4 彼に笑顔を

「ねえ、青城くん」

「うん?」

 紅と荻那は仲が良いと思う。傍目に見ても。

 会話が盛り上がらないのは共通の話題がないからだと思うが、彼と懇意にしてたのは小学生の頃だ。その頃に想いを馳せても共通の話題は見つかりそうになかった。

 そこで蜜花は思い出す。先日、林檎のバンズクリップを拾って貰った時のことを。彼は確か”インテリを目指している”と言っていたはず。


 ──やっぱりここはホットな話題ってやつで盛り上がらないとね。


 彼は親友の好きな相手。そして自分の片思いの相手でもある。

 想いを告げることができなかったとしても、仲良くなりたいと思うのは自然だろう。

 

 ──ホットな話題か……しかも頭良さそうなヤツ……。

 昼にSNSで見たニュースは。


「報復攻撃についてどう思う?」

「え」

 ”しまった。話題選びを間違ったか”と思ったが後の祭り。

 どう考えても盛り上がりそうな話題ではない。

「柊木さんは何か報復攻撃をしたい相手でもいるの」

 眉を八の字にした彼は明らかに困り果てているように見えた。

「何があったか分からないけれど、穏便に話し合いで解決した方がいいと思うよ?」

 最もな助言である。

「あ、いや……そうではなく。例えば二国間にこくかんでね」

「ああ。そういう話か、びっくりしたよ。柊木さんって結構、物騒なこと言うんだなって思って」

 『わたしは平和主義!』と軽く両手を挙げて見せるが、物騒な発言をしたせいか疑いの眼差しを向けられてしまった。


「真面目な話。俺は、攻撃も報復攻撃も無関係な人を犠牲にする愚かな行為だと思うよ」

 紅の穏やかな声。話の内容はシリアスだが、彼の声は心地よい。

「戦争では確かに兵士同士が殺し合いをする。でも彼らはそんなこと望んでないと思うんだ。そしてその戦いの中では武器を持たない一般人も犠牲になるよね」

「確かに、そうね」

「戦争を起こした人は無傷なのに」

 愁いを含んだ瞳。数度瞬きし、蜜花に向けられる。

「いつだって愚か者の犠牲になるのは平和を心から望む人たちだよ」

 蜜花は同意を示すようにゆっくりと瞬きしながら頷く。

「人間には言葉があって意思の疎通もできるのに、どうして愚かな人が国のトップになるのだろうね。どうして人は助け合って生きることができるのに、それを壊そうとするのだろう」


 愚かな者は安易な富を求める。

 他人を犠牲にした富は、いつか無価値になるとも知らずに。


「人が潤うのは、たくさんの人がいて助け合って生きているからだと思うんだ。日本は働き手が不足しているよね。世界でいつまでも戦争をしていれば、人口は減って、どこでも働き手が不足する事態になっていくだろう」

 結果、物不足になっていく。誰にでも分かることだ。

 つまりいくら金を積んでもモノが手に入らない世の中がやってくる。

 それは遠い未来ではない。近い将来。

「それでも俺たちは、愚か者が支配するこの世界で生きていかねばならない。辛いね」

 苦笑いを浮かべる彼。

 愛しい彼が心から笑えるように世界平和を願ってみても、きっとこの世に平和は訪れはしない。蜜花はなんと返していいのか分からないままに紅を見つめる。

 すると、蜜花の視線に気づいた彼がニコッと笑う。なんだか嫌な予感がした。


「ところで、有馬と一緒にお昼したって聞いたんだけど」

 話題を振ってくれるのは嬉しいが、正直有馬の話題は避けたい。

 誰に聞いたのだと質問するのは藪蛇やぶへびだろうか?

 ここは無難な返事をしたいと思った蜜花は、端的に『うん』と頷いた。

「そっか。有馬とは仲良くなれそう?」

 できればあまり仲良くなりたくはないが、仲のいいフリをしようと持ち掛けたのはこっちだ。変なことを言ってしまっては大惨事。

「ど、どうかな。いい人だとは思う、うん」

「有馬は……そうだね。いいヤツだよ」

 紅の”間”が気になったが、余計なことは言うまいと決めた蜜花はあえて追及はしなかった。

「わたしは青城くんと仲良くなりたいな」

「俺と?」

「あ、えっと。青城くんとも」

 本音が漏れてしまい、慌てて言い直す蜜花であった。

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蜜と林檎と片想い crazy’s7 @crazy-s7

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