都市伝説「〇〇婆」を体験!?


「運転中に急に足が動かなくなったのは初めてのことで驚いた。でもそのあとは、何事もなくふつうに運転できたから、用心しながらホテルまで運転した。

 結局、足が動かなくなった原因はわからないままだった。ホテルの部屋で歩き回ってみても違和感はないし、皮膚に異常があるわけでもない。物が乗ったように感じた足の甲に触れても痛いということもない。

 異変があったのは1回だけだから、たまたまだったのかも――と片づけたよ。

 むっ! このハンバーガー、うまいっ!」


(「うまい」じゃねえだろっ!)


 姉貴が危うく事故りそうな経験をしていてぞわっとした。無事だったことに安心した矢先に、すっとんきょうな台詞せりふがでてきて、ちょっとイラっとした。


 姉貴は会話の合間に非日常的な話を差し込んでくることがある。ところが本人は日常のちょっと変わったことくらいにしか思っていない。聞いているほうは、そんなことがあったのかと驚いたり、無事だったことにほっとしたりと感情を大きく動かされる。


 この話もここまでだったらよかった。


 でも――


 姉貴の話にはオマケがついてくる場合が多い。さっきの話には続きがあったんだ……。




「体験した当時はね、ずっと運転してたから疲れてて、一時的に足が動かなくなったんだろうな~って思ってたんだ。でもねえ、あとになって知ったことがあるんだ。

 島のどこか……。ちゃんとした場所はわからないけど、夜に運転していると老婆の幽霊が現れて事故らせる――。そんな都市伝説を聞いたことがある。

 ずっと忘れていたけど58号線 ゴーパチ を通っていたらふと思い出したよ。

 何も見えなかったけど、あのトラブルは実は伝説のばあちゃんがやっていたんだったから怖いよね」


――と笑いながら恐ろしいことを言ってきた。


 むぎゅむぎゅとバーガーを食いながら、さっきそこでマングースを見たよ的な軽い話し方に、ふつふつと怒りがわいてくる。


(さらっとこえぇコト言うんじゃねえよ! 都市伝説を実証したかもしれないんだぞ!)


 今後も使い続ける道のどこかに、ばあさんの幽霊が現れて運転の邪魔をするかもしれないという恐怖を植え付けられた俺の怒りに気づかず、姉貴はにこにこと幸せそうにバーガーを食い続けていた――。




 ドライブインのフィッシュバーガーに挑戦した姉貴を見て、前にドライブイン ココ で聞いた話を思い出してしまった。


 子どもときからだけど、ホラーな出来事を怖いと感じず、日常会話レベルで話してくる姉貴をはたきたくなるときがある。


(人を怖がらせていることに気づいていないって、わりとたちが悪いよな……)


 非難を込めて姉貴をにらんだけど、目が合った姉貴はバーガーをほおばりながら「うまい~♪」と嬉しそうに笑う。ハムスターのように頬が膨らんでいるのが面白くて怒りは失せた。






――― 『夜のドライブインで語り始めたのは』 了 ―――

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夜のドライブインで語り始めたのは 神無月そぞろ @coinxcastle

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