ささやき交わす声に耳をかたむければ
- ★★★ Excellent!!!
人気のない博物館の中の静寂。
そこで、かすかにささやき交わす声。
どんな声なんでしょう。
しゃべり方から、幼い子供らしきかわいらしい声を想像しました。
繊細な言葉使いから生まれるリズムが、
誰もいない博物館の中で交わされるおしゃべりの声、
そして、スピーカーから流れてくる水音とともに、
文全体に、柔らかに響いています。
そこへ現れる、校外学習らしき小学生の一群。
静寂が一転、そして、去った後に再び訪れる静寂。
直前の子供達のさざめきに対し、
落ちる静寂はいっそう密やかに響きます。
八階の天文学の展示棚の彗星の欠片と、
地下の海洋動物の展示室の貝殻達。
宇宙から飛来した彗星と、
波の下の貝殻達。
慌ただしくやってきては去って行った子供達と、
ひっそり体を揺らすばかりの貝殻達。
子供達は、どこへ向かっていったのでしょう。
その先に、貝殻達の憧れる、
あの八階の展示室もあったのでしょうか。
或いは、そちらからやってきたのでしょうか。
震災で甚大な被害を受けた某市に、
かつて、貝がらを中心に扱った、こぶりの博物館がありました。
まさに、天井から鯨の標本が下げられていたように記憶しています。
(今は、修復を経て市の博物館に展示されているようです)
幼い頃、父母に連れられて、何度か訪れたことがあります。
貝殻を耳に当てて、波のざわめきに耳を澄ましてみたり、
宝石のように並べられた、
色も形もとりどりの貝殻たちに目を奪われ、見入ったり……。
そんなことも思い出しながら、
緻密に配置された、心地よい言の葉と響きとを味わい、何度も読み返しておりました。