第4話 ミウ

 結論から言うと、ミウは普通に強かった。


 小さな翼から繰り出される風の威力は、凄まじかった。兎を両手で掴んだ俺の指の位置があと小指一本分ずれていたら、俺の指は兎の首と一緒になくなっていたと思う。怖えよ。


「ミウ、滅茶苦茶強いじゃん。今まで獲物を捕まえられなかったって本当?」


 唯一手元に残った火起こし用の魔道具を使って焚き火を起こしながら、俺の横で腹をぐうぐう言わせて待っているミウを振り返った。


 ちなみに皮と内臓を取りたいけど風で切れる? と聞いたら、「ボクのこの取れかけの鱗で切れると思うよ!」と言われた。風の操作はまだ特訓中で、手元が狂うことも多いんだって。……おい、俺の指よく無事だったな。


 こうして、俺は超激レアアイテム「ドラゴンの鱗」を調理用に入手した。世界中の冒険者が、喉から手が出るほど欲しがる神アイテムだ。罰当たりすぎるけど、確かにメッチャクチャいい切れ味……くう……っ!


「獲物を仕留めるまではできるんだけど、全部横から掻っ攫われちゃって」

「あー」


 確かにミウの歩きは遅い。のし、のし、とのんびり歩くのを待ってたら、日が暮れる速度だ。まあ最初から日は暮れてるけど。


 兎肉に木の棒を突き刺して、焚き火の前にぶっ刺す。しばらく経つと、肉の焼けるいい香りが匂ってきた。


「……ジュルル」


 横を見ると、肉をじっと見つめたままのミウの口から涎が垂れまくってるじゃないか。


「ぶっ、お前可愛いなあ」

「……えっ!?」


 何故かワタワタとしだすミウ。


「そ、そんなこと急に言われても……っ」

「ふはっ、何照れてんだよ」

「だ、だって、」

「あ、焼けてきたぞー。熱そうだな。ちょっと待てよ」


 熱々の焼けた肉のひとつを、ふうふうして少し冷ます。ミウが何故か瞼をパチパチしているけど、煙でも目に入ったのかな。


 俺はミウの口の前まで肉を持っていくと、言った。


「はいミウ、あーん」

「へっ!? えっ、でも、ボクたち会ったばっかり……!」

「手で食えないだろ? ほら、脂が垂れるから早く食えって」

「え、え――えいっ」


 ミウはパクッと食べると、目を輝かせる。


「なにこれ……! 美味しい!」

「どれどれ、じゃあ俺も」


 こうして俺とミウは一匹の兎を分け合い、仮初の相棒関係になった訳、だったんだが。


 ――俺は色々とやらかしてることに、この時点では全く気付いていなかった。

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