第6話 スーパーGT第2戦 富士

 5月初め、富士でのスーパーGTが始まった。五月晴れの中、予選が始まった。今回朱里がQ1ドライバーを任されることになった。これはエースドライバーの山木の意向だ。

 Q1開始。朱里は果敢に攻めるが、いかんせん16kgのサクセスウェイトが影響している。思うようにスピードがあがらない。前回の岡山で上位入賞したマシンは軒並みタイムを落としている。なんと言っても富士はパワーサーキット。1500mもあるロングストレートを制するマシンが強いのだ。

 前回優勝のT社36番山上でさえ11位に入るのがやっと。朱里は結局トップから0.6秒遅れの10位に終わった。トップ3はサクセスウェイトを積んでいないH社のマシンが並んだ。今年デビューしたニューマシンである。熟成されていないマシンが上位にきたのは脅威だった。

 Q2が始まった。エースの山木はゆっくりコースに出ていく。今回は3時間レースなので、予選のポジションをあまり気にしないと朱里に言っていた。それよりもスタートではくタイヤをいためないように走るとのこと。朱里が出した10位のポジションを守ることを目標にでていった。

 Q2の結果はH社の17番塚田がQ2の3番目タイムを出し、トータルでトップに出た。2位と3位にはN社のマシンが入った。3位の23番千田がベストタイムの1分27秒077をだしていた。ちなみにQ1最速はH社17番大木の1分26秒709である。山木は1分27秒780で、目標どおり10位におさまった。


 決勝。富士3時間レースの開始である。スーパーGTでは初のタイムレースである。規定では2回の給油と1人のドライバーが1時間以上ドライヴしなければならない。山木は朱里と相談して、スタートを朱里に任せ、1時間過ぎたところで山木にチェンジを考えていた。万が一のためにリザーブドライバーとして庄野がバックアップしているが、よほどのことがないかぎり、庄野の出番はないと思われた。

 気温23度、路面温度41度、5月にしては暑い日となっている。

 ローリングスタート。朱里はおもいっきりアクセルを踏む。スタートダッシュはうまくいった。第1コーナーからダンロップコーナーまでは下りが続くので、サクセスウェイトはあまり関係がない。コーナーごとに前のマシンを抜き7位まで上がった。T社勢ではトップにでた。ピットでは山木が歓声とも悲鳴とも思えぬ声をあげている。

 10周目あたりからGT300との混走になってきた。朱里は6位のH社100番リリアにせまるが、GT300がじゃまで抜けない。こうなるとがまん大会である。

 17周目、FCYが発せられた。第2コーナーでGT300のマシンがトラブルでストップしたのだ。FCYは60km規制、ピットには入れない。

 18周目、FCY解除。そのタイミングで朱里はリリアを抜きに行った。第1コーナーでのブレーキング勝負に勝った。6位にポジションアップである。ピットでは山木がまたもや歓声をあげている。あと30分でドライバー交代だ。

 33周目、朱里は5位に上がった。上位の1台が早々にピットインしたからだ。ファーストドライバーが2スティント目も走るならば、早めのピットインもありうる。

 36周目、またまた上位陣のピットインで3位にあがる。H社の上位マシンはピットインを済ませた。朱里の前にはN社の2台がいる。

 39周目、N社のマシンもピットインに入る。朱里は暫定トップに入った。だが、もう交代時間がせまっている。

 40周目、朱里がピットに入る。ドライバー交代と給油とタイヤ交換だ。フルタンクにした。タイヤはハードを選択した。もしかしたら次のピットインでタイヤ交換なしがありうるかもしれない。ピットレーンタイムは1分26秒982。GT500の中ではもっとも長い時間をかけてしまった。しかし、これも戦略である。朱里は交代時に山木から

「よくやった。FCYあけのアタックは見事だったぞ」

 と声をかけられていた。

 41周目、山木は10番手を走っている。ここからが追い上げだ。

 60周目、山木は9番手に上がった。そこからはまさに耐久レースでたんたんとすすむ。山木は燃費を考慮して無理な走りはしていない。2回目のピットインをできるかぎり短い時間にしたいからだ。

 81周目、山木は2回目のピットアウトをして、7位に上がった。タイヤ交換はなし。給油もフルタンクにしなかった。

 82周目、うしろからH社100番がせまってくる。H社のマシンはストレートが速い。山木はおさえるのに必死だ。

 その頃、朱里はコース脇のホテルでシャワーを浴びていた。自分の役割は終わり、万が一の場合はリザーブの庄野が走ることになっている。1週間後にはWECのスパ6時間が待っている。明日の飛行機でベルギーに飛ばなければならない。

 シャワーを浴び終わって着替えをしてピットにもどる。ツナギは脱いだがチームのポロシャツは着ている。もし表彰台にあがることがあれば、すぐにツナギに着替えなければならない。

 100周目、残り30分。山木は6位のN社にストレートで並ぶ。コーナーで並走して左のコカ・コーラコーナーでインをとった。6位にポジションアップである。5位は同じT社の36番。第1戦の優勝マシンだ。

 111周目、3位を走っていたH社8番が脱落。ギアボックストラブルだ。これで山木は5位にアップ。

 114周目、残り5分というところで山木にアクシデント発生。バリバリ、ガリガリという音とともに、マシンが左グラベルに滑る。高速コーナーの300Rで左後輪がバースト。マシンコントールを失ってしまった。タイヤバリアにぶつかってマシンは止まってしまった。

 ピットでモニターを見ていた朱里と庄野は思わず両手で口をふさいでしまった。これでレースは終わってしまった。山木は無事だ。それだけが救いだった。

 トップはN 社の3番。予選2位からトラブルなく上位を走り続けた結果である。

 山木は声なくピットにもどってきた。朱里も声をかけることができず、ピットを去ることになった。2週間後のオートポリスのスーパーフォーミュラで元気な山木に会えることを期待して機上の人となった。

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