9.収穫

また事件です。

千景は、景子さんと一緒に、扶川刑事さんの車で、剣山の第一駐車場へ向かった。


扶川刑事に掛けてきた電話は、光宗警察署の須賀課長からだそうです。

通報があったそうです。


それで。

剣山の第一駐車場へ向かうよう、指示されたそうです。


現場に到着すれば、分かる事だからと、伝えようとしたのですが…


しかし、景子さんにも電話があったのです。

景子さんとは、お母さんの事です。

相手は、弘君でした。

弘君とは、お父さんの事です。


千景は、石鎚山高専に通っています。

県外だから、鈴音寮という学寮に入っているのです。


寮の友達が、両親のことを名で話していました。

母親は、さん付けで、父親を君付けで話していました。

千景は、それを真似ているのです。


ただし、両親を前しては、お母さん、お父さんと呼んでいます。


ん。何の話しだったっけ?

ああ、そうだ。


景子さんに、掛かってきた電話の事でした。

電話は、弘君からでした。


景子さんは、訝った様子でした。

それは、弘君は、滅多に電話に出ないからです。

また、弘君から、電話が掛かってくる事もありません。


だから、景子さんは、訝ったのです。

何かの間違いだト思ったのです。


弘君との連絡手段は、ほぼ、メッセージアプリです。

しかし、送信したメッセージも、既読にならない場合が多い。

弘君を問い詰めると、スマホのポップアップを見ている。

だから、内容は把握している。と云うのです。


そして、メッセージの内容が、大した事では無いと判断している。と云うのです。

しかも、絶対に大切な用件には、応答していると、開き直っています。


と、言い訳していますが、本当は別に理由があります。

電話だと、景子さんに、口で言い負かされてしまうのです。

メッセージだと、書き込む入力が遅く、話題に追い付けない。

だから、電話にも出ないし、メッセージも既読にならないのです。


あれ?何の話しだったっけ?

ああ、そうそう。

弘君からの電話の話しです。


多分、これだから、弘君は千景の電話にも、滅多に出ないのです。

つまり、余計な話しが多過ぎて、うんざりするのでしょう。

それを辛抱強く聞くのに、注力するのは、疲れるのでしょう。


大体、景子さんの話しは、どこへ飛んで行くのか、分かりません。

結局、何を云いたかったのかも、分からない事が多いのです。


あれ?また話しが逸れてしまつた。

しかし、これは仕方無い。


何故なら、千景は、景子さんの血を引いているのですから。


そうそう、弘君からの電話の話しです。

弘君は、昼過ぎには、宿へ戻ると云っていました。

しかし、ちょっと帰れないと云います。


何だかんだと景子さんが、問い質す。

一々説明していると、また話しが逸れるかもしれません。


だから、景子さんの話しを要約すると、何故、戻るのが遅くなるのか。

と云う事です。


そこで、千景は、電話を替わって、内容を確かめました。

景子さんは、何だか不満そうです。


あっ!

随分、呑気に話している。

と思われるかもしれません。

しかし、これも仕方が無い。

のかもしれません。


秋山一家が、遠出する度に、行く先々で、死体を発見してしまうのです。

お亡くなりになられた方には、ご冥福をお祈りいたすます。

また、ご遺族、関係者の皆様には、お悔やみ申し上げます。


しかし、秋山一家は、被害者のご無念を晴らすために毎回、努力しております。

そして、事件解決の一端を担っているものと、自負しています。


さて。

弘君が、朝早くから、剣山へ出掛けた理由が、分かりました。


扶川刑事が、どうやら弘君を見張っているようだ。と、云うのです。

まさか、そんな事は無いだろうと思うのですが。

現場周辺を彷徨き、荒らされては困る。

と、云う理由だそうです。

ただ、これは、弘君が、そう勘繰っているだけです。

当たっているか、外れているかは、分かりません。


だから、扶川刑事が宿へ迎えに来る前に、出掛けたのだそうです。

それでは、何故、剣山へ出掛けたのでしょうか。

千景は、弘君に尋ねました。


弘君が答えました。

何故、剣山だったのだろう。

北尾さん。

あるいは、北尾さんと、北尾さんの車に同乗していた男は、何故、剣山へ向かったのか。

そう疑問に思ったそうです。


普通に、目に付かない場所なら、交通事故現場から、さほど遠くない場所もある。

わざわさ、剣山へ向かったのは、何か理由がある筈です。


成程。

そう云う考え方も、あるんだ。


弘君は、剣山の第一駐車場から、砂利道を歩いて、登山口へ向かったそうです。

ただ、特に、剣山へ登るつもりはなかったそうです。


そして、駐車場から登山口の途中で、死体を発見したそうです。


もう後数メートル行くと、折り返す様に、山を下る坂道があるそうです。

しかし、千景は、覚えていません。


その坂道の片側が、崖になっていて、木立が立ち並んでいるそうです。

それも、千景は覚えていません。


その木立の一本の木の根本に、死体があったそうです。

抱きつくように、凭れ掛かった状態だったそうです。


弘君は、急いで、砂利道を上り、坂道を下ったそうです。

木の根元に近付くと、やはり、死体だったそうです。


後頭部から、血を流していました。

一見して、死亡している事が分かったそうです。


今度は坂道を上り、死体の見えた場所まで戻った。

砂利道の路肩に、滑ったような跡はなかったそうです。


弘君は、ただ、剣山に何かないかと、漠然と向かったのです。

しかし、死体を発見してしまったのです。


そして、警察に通報した。

その後、弘君から、景子さんへ電話あったのと、ほぼ同時でした。

扶川刑事にも電話があったのです。


扶川刑事が、迷っているようです。

そして「一緒に行きましょう」と、景子さんと千景に云いました。

車へ向かっていると、また扶川刑事に電話がありました。


ええっ!

また、扶川刑事が驚いています。


死体の身元が、判明したようです。

遺体は、森北という人だそうです。

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桐一葉の聖櫃 真島 タカシ @mashima-t

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