続 スーパーGTに女性ドライバー登場

飛鳥 竜二

第1話 シーズンイン前

 朱里はあわただしいシーズンオフを過ごしていた。所属しているTMR-Eの事務所にT社の社長がやってきたのが発端だった。T社の社長はTMR-Eの会長でもある。実質のリーダーである副会長の中須賀も立ち会っている。

「朱里さん、来シーズンですが、SF(スーパーフォーミュラ)でも走ってみませんか。今度T社で新しいチームを作ることになり、ドライバーを探しています。その第1候補に朱里さんがあがったのです」

 朱里は野島パパの顔を見た。だが、野島パパは何も話そうとしない。目でもって、

自分で考えろ。と言っている。

「日程的には大丈夫なのですか?」

「SFの日程はWECとスーパーGTとかぶってはいません。もちろん、国際線での行ったりきたりは忙しくなりますが、朱里さんには実績がありますから心配はしていません。それにF3をやっていた朱里さんならレベルアップになりますし、将来F1を目指すならば、いい経験になると思いますが・・」

「確かに将来的にはF1にのりたいとは思っていますが・・・」

「それならば、ぜひSFに乗ってください。ね、元F1ドライバーの中須賀くんはどう思いますか」

「たしかに箱車とフォーミュラカーは違います。朱里さんは若いのでフォーミュラの感覚を忘れない方がF1に乗るためにはいいと思います。WECには全戦参加でスーパーGTは2戦欠場になりますが、そこはリザーブメンバーがサポートしてくれると思います」

 と中須賀も後押しをする。そこで、朱里は覚悟を決めた。

「わかりました。どこまでやれるかわかりませんが、日々修行です。やってみます」

 と言うと、野島パパも微笑んでいた。

 契約となり、年間の計画を立てた。

 2/20~21 SF テスト  鈴鹿

 2/24~25 WEC 合同練習 カタール 

 3/2     WEC 第1戦  カタール

 3/8~10  SF  第1戦  鈴鹿

 4/13~14 GT  第1戦  岡山

 4/21    WEC 第2戦  イタリア・イモラ

 5/3~4   GT  第2戦  富士

 5/11    WEC  第3戦  ベルギー・スパ

 5/17~19 SF  第2戦  オートポリス

 6/1~2   GT  第3戦  鈴鹿

 6/10~16 WEC 第4戦  フランス・ルマン24h

 6/21~23 SF 第3戦  SUGO

 7/14    WEC 第5戦  ブラジル・サンパウロ

 7/19~21 SF  第4戦  富士

 8/3~4   GT  第4戦  富士

 8/23~24 SF  第5戦  MOTEGI

 9/1     WEC 第6戦  アメリカ   ※GT鈴鹿不参加

 9/15    WEC 第7戦  日本・富士

 9/21~22 GT  第6戦  SUGO

10/11~13 SF  第6戦  富士

10/19~20 GT  第7戦  オートポリス

11/2     WEC 第8戦  バーレーン  ※GTMOTEGI不参加

11/8~10  SF  第7戦  鈴鹿


 全21戦の強行日程である。WECチャンピオンの平田もかつてこのスケジュールをこなしたことがあるというが、時差ボケを直すのが大変だったということを聞いた。日本からヨーロッパに行く西行きはいいのだが、逆がつらい。日本時間にいかに合わせられるかがキーポイントだ。もっとも昨年も何回かは経験しているので、どうすればいいかはだいたい予想できる朱里であった。

 翌日から、厳しいトレーニングが始まった。野島パパの監督で、コーチ陣がきつい。体力をつけなかければということでウエィトトレーニングや体幹トレーニングが続く。走りは冬場なので、シミュレーションが中心である。走るサーキットを連日シミュレートした。

 そんなある日、中須賀が一人の女性を連れてきた。

「朱里さん、今年専属のマネージャーをつけます。福島凛さんです」

 と紹介した。今まではカテゴリー別にマネージャーがいたが、全てのレースのマネージメントをしてくれるというのはありがたいと朱里は思った。

「福島です。よろしくお願いします」

「こちらこそ」

 とその日は軽いあいさつで終わった。

 後でわかったことだが、彼女は外語大在学中に世界を放浪旅をし、卒業後はラリーの世界に入り、ダカールラリーのコ・ドライバーもしたことがあるという。それでTMR-Eのラリー部門にスカウトされ、日本人ドライバー勝山のマネージャーをしていたとのこと。英語・フランス語・ドイツ語・スペイン語・イタリア語を理解し、世界を転戦するには心強い仲間となる。年齢は不詳だが、20代後半だろうか。大柄な体で、福島の後ろに朱里が立つとすっぽり隠れてしまう。そういう意味でも頼れる存在となりそうだ。

 一人さびしい顔をしている人間がいた。野島パパである。今までは彼が朱里の専属マネージャーだった。でも親子ゆえにあつれきもあり、口をきかない時もあった。そういう二人を見て、中須賀が専属マネージャーを見つけてきたのだ。そのことは野島パパも充分理解している。日本にもどったら、腰を落ち着けることを心に決めたのである。

 それともうひとつ大きなニュースが入った。FIAがルール改訂をし、

「耐久レース等で、2人以上のチームを構成する場合、同性のメンバーは認めない。同性のチーム構成の場合は1戦につき5ポイント減とする」

 ということである。今まではタイムのハンディがあったが、見た目の順位と変わってくるので、その混乱を避けるために、ポイントでハンディをつけようということだ。この決定は、多くのチームから歓迎された。ほとんどのチームが男女混成のチームになっていたが、タイムハンディを考慮した作戦をたてなくてよくなったからだ。


 2月半ば、鈴鹿でSFのテストが行われた。初めてのSFのドライヴで朱里はコントロールミスでマシンを壊してしまった。気温が11℃と低いこともあり、タイヤがあたたまっていないところで、デグナーカーブの立ち上がりで滑り、イン巻き状態で右のガードレールにぶつかってしまったのだ。フロント部分を交換してアタックをしたが、気持ちの面でもマシンへの不慣れもあり、結果は最後尾の1分39秒963という結果になった。同じマシンに乗っているチームメイトの山木のタイムは1分37秒507。2秒以上の差がある。山木はスーパーGTで朱里と組んでいるベテランだ。昨年まで所属していたチームから離れ、新しいチームにトレードされてきている。トレードされたのはドライバーだけではない。メカの半数もやってきた。山木も心機一転、SFでのチャンピオン復帰をめざしているのだ。

 朱里は思うようにいかなかったという傷心のまま、関西空港からのヨーロッパ行きに飛び乗った。カタールでのWECの走行会がすぐである。

 

 

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