8.酷暑
聞込みに、秋山の奥さんと、娘さんが同行している。
朝、秋山を迎えに行くと、もう、既に、出掛けた後だった。
代わりに、秋山の奥さんと、娘さんを聞込みに同行する羽目になった。
今日は、交通事故、つまり、北尾さんの車が追突した現場の目撃者探しだ。
中学生の二人は、特定出来た。
しかし、もう一人の男の目撃者が現れない。
それこそ、本当に目の前で、目撃していた筈だ。
自転車に乗った、農作業員風体の男だ。
おそらく、その男が信号機の押しボタンを押したのだろう。
信号が赤に変った。
それで、追突された車の男性は、横断歩道の停止線で停まった。
追突された車の男性が、証言している。
農作業員風体の男が、自転車に乗ったまま、横断歩道脇の電柱の横にいた。
他に、信号待ちをしていた歩行者は、誰も居なかった。
農作業員風体の男は、自転車に乗ったまま、横断歩道を渡り始めた。
突然、衝突音だ。
驚いたのか、男は自転車から降りた。
男は、状況を理解したのだろう。
交通事故だ。
追突された車を見た。
その後、追突した軽自動車の方を見ている。
追突された車の男性の証言では、確かに
見ていた。
その後、扶川刑事が、追突された男性に立ち会って、現場検証を行った。
その男性の証言通りに、横断歩道に立ってみた。
農作業員風体の男が、自転車から降りた横断歩道の地点を確認した。
見えるのは、追突した車の運転席は、辛うじて見える程度だ。
しかし、助手席は確実に見えていた。
たから、農作業員風体の男は、確実に目撃している筈だ。
事故に付いては、追突された男性と、中学生の証言が一致している。
だから、追突された男性の証言は、信憑性が高い。
追突された男性の証言に、間違は無いだろう。
そうなると、やはり、北尾さんの車の助手席に、同乗していた男が気になる。
追突された車の男性は、追突した車の助手席に、男性らしい人物を見ている。
ただ、中学生二人の証言では、助手席の男の存在を確認、出来なかった。
中学生二人は、運転席の女性を見ていた。
だから、運転していたのは、北尾さんだ。
追突した車の所有者と一致している。
しかし、何故、農作業員風体の男は、名乗り出ないのだろう。
関わり合うのが、煩わしのは分かる。
怖そうな刑事に、事情聴取されたり、現場検証に立ち会わされたり面倒だ。
それと、もう一つ考えられるのは。
警察に、通報出来ない事情が、あったのかもしれない。
自身が、犯罪者だった場合だ。
聞込みに、一般人を立ち会わせる訳にはいかない。
また、扶川刑事の車に、乗せたままにも出来ない。
だから、事故のあった交差点に、酷暑のなか、二人を置き去りにするしかない。
しかし、ちょうど、交差点の角にコインスナックがある。
暑さは凌げるだろう。
そう説得して、工事現場へ向かった。
農作業員風体の男は、事故当時、この付近で、何等かの作業をしていた。
それに、工事現場はある。
橋の袂の舗装工事だ。
市に確認すると、現在、この近辺での工事は、この一件だけだ。
現場作業員は、十三名人。内二名は警備員だ。
作業員は、八時に現地集合、五時に解散する。
皆、自家用車かバイクを利用している。
重機は、現場に置いたままだ。
自転車を利用している者は、居ない。
「工事現場で、聞込みしたけどなぁ」
扶川刑事が、呟くように愚痴を溢した。
「えっ」
まだ、工場へ聞込みに、行ってないのか。
と秋山の奥さんに詰られた。
近くの工場というのは、自動車整備工場だ。
実を云うと、扶川刑事は、どうしようか、迷っていた。
もう昼前だ。
今から移動すると、ちょうど、秋山が民宿に戻って来る頃だ。
秋山の奥さんと娘さんを民宿まで、送り届けた方が良いかもしれない。
そう、思っていた。
だから、そう、伝えたのだ。
すると、秋山の奥さんが、言い放った。
お父さんの事は、どうでも良い。
事件解決を優先しましょう。
だから、聞込みに行って来てください。
と柔らかく云った。
しかも、工事現場の手前に、自動車整備工場がある事も知っていた。
ふと、秋山の娘さんを見ると、悪戯っぼく微笑んでいる。
扶川刑事は、理解した。
つまり、秋山の奥さんと娘さんは、扶川刑事の向かった方へ歩いて来たのだ。
それで、扶川刑事は、つい、小声で云ってしまった。
「奥さんも、病気だ」
その言葉が聞こえたのかもしれない。
それで、火が付いたのか。
「扶川さん。早く、整備工場へ聞込みに行きましょう」
と、物凄い形相で、しかし、優しい口調で云った。
扶川刑事は、仕方無く、秋山の奥さんと娘さんを連れて、自動車整備工場へ向かった。
ただ、工場の外で待つという条件だけは、絶対に守る事を約束した。
自動車整備工場は、門井モータースと云う。
一応、株式会社だ。
扶川刑事が、聴取の協力を求めた。
事務員が、誰かに受け継いだ。
若い男が、作業所のドアから入って来た。
門井常務だと、紹介された。
扶川刑事は、工員全員に、聴取したいと云った。
常務は、短時間で終了したいと依頼した。
当然だ。
主人が社長で、奥さんが専務、息子が常務だ。
社長は、営業に回っていた。
門井社長の奥さんが、事務全般を管理している。
扶川刑事は、社長の奥さん、つまり、門井専務だが。
門井専務の立ち合いの元、事務所へ一人づつ呼び出した。
ちょっと、話しが長くなった。
交通事故を目撃したであろう男が、浮上した。
自転車で、通勤している男性は。
森北渉。三十六歳。独身。
自宅は、町内で、両親と同居している。
だけだった。
ただ、森北は、この月曜日から欠勤している。
体調不良で欠勤すると、両親から連絡があった。
だから、会社としては、受け入れた。
それだけの事だ。
扶川刑事は、車へ戻った。
車に乗り込んで、どうしようかと考えていた。
一旦、戻りましょう。
と云おうとした。
と、その時、スマホの着信音。
奥さんのスマホだ。
珍しそうに、スマホ見た。
そして、怪訝そうに、電話に出た。
「もう、山科へ着いたの」
奥さんが、聞いている。
「山科」というのは、奥さんの旧姓で、秋山が宿泊している民宿の事だ。
だから、秋山からの電話だろう。
と、また着信音。
今度は、扶川刑事のスマホだ。
「はい。扶川です」
「今、どこかからの電話に、出てるけどぉ」
秋山の奥さんは、扶川刑事の電話が終わるのを待っているようだ。
「ええぇ!!」
だが、扶川刑事は、スマホを耳に当てたまま、驚いている。
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