それはだって・・・」
「いいや。あたしの予想は合ってる。ケイラ頼むぞ。お前が一番フラニアのそばにいれる。シャクルじゃ風呂とか便所とか近づけねえからな」
「……わ、わかりました。やってみます」
「おう。頼んだ。緊急になったら魔力を出せ。あたしはお前らの魔力を覚えたから、この里の範囲にいれば、大体の場所を察知できるからよ・・・あとは任せた。んで、あたしはここらを見学させてもらうわ」
エルダは二人にだけ注意をし、前に進んでいった。
「おい。マルコ。ベイン。あたしの案内をしろよ。あたし、ここに来たことねえからよ。どこいきゃいいんだ」
「あ、すみません。今から案内しますね。ベイン、馬車を厩舎にしまってから俺たちで案内しよう」
「おう。それじゃあ、エルダさん。もう一回馬車に乗ってください」
「わかった」
エルダたちは一旦馬車を厩舎にしまった。
◇
「詳しくは聞いてなかったんだけどよ」
里の公園の様な場所でエルダはマルコに聞いた。
「ハイルは誰の子だ? フラニアじゃねえんだろ」
「はい。そうですよ」
エルダの食べ物の買い出しに行かされたベインの代わりに、マルコが答える。
「ハイルフィン様はフラニア様の子供ではありません。フーナ様の子です」
「フーナ?」
「フラニア様の妹君です」
「なるほど。ハイルは、フラニアの甥っ子か」
「そうです。私たちは、フラニア様の故郷アーベントにいるフーナ様が子供を産むと連絡が入り、その子供が普通の子とは違う気がするとフラニア様にのみ連絡がいきまして」
「へぇ。んで、なんでその子が、普通の子と違うって分かるんだ? 腹の中にいた時の話だろ」
「あ、それは二人目の子だったので、一度目の妊娠とは違うと、フーナ様からの手紙で」
「なるほどな。一度産んでいれば、そいつはわかるか」
エルダは狐族が9割の里を見渡しながら会話していた。
「エルダさんに詳しく言いますと、フーナ様はですね・・・」
◇
アーベントの里では、里の民たちにフーナ様の妊娠は知らされずに極秘扱いでした。
フーナ様は病気であると、長であるフラニア様の父君が皆に周知して、彼女のことは誰の目にも届かない場所で匿っていたそうです。
だからこの事を知っている人の数は限られていたのです。
そして、フラニア様はラーズベル様に懇願して、暇をもらいました。
フラニア様はラーズベル様の第三妃なので、正妻ではないからこそ数カ月のお暇をもらえたのです。
今から三カ月前に、フラニア様の出立の準備は進み。
フラニア様と我々は極秘でアーベントに入り、彼女の出産を見届けました。
生まれた子はやはり、彼女が感じた違和感の通りに竜王の卵でした。
皆、これには驚愕しましたよ。
何せあの竜王の卵だったんですから。
卵が産まれて三日目。
里長であるフラニア様の父君は事態を公表するかどうかで里の複数名と話し合いになり結果。
皆に周知するためにまずは里内で公表しようという動きになりました。
翌日。
里の中心で、ハイルフィン様を持ちあげて、皆に演説しようとしたその時。
どこからともなく敵が現れて、襲撃に会ってしまったのです。
我々もそこにいて、幸いにも我々はハイルフィン様のそばにいたので、長とフーナ様を守りながら移動したのですが、出産したばかりのフーナ様では移動を素早くできず、逃げ切れないと悟ったフーナ様は長と力を合わせて最後の力を振り絞って我々を逃がすために力を使い果たしました。
その結果。
我々も追跡してくる人数が減って、何とか対処できたというわけです。
そして我々は、命からがらのような状態で逃げ伸びた先で、エルダさんと出会いました。
◇
「ほう。数が少なくなったから、追手をかわせたって理由か・・・・。おい、その追手、どっちかわかるか」
「どっちというと」
「当り前の話だ。西か東かだ」
「わかりません。戦闘服に色がありませんでした。白でした」
「なるほど・・・そいつはわからんな」
戦闘服に色があるのがハイドラド大陸の常識。
赤がガルド王国。青がアルス王国である。
そのどちらでもない白では見当がつかない。
「まあ、どっちでもいいか。あたし的には・・・守るのに敵の事情はどうでもいいしな。西か東かの違いが出るのは、立ち回りくらいだしな」
「そうなんですか」
大陸に住んでいる癖に、ここら辺の事情を加味しない返事が曖昧なマルコだった。
「あ、そうだ。お前はどう思ってんだ」
「というと」
「お前はハイルフィンをどうするべきだと思ってんだ」
「私は、守るべきかと・・・ここは元は西側ですし、それにフラニア様が守ると決めていますし」
「そうか」
二人の元に買い物を終えたベインがやってきた。
両手で荷物を抱えるその姿は大変そうだ。
「エルダさん。これくらいでいいですよね。さすがにこれ以上は持てません」
「あ、すくねえな。この量じゃ腹減るわ」
「え。この量でも・・・・いやいや。待ってください。これ以上は無理ですって。これ以上は持ち運べる余地がないですよ」
「ほれ、これとこれを食うか」
エルダは彼の荷物の中をガサゴソと探り、りんご飴と綿菓子を取った。
「うん。うめえ。甘いもんもいけるな。ここ」
「は、はぁ」
「んじゃ。マルコ。あたしはどこ行きゃいいんだ」
「はい。おそらく宴会が始まると思うので、一旦はこちらで宿を用意しますよ。中に入る許可があれば宿はキャンセルでいいです」
「おう。まかせた」
里ラムマカンは、アーリッシュと呼ばれる移動式の大型の天幕を利用して数か所を転々と移動する。
一か所に定住はせず、季節に応じて移動して食料の確保に勤しむ里である。
「天幕だらけだもんな。すげえ頑丈そうだぞ。これ」
「ええ。大型の天幕には木の幹のような支柱がありますからね。これで大地にしっかり突き刺すんですよ。安定しますから」
「ほう。だからここの里の事をあたしは知らんかったのか。移動されてたら、どこに住んでいるかなんて知らんもんな」
「そうですね。ラムマカンはそうなってますね。珍しいと思いますよ」
「だろうな。他にはあんまり聞いたことねえもん」
エルダは、焼き鳥を食いながら移動していた。
甘い物からお肉に行く精神はよく分からない。
口の中がどうなっているのだろうと思う二人はエルダの隣を歩いていた。
「ほほう。ここか・・・随分外れの方の宿だな」
「ええ、エルダさんは目立ちますからね。気を付けた方がいいかと思いまして、私がこちらに」
「そうか。マルコにしては考えていると」
「なんですか。その私にしてはと」
「おまえ、とんちんかんなんだよ。ずっとな」
「ひ、酷いですよ・・・悲しいです」
「まあまあ。気にするなマルコ。エルダさんはそんなに深い意味で言ったわけじゃないよ」
荷物が減りつつあるベインが、マルコを慰めたのだった。
氷炎の魔女と竜王の卵 咲良喜玖 @kikka-ooka
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