第7話 狐族の里ラムマカンへ ③
木の上にいる
下を向きこちらの隙をまだ窺い続けている眼は獲物を狙い続けるハンターのようだ。
「諦めずに追いかけてくるのは、あれらが来ているからか。連動してんのか・・」
森の奥からやってくる敵を見つめるためにエルダは上から下に目線を下げた。
「重装騎兵・・・どこの者だ……でもあれが問題じゃねえな。問題はその奥だ」
覆面姿の敵たちは、大柄の馬に乗ってこちらに迫ってくる。
遠巻きからでもひしひしと伝わる重厚感は、相手を押す圧力がある。
しかし、それよりも異彩を放つ気配が騎馬隊の奥から現れる。
赤い肉体が目立つ。
筋骨隆々の肉体を見せつける敵が。
「あれは
白黒は大人しめの性格の者が多く、戦闘向きではない。
黒は戦闘を無難にこなすことが出来るが、好戦的ではない。
ただ赤は好戦的な種族で、獣人族でも最強クラスの格闘術を持っている。
「あれが来る前に、重装騎兵を退けるしかないか」
エルダは、背中から
「さあ、かかってこいや」
◇
エルダが銃を構えてから数十秒後。
重騎兵が馬車の後ろを取り囲うと、上にいる
自分たちを虎視眈々と狙おうとしているのは、変わりがないようだ。
「やっぱ連携してんな。こいつら、種族が違うのにな」
「エルダさん。私も」
御者ベインの隣にいたはずのマルコが馬車の上に登ってきた。
「馬鹿! なんでお前、こっち来た」
「この人数差はさすがに・・・」
「アホタレ、お前らを守りながらは無理だ」
エルダの話途中で敵の動きが変わった。
両端の重騎兵は加速して馬車の側面に入る。
エルダの視野のギリギリの位置で、並走し始めた。
視野角を確保しずらい敵の配置。
最初に攻撃してきたのは、真後ろ。
自分から見て正面の重騎兵だ。
重そうな鎧に体が持っていかれることもなく、敵はすんなりと動きだし、長槍で刺す動きを見せる。
「速えぇ。クソ」
エルダの神業的な所業に、相手の目は泳ぐ。
エルダは、敵の兜から見える目が左右に揺れたのを見逃さない。
「私の一突きを止めるだと!? 貴様、何者だ」
「あたしは旅人だよ。あんたは、旅のお供にはなれないからよ。帰ってくんないかな!」
エルダは槍を弾き返した。
馬上でバランスの崩れそうな態勢になるも、敵はすぐに立て直す。
「三口の銃口・・・その武器は・・・まさか・・・貴様・・・」
「ほう。あんた、結構強いな」
【ドスン! ドスン!】
地響きが一つ、二つと近づいて来る。
赤い肉体が近くまでやってきた。
「バウラー!? もう来たのか」
エルダと対峙した敵は振り向いて
「強者発見。フハハハ。勝負だ!」
「面白れえ。そういう感じの
「なに!?」
エルダと一閃を交えた敵は驚く。
エルダが馬車から飛びかかってきた。
槍を出して牽制するも、あっという間に懐に入られて、兜に蹴りを入る。
「ぐはっ。な、なんて無茶を」
「ほう。あんた別嬪だったんか。なんでこんなことを?・・・まあいいや。ほんじゃ。あんたが隊長格らしいから、ここで重装騎兵はご退場だ」
「ふ・・・ふざ・・なに」
エルダは空中で流れるように連続の蹴りを披露。
綺麗な顔をした
「お。おまえたち・・・追え! 追うんだ」
「「「 た、隊長!? 」」」
重装騎兵らは、女性が落馬したことに動揺して戻ってしまう。
彼女の願いは受けいられなかった。
エルダは女性の馬を奪取して、
「おし、勝負だぞ。
「はははは。いいぞ。一対一だ」
「厳密にいや、一対一じゃねえがな。いいぜ。来いよ」
エルダは上空を指差して、木々を飛ぶ
それよりも敵は、エルダ以外眼中にないようだ。
彼女を真っすぐ見つめて、彼女と戦えることを嬉しそうにしていた。
「はぁ。戦闘狂だな。いいぜ。かかってこいよ!」
衝突時の反響音は、爆発音のように辺りに響いた。
「おお! 俺の一撃を受け止めた人間は久しぶりだ。それに人族では初ではないか。がははは」
「はいはい。お褒めに預かり光栄ですな。おっさん!」
「俺の名は、バウラーだ。お前の名は!」
「あたしに勝ったら教えてやるよ。ほらよ」
馬を御しながら、エルダはケルベロスでバウラーに殴りにかかる。
その一撃くらいならば喰らってもよし。
バウラーは肩を殴られても、へっちゃらだった。
「ん?」
「ほう。ではこれはどうだ。
「なるほど。やっぱ戦闘狂で間違いない」
バウラーはわざとエルダの一撃をもらい、反撃の為だけに魔力を温存していた。
斧に乗せた魔力が重さを生み、エルダに襲い掛かる。
「エルダさん! 私が援護を」
馬車から顔を出したシャクルが叫んだが。
「いい! お前らは上の
エルダは断る。
ただこの時横目で馬車を気にした気になったのはマルコだ。
指示役の癖に、シャクルたちを統率もせずに上を向いていた。
「はい。わかりました」
エルダの目的は、あくまでも護衛対象を守る事だ。
自分の身の危険などどうでもよいのである。
それに、まだこれは危険水域ではない。
なぜなら。
「こいつはいい攻撃だ。だけども、ケルベロス。唸れ」
殴った先からケルベロスの銃口が移動していた。
バウラーの足元に銃口が向かうと。
「
「な、なに」
エルダの氷魔法で、バウラーの足とその周りの地面が凍る。
バウラーは大地と一体化した。
「悪いな。さらにいくぞ。あんたは厄介だからな。ここで眠っていてもらうわ」
氷から脱出しようともがくバウラーに、どんどん前を行くエルダ。
次第に離れる両者でも、彼女の魔法は届く。
ケルベロスを背にしまい、エルダは両手をあわせた。
「
「こ、これは」
凍った足元から氷が伸びていく。
膝、腰と徐々に氷が上っていく中でバウラーは叫ぶ。
「こんな決着は許さん。もう一度勝負だぞ。いいな。必ずだ」
「へいへい。そこから抜け出せたら、もう一回いいぜ」
エルダは笑いながら言葉を返したのだった。
◇
「引いたな。やっぱり、こいつらと連動を・・・」
手綱で馬をコントロールしながらエルダは上を確認。
馬車に狙いを定めていた
「エルダさん…終わりですかね」
馬車の上にいたマルコが言った。
「だろうな・・・つうか、なんでお前、馬車の上にいんだよ。中にいろよ。あたしはそう言っただろ」
「いや、俺なら、馬車の上で戦えるので」
「阿保が。お前のカバーなんて、あたしは出来んぞと言っただろうが!」
「…す、すみません・・・」
エルダは、マルコが謝ったのを見届けて、馬車よりも前方に出た。
「ベイン。馬はどうだ。目的地まで持つか」
「無理かもしれません。さっきの全速力で体力を使い果たしているかも」
「だろうな。ベイン。この先で休息をとる。馬一頭をこいつと交換して、三十分くらい休憩だ」
「わ、わかりました。でも敵は・・・」
「たぶんこねえ。あたしの魔法を解除するには一流の魔法使いじゃないと出来ねえ。あそこにいたのは、戦士系列の追手だったからな。あいつを解除するには時間がかかる。たぶん、あいつらの切り札はあのコウルだからな。あいつが戦線復帰しないのであれば、あいつらは追って来ないと思うんだ。だから大丈夫だ。休憩に入ろう」
「はい。そうします」
数百メートルほど進んだ後、一行は休憩に入った。
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