第5話

「しかし、あれだな」

「なによ?」

「さっきはアウトオブ眼中とか言ってくれたけどさ。……、昔っぽい言い回しをするなら、憎からず思ってくれてんじゃないの?ササキは、オレのこと。これだけ親身に話を聞いてくれたって事はさ」

 オザは飽くまでも冗談といったていをとってササキに言う。

「はぁーーーー、マジキモいんですけど」

 深いため息と共にササキが吐き捨てると同時に部室のドアがガチャリと開いた。

「わりぃ、待ったか、ユウ……コ」

 そう言いながら入ってきたのは山田だ。ササキのファーストネームを言い終わらない間にオザの姿を見つけて、その親密な呼び名を言い澱む。

「なんだよ、オザ、まだいたのか」

 山田は取り繕うようにオザに声をかける。

「ううん、オザがいたから、待ったって感じはないよ。ずっと喋ってた」

「そうか。じゃ、行こうか」

 山田はササキユウコと目を合わせながら親しげに話し、オザとは目線を合わせないままに部室を出ていく。

「ね?私がオザを好きかもっていうアクロバティックな展開はやっぱりなくってさ。山田パイセンと私が付き合っているっていう予定調和はムリが無くていいと思わない?」

 悪戯っぽくウィンクしてササキユウコは部室から出ていく。

「あ、物語の習作として今日の事をモチーフにしてもいいよ。とりあえず、一本書いてみて。書き切るって大事だよー」

 そう言い捨てて、ササキユウコは出て行き、バタンと音を立ててドアが閉まる。


 オザは誰かが飲み残したまま置いて行ったペットボトルのコカ・コーラのキャップを捻る。僅かにプシュっと音を立てたそれを口に運び、一口含む。

「マズっ……」

 一言悪態をついた後、オザは中のコーラを一筋の煙を上げている灰皿に注ぐ。そして、残り一本となった誰かのタバコを咥えて火を点ける。

「マズっ……、こんな味だっけ、コレ」

 天井を見上げ、フーっと肺の中の煙を吐き出す。


「山田パイセンとササキユウコの必然……、か……」

「ってか、アイツ、ユウコって名前だったのか……」

 灰皿の中のコーラに浮いている一本の吸い殻についている口紅の跡を見つめながら、オザは呟いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

スモーキン’フィクション ハヤシダノリカズ @norikyo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ