第4話 スーパーGT第1戦 岡山

 4月半ば、およそ1ケ月の休みを経て、またレースシーズンが始まった。休みといっても朱里はのんびりしていたわけではない。各カテゴリーのテストに忙しかった。だが、日本国内にいるので体力的には楽であったことは確かである。

 今年、スーパーGTの予選の方式が大幅に変更になった。今まではQ1で台数をしぼり、Q2で順位を確定させていたが、全車がQ1・Q2両方を走ることになった。よって、全ドライバーが予選に関わり、タイムは合算となりポジションが決まるのである。

 それでポールポジションはT社の36号車、2位もT社の39号車、どちらもT社のファクトリーである。3位は新車を投入したH社の100号車、昨年SUGOで大事故にあった山元がドライブしている。朱里が乗るチャンピオンマシンの1号車は4位に位置している。

 レースは早くも1周目に波乱が起きた。17号車が14号車と事故を起こし、コース上に止まってしまい、セーフティカー(SC)導入となった。14号車が第1コーナーで接触し、その後スピンしたところに17号車が追突してしまったのである。12号車が14号車に接触し、14号車のスピンにつながり、17号車がそこに追突したのである。SCがピットインしてレース再開となった際に2台はピットインし、修理を行っている。

 15周目、山木は3位の山元をプッシュしている。山元は新車なので、まだコントロールができていないというか、熟成されていないという感じだ。コーナーでの立ち上がりがやや遅い。GT300のマシンも間に入り、走りにくい。それでも山元は元チャンピオン。マシンをうまくコントロールし、3位をキープしている。だが、18周目、GT300のマシンに山元がふさがれた。そのスキを見逃さずに、山木が横に並び、次のコーナーでインをとった。コーナーの立ち上がりは山木の方が速い。山木が3位ゲットである。そして2位の39号車にせまる。

 50周目、ドライバー交代が始まった。残り32周である。後半は女性ドライバーの登場である。まずは、山木が山元が引き連れてピットインしてきた。山木から朱里に代わる。ところが、ここでトラブル発生。右前輪のメカがナットを落としてしまった。すぐに拾って装着したが、0.5秒の遅れが生じた。その遅れで、ピットアウトしていた100号車の後ろになってしまった。せっかく山木が得たポジションをピットインで失ってしまった。よくあることだが、あってはならないことだ。

 でも、朱里は過ぎたことと割り切ってステアリングを握る。だが、100号車に離される。ドライバーはリリアだ。ヨーロッパに帰らずに日本に残った。後で聞いたことだが、

「 I can't back if I lose to Shuri . 」

(朱里に負けたままでは帰られない)

 と言っていたそうだ。気合いの入り方が違う。

 65周目、GT300のマシンがコーナーで接触し、1台がコースアウト。コースにもどろうとしたら、ゼブラのでこぼこに腹をこすり亀の子状態になってしまい、フルコースイエロー(FCY)がでた。60km走行をしなければならない。2位の39号車とリリアの100号車の差がほとんどない。

 66周目、トラブル車両は安全地帯に移動され、FCY解除。リリアが39号車にせまる。39号車も必死に逃げる。昨年からT社に乗っているクリスだ。彼女もヨーロッパに戻らず、日本でがんばると言っていた。

 朱里は2秒差でリリアを追う。なかなか差はつまらない。GT300のマシンがうようよいる状態で、思うようなラインがとれない。岡山は直線が短いので抜くのは結構神経を使う。ピットからは「Keep」の指令が出ている。初戦から無理をする必要はないとチームは考えたようだ。

 ファイナル。リリアには5秒の差をつけられた。ポジションキープとはいえ、追い詰めることができなくて、朱里にとっては消化不良のレースとなった。メカのミスが原因とはいえ、人のせいにはしたくなかった。だれかがミスをしたら他のメンバーがカバーする。それが本来のチームの姿だ。だが、ピットにもどるとその担当メカは目を赤くしていた。次回はそんなミスはしないだろう。なんと言っても昨年のチャンピオンチームのメカだからだ。

 ランキングは、予選のポイントも含めて

 1位 T社 36号車 23P

 2位 T社 39号車 17P

 3位 H社100号車 12P

 4位 T社  1号車  8P

 5位 T社 38号車  6P

となった。予想どおりT社のファクトリーマシンが強かったと言える。だが、2戦目以降はサクセスウェイトを積むことになる。開幕戦で勝ったマシンは年間チャンピオンになれないというジンクスもある。朱里は表彰台に上がれなかったが、次戦のWECに気持ちを切り替えていた。

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