夜のドライブインで語り始めたのは
神無月そぞろ
本土から島へ帰ってきた
約束の時間を10分過ぎても来ない。予想はしていたけど――。
車を降りて居酒屋へ向かいながらスマートフォンで電話をかける。コール音が鳴ったまま出ない。スマートフォンをポケットにしまって店のドアを開けた。
店内は食べ物と酒のにおいが充満し、楽しそうに話す声が飛び交っている。入り口にいると店員が来て案内し始めたので人を迎えに来たと言うと残念そうな顔をした。入ってすぐに目的の人物を見つけていたので、迎えがきて外にいると店員に伝言を頼んだ。
外で待っていると店のドアが開いて男女が出てきた。
「送るよ」
「迎えがあるから大丈夫」
「じゃあ、迎えがくるまで一緒にいるよ」
男は女に気があるのだろう。うまいこと言って一緒にいたがっている。
(またかよ)
見慣れた光景なので驚きはしない。早く車に戻りたいので声をかけた。
「まだか?」
聞こえるように少し大きな声で言うと男は驚いて俺を見てきた。その横にいた姉貴はほっとした表情になった。
「待たせちゃって、ごめん」
姉貴が俺のほうへ歩き始めると、男は「じゃあ、またな」と言って、そそくさと店へ戻っていく。姉貴が「みんなによろしく」と返すと愛想笑いを浮かべて店に入っていった。
男が去ったのを確認して車へ向かい始めた。後ろには姉貴がついてきている。
「ロウ、怒ってる? 待たせて……ごめんね?」
声がどんどん小さくなり、申し訳なく思っているのが伝わってくる。でも俺の機嫌が悪いのは待たされたからじゃない。その前からムカついている。
今日は姉貴と出かける約束をしていた。それなのに姉貴は予定変更して飲み会に参加した。出かける前に姉貴が話してたときの様子から状況は想像できた。
かけてきた電話の相手は姉貴がひさしぶりに島に帰ってきているのを知って連絡してきた。飲みに誘っているようで、姉貴は「用事がある」と言って断っていた。それでもしつこく誘っていた。
通話は数分続いた。ラストらへんでは、もう人も呼んでいるから来ないと困るみたいなことを言われたようだ。根負けした姉貴は2時間だけと言って飲み会へ行った。
なかなか会えない友人が島に帰ってきたとなると、それだけで出かける言い訳ができる。姉貴は飲み会をするだしに使われたわけだが、本人は気づいていないから利用するやつらに腹が立つ。
「ひさしぶりに会いたいっていうから行ったけど、あまり話せなかったなぁ……」
車へ向かっている間、姉貴が小さな声でこぼしたので、よけいに呼び出したやつらに腹が立った。
(姉貴は人が良すぎる! もっと――。
いや、姉貴が悪いわけじゃねえ。性格が悪いやつらがいるってだけだ)
車に到着して運転席に乗り込むと助手席に姉貴が座った。しょぼんとしていて申し訳なさそうにしている。
姉貴は本土の大学に進学した。島めぐりをする前に島を出た反動からか、帰ってくるたびにあちこちドライブに行く。姉貴が訪れる場所は独特なうえに、1か所にかける時間が長い。そのため人と一緒だとゆっくりできないのが気になるようだ。そこで困る手段を取るようになった。
姉貴は自分のペースで島めぐりをしたいからと、島へ帰る予定ができても事前に連絡しなくなった。それどころか島に到着して数日経っても居ることを知らせないことがある。そのことに気づいて連絡しろと言ったけど、こっそり帰ってくることが多い。
連絡をしたがらない気持ちもなんとなくわかる。姉貴が島に帰ってきたことが知られると、とたんに会いたいという連絡が増える。そうなると島めぐりをする時間が減ってしまう。だから正式な日をあまり言いたくないんだろう。
(今回は珍しく事前に連絡をよこしたから一緒に出かける予定をしていたのに……)
いつも明るい姉貴が黙っている。強引に誘われてやむを得なく出かけたけど、友人たちとあまり話せなかったのが心残りなうえに、俺との約束を破ったことに後ろめたさを感じているんだろう。
(このままだと、よけいに連絡するのをしぶるかもしれねえ。
俺にまで影響がでるのは困る!)
落ち込んでいる姉貴の気分を上げるところへ行くことにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます