海沿いの老舗ドライブイン


「ロウ! もしかしてドライブインに向かっている!?」


「ん……」


「やったあ!」


 海沿いに老舗のドライブインがある。24時間営業しているのでいつでも行けるから姉貴のお気に入りだ。さっきまで沈んでいたのに、目をきらきらとさせて興奮した声で聞いてきた。


「まだ頼んでいない物を注文してもいい?」


「ん……」


「よおっっしゃ――♪」


 ご当地ものが好きな姉貴は島へ帰ってくると、訪れたことがない場所へ行ったり、食べたことがない物に挑戦したがる。あちこち行くから食べてみたい物は多い。


 でも一日で食べる量には限界がある。たくさん買って食べきれなかったり、ハズレを引いてしまうことだってある。そのときの処理班が俺だ。


 ドライブインへ着き、車を降りると姉貴はすっ飛んでいった。追いつくと、すでにいろいろ注文している。どれも1品ずつだが数が多い。


(俺の意見は聞かずに……。

 ったく、毎回だけど俺が食えなかったらどうするんだと飽きれるぜ)


 このドライブインはテイクアウトもできるので、いつもどおりテイクアウトにした。注文をしてから調理を始めるので少し時間がかかる。待っている間、姉貴はそわそわして落ち着きがない。


(呼び出しがあるから窓口を確認しなくてもいいのに、さっきから何度も見ている。子どもみてえだな)


 注文時に渡された呼び出し用の機械が鳴ると、姉貴は窓口へ走っていき、できあがった商品を満面の笑みで受け取った。


 車へ戻るとボンネットに袋を置いて袋の中をあさっていく。姉貴は商品を一つ取り出すと、嬉しそうに笑ってさっそく食べ始めた。


 フィッシュバーガーを一口食べると顔がほころんだ。どうやらうまいらしい。むぎゅむぎゅと食べていき、半分まで食べると俺によこした。


 続けてスープを口にした。一口飲んで驚いた顔をした。そのあとは、ふーふーと懸命に冷ましながら飲んでいく。3分の1くらい飲むとまた俺によこした。


(居酒屋でも食べてただろうに……。よく入るな)


 姉貴と出かけるとき、俺は今のような状況を想定して腹をかせていく。このあと、姉貴がちょっとだけ食べたシーサイドサンドとタコスボールを俺が受け取り、買った物はちゃんと食べきった。


 姉貴がお気に入りのドライブインは1967年創業の老舗だ。これまで多くの人がこの店を訪れ、それぞれ思い出があるはずだ。俺にとっても特別な場所で姉貴との強烈な思い出がある。


 今みたいに姉貴といたときに唐突に話してきた――。




「そういや前に58号線 ゴーパチ で不思議な体験をしたことがある」


 島に戻り、朝早くからドライブしていた。


 昼下がりには南部をドライブしていて、海に建つ御嶽ウタキを見に行った。御嶽ウタキは満潮になると海水に浸かってしまう位置にある。そのため干潮時にしか近くで見ることはできない。訪れたときはちょうど干潮だったので御嶽ウタキのある場所は陸地になっていた。


 潮が引いている海を進んでいく。この海には何度も来ているけど、そのたびに満潮だったので御嶽ウタキを見たことがなかった。ところが今回はすぐそばまで行くことができる。潮の干満で出没を繰り返す珍しい御嶽ウタキに到着して、まじまじと観察し始めた。


 御嶽ウタキは近くの岩と同じ色合いをしている。でも高さがあって石碑のようになっているから不自然さが際立っている。しかもけっこう大きいので干潮時だと目にとまる存在感だ。


 浸食されて読みづらいけど岩には御嶽ウタキ名が刻まれていて、固定された香炉が設置されているから聖地であることがわかる。


 この御嶽ウタキは島の神話で最初に女神が降り立った場所といわれてて、聖地巡礼のひとつになっている。そんな神秘的な御嶽ウタキの全貌を見てみたいとずっと思っていて、やっとで訪れることができて感動した。


 干潮じゃないと見ることができない御嶽ウタキをじっくり見て満足できたら、もう一つの御嶽ウタキへ行くことにした。


 次に行こうとしている御嶽ウタキは、干潮時にしか見ることができない御嶽ウタキと同じ海岸にある。島に降り立った天女が休んだ場所という神話が伝わる御嶽ウタキだ。


 ここの海は防波堤を越えると砂浜があって海へと続いている。その砂浜と陸地の間にはちょっとした雑木林がある。目的の御嶽ウタキは林の中に鎮座しているが、観光地ではないので整備されていない。そのため外から見ただけだとわからないような状態だ。


 御嶽ウタキへ行くには、砂浜から林の奥に続く舗装されていない踏み固められただけの道を通っていく。木々の間を抜けると雑草のない開けた空間が現れ、奥に草がからんだ石垣に小さなやしろが見えてくる。


 開けた空間は木々に覆われて涼しく、木漏れ日が輝いている。林の奥には大きな自然石があって荘厳で見とれてしまう。時の流れを感じさせない静かな空間は心地良くてずっと居たくなる。もう少し居たかったけど日暮れが近いことを思い出して御嶽ウタキをあとにした。


 日が沈むと、あっという間に暗くなった。景色を見ることができなくなったのでドライブは終了して宿泊するホテルに向かうことにした。


 夜は見通しが悪いから狭い道は危険だ。広い道を通ったほうがいいと判断して国道を使っていき、58号線 ゴーパチ に入った。しばらく58号線 ゴーパチ を走っていたら奇妙なことが起きた。


 スピードが上がってきたのでアクセルを踏んでる足を上げようとした。ところが足が動かない。それだけではなく足の甲に重さを感じる。ちらりと足元を見たけど足の上には何も乗っていない。


 前を走る車がないからは今はいいけど、早くスピードを落とさないと危険だ。焦りを感じてもう一度アクセルから足を離そうとした。ところがやっぱり足が動かない。


(やばい。なんか変かも――)


 そう感じた瞬間にいきなり足が軽くなった。すぐにアクセルから足を離してスピードを落とした。後方を確認しながら車を左に寄せて停車させた。


 車からいったん降りて助手席側から運転席下を確認してみた。物は落ちていないし、とくに変わった様子もなかった。


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