第5話 相棒
翌日。
歩かせると本気で日が暮れるので、「そ、そんな……えへっ」と何故か照れまくるミウを両手にかかえ、町に戻った。
帰り道にミウの風で獲物を何匹か仕留められたので、ギルドで換金すれば基本装備は整えられそうでほっとする。
ギルド窓口に昨日の出来事を報告してみたけど、基本パーティー追放に絡む交渉は本人たちの責任内で行うもので、ギルドは一切関しませんとあっさり突き放されてしまった。俺の腹や頬にある痣を見てギルド職員さんは痛ましそうな目で見ていたけど、規則は規則なんだそうだ。
仕方ない。だったらさっさと新しいパーティーに入って、またダンジョンに潜って魔鉱石を採取するしかないだろう。
「今人員を募集してるパーティーってあります?」
「今はないですねえ」
すると、俺の腕の中で興味深そうにギルド内を見渡していたミウが、唐突に言ったんだ。
「パーティーって何人からなの?」
ぎょっとするギルド職員。そりゃそーだ。それでも、質問には答えてくれた。
「お、お二人から可能です、が……」
「えーじゃあ、ボクとホルストでパーティー組めばいいよ! だってボクたち相棒でしょ!?」
瞳をキラキラさせて俺を見上げるミウ。可愛いな。
だけど確かに、その辺の人間よりもミウは強い。運んでやる手間暇はかかるけど、とにかく素直だし、ていうかドラゴンだし。うん、いいかもしれない。
「あの、この子ドラゴンだから滅茶苦茶強いんですよね」
「へ……ド、ドラゴン!?」
驚くギルド職員。よし、混乱している間に話をまとめてしまおう。
「そう、ドラゴンのミウです。で、俺は魔道具師のホルスト。俺達のパーティー名は【竜の風】です。ダンジョンの入場許可下さい」
「ボクたちの名前!? わー! 格好いい!」
「だろー?」
きゃっきゃワイワイとはしゃぐ俺たちの勢いに負けたのか、というか喋るトカゲに脳みそが麻痺したのか、ダンジョンの入場許可はあっさりもらえた。よかった。
俺たちは再び、ダンジョンに向かう。バンバンモンスターを倒して戦利品を拾いつつ、魔鉱石を見つけてはマジックバッグに放り込んだ。
「ねー、その石なあに?」
腕の中のミウが、興味津々で尋ねる。ちなみにミウは、磨いたらピンク色の鱗だった。余計可愛い。
「あーこれ?」
手に握っていたキラキラ光る拳大の透明の石を、ミウの前に持っていく。
「これは魔鉱石っていって、言ってみれば魔力の塊みたいなもんだよ。魔道具師はこれと素材をエンチャントして魔道具を作るんだ」
「へえー、魔鉱石ってこれのことなんだ! エンチャントって、さっき鞄にやってた、ぱあーって光る凄いやつだよね!」
「そうそう」
「そっか、だからなんだ!」
「え、なにが?」
ミウは目を輝かせた。
「トラゴンの戦士は、魔鉱石を食べて人化するんだよ! 人化した戦士は竜戦士って言ってね、ボクら子ドラゴンの憧れなの!」
なんか御伽話で聞いたことある単語が出てきたぞ。え、ドラゴンって人化するの?
ミウの興奮は収まらない。
「あれって体内でエンチャントしてるからなんだね! さっきホルストが唱えてた呪文が竜語だったから、なんでだろうと思ってたんだ!」
「はい?」
俺の町に代々伝わってる特殊魔法って、元ネタドラゴンだったのか。うわー、新事実。
「ねえ、ボクにも魔鉱石頂戴!」
「ええと……大丈夫か?」
腹壊さないかな。
「うん! 戦士になるには沢山の魔鉱石を食べないといけないって言われてたから、こんなに早く見つかって嬉しい!」
なんだか凄い展開でちょっとついていけてないけど、考えてみたらミウが人化できるようになれば俺が抱えて歩く必要もなくなる。これはこれで可愛いけど、両手が塞がってると不便ではあるんだよな。
「うん、分かった。じゃあこれからは、見つけたら半分こしようなー」
やったあ! と大喜びするミウ。
「ボク、人化できるようになったら絶対格好いいから見ててね!」
「あはは、楽しみにしてるよ」
なんだかお父さんな気持ちになってしまい、頭を撫でた。ミウのお父さんが「大きくなれよー」って送り出した気持ちがちょっと分かるかも。
なんて思ってた時期もありました。
暫くの後。
俺を追放した『鳳凰の羽』パーティーが内部から瓦解した、と風の噂で聞いた。
リーダーのアレックスは、田舎に引っ込んで木こりになったそうだ。一生独身を貫くと語っているそうだけど、一体何があったんだろう。ちょっとだけ気になる。
戦士は半分廃人と化し、場末の酒場で安酒を飲みながら「嘘だ、ついてるなんて嘘だ……」と呟いているとか。何がついてたのかは、言わずもがなだ。大方、ミニスカの中を見てしまったんだと思う。
僧侶は「俗世に染まった己の心を洗い流す」と言って、一番厳しいとされる修行の旅に出たそうだ。いつか神様が許してくれるといいね。
最後に、パーティークラッシャーのレイナ。
あいつはあれからいくつものパーティーを渡り歩いては、パーティーを崩壊させたらしい。
そんなレイナと俺たちがたまたますれ違ったことがあった。
そして、あいつはミウを見た直後、地面に膝を突き「同じピンク……負けた……っ」と言った。そのままどこかへと消え、その後あいつの消息を知る者はいない。
なんでレイナが負けを認めたか。
人化したミウは、ピンクの髪をした超絶美少女だったんだよね。
え、ミウって女だったの? 俺、女の子にいつも「可愛い」って言いまくって腕に抱いてたの? 頬擦りとかちゅーとか一杯してたんだけど、と最初は凄く焦った。道理で可愛いって言う度照れてた筈だよ。
最初はすぐに元に戻ったけど、魔鉱石を摂取すればするほど体内に魔力が蓄積されるそうだ。ミウはせっせと食べ続けた。一緒にいるようになって半年が経つ頃には、人化してる時間の方が多くなるほどに。
レイナとすれ違ったのは、この頃だった。勝手に自滅したけど、ちょっと溜飲が下がった。
――そして現在。
白く滑らかな頬を可愛らしく赤らめたミウが、今日も華奢な口を開ける。
「ホルスト、あーんして」
「はい、あーん」
まさか俺がミウに食べさせていた行為が「給餌行為」にあたり、ドラゴンでは母子関係か番関係にある者同士しかしない行為だったなんて。
口まで運んだ魔鉱石を口に含むと、ミウは俺に抱きつく。俺も、ミウを抱き締め返した。どっちのミウも可愛いなあ。
俺は知らない内にミウに求愛し、番の約束も成立していた。でも後悔はない。
――ここのところ俺らの名は広く知られるようになってきたけど、ドラゴンの里に「お嬢さんを下さい」て言いにいくには、もう少し実力が伴わないとだな。
『竜の風』が名を馳せ、最強の魔道具師と最強の風魔法使いと呼ばれるようになるのは、まだ少し先の話。
<完>
セクハラ疑惑でパーティーを追放されたけど、ドラゴンが仲間になったので最強の魔道具師を目指します ミドリ/緑虫@コミュ障騎士発売中 @M_I_D_O_R_I
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